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あおい糸

作者: 嵩元
掲載日:2025/11/25

「これ、オマエん分」


俺は目の前で寝ぼけた顔してる親友に缶コーヒー投げつけてやった。


「サンキュ。っこれ苦いやつじゃん!わざと!?」


そう言ってアイツはいやそうにもしながら楽しそうに笑った。


_______________

_______________






 そんなどこにでもあるような思い出が頭の中によみがえってきた。

なんてことのない普通の人生に、普通の友情。

普通に楽しかったし、アイツ,ユウガとの時間は大切な思い出になっている。

ふと気になった。

アイツはどう思っていたのだろうか。

ベッドの上で考えた。

この頃アイツをみない。

どこで何をしているのか。

たまにメールを交わすことはあるけどきちんと話していない。


[最近何してる?]


[明日学校来れる?]


メールにそう打ち込んで消した。

ユウガは最近学校に来ていない。

何が理由かは分からないが…

この頃アイツのことばっか考えている気がする。

何日も何日もしばらく会っていなかったのに,急に気になった。

アイツの周りに何かあったのか?少し前に、家にお邪魔したときは家族みんな元気で小さな妹たちに振り回された。

考えても何もわからないので、スマホの電源を切ってベッドに放り投げて自分の頭を枕に突っ込んだ。

静かな部屋にテレビの音がひびいている。

テレビを消してそのまま眠りについた。



_______________

_______________




「やっべ‼︎」

起きたら次の日になっていた。


(やべえ遅刻!)

とは思いながら遅刻は慣れたもんだからさっさと準備してなんとか間に合った。

(俺って全日本朝早く準備する選手権みたいなのあったらかなり上位になれるんじゃないか?)

とか馬鹿な事考えながら教室に入った。


「おお、アオおはよ」


「ギリギリじゃん。寝坊した?」


クラスの奴らが声をかけてくれるのに返事しながら自分の席に着いた。

後ろの席を見るとユウガはやっぱりいなかった。


「おはよ!今日テスト返しだよ!」


クラスのムービーメーカー女子のヒナが話しかけてきた。相変わらずのにっこにこの笑顔。


「おは!えっ今日テスト返し!嘘だろぉ…」


「嘘言ってどうすんの…。ていうかユウガはずっと来てないけど大丈夫なん?」


「さぁ…」


ヒナは幼馴染で、しょっちゅう絡んできてからからかってくるような奴だが、なんのかんの言ってユウガを心配しているみたいに優しいところがあるやつだ。


「あ、センセきた」


ヒナはそう言って自分の席に急いで戻っていった。

チャイムがなり、テスト返しが始まった。


………


 テストはそれはもうひどかった。

とても親に見せられないので隠しておこうと決意を決めた。


そのあとはショックを受けながらも適当に過ごし、学校が終わった。

ヒナに絡まれる前に帰ろうと靴箱に向かい、いそいそと歩いて家にむかった。

ユウガはいないので一人で帰りながら思った。

(勉強しないとな…。でもやる気でないんだよな…)

そんなことを考えて、独り歩いていた。

辺りはしんとしていて自分の足音だけがきこえてくる。

あまりにも静かだったため、もう一つの足音に気付いた。

そのとたん自分が何を考えていたのか忘れた。顔を上げると見慣れた顔があった。

黒いジャケットにジーンズという普通の私服を着ていて少しやつれて見えた。

ユウガだった。


「ユウガ……」


「びっくりした、アオか、久しぶり」


ユウガは、ぱっと顔を明るくしていつものようにのんびりした声で言った。


「久しぶり…」


「久しぶりだね…」


聞きたいことはたくさんあったのにいざ会ってしまえば何も言えなかった。


「みんな元気?」とユウガ


「ああ」


それだけでまた沈黙がおとずれる。気まずくなる。


「それじゃあ俺はこれで」


ユウガがそう言い、立ち去ろうと背を向ける。

歩き出そうとしたところで俺は慌てて声をかけた。


「ユウガ!」


ユウがが振り向く。


「えっと………なにかあった?」


「……何もないけど」


「それならいいけど…」


「じゃあ」


といい今度こそユウガは立ち去った。

ユウガがいなくなって誰もいなくなった路地を俺はしばらく見つめていた。


『……何もないけど』


ユウがのあの言葉。

その言葉の裏でユウガは寂しそうな、悲しそうな、そしてつらそうな表情を一瞬だけどしていた。

そもそもユウガはここで何をしていたのか。

考え出したらきりがない。

とりあえず家に帰ろうと歩き出したところで、また別の見知った顔を見つけた。しかし今度は厄介なことに逃げていたヒナだった。


「アオ!先に帰っちゃうなんてひどいよー!」


普段一緒に帰ったことなんて一度もないのにそんなことを言い出す。

なんだコイツと思って顔を見れば、急に表情を変えて、


「今一緒にいたのってユウガ?」


見られてたか。正直に頷く。

ヒナは密会してるのなら言ってよーとか馬鹿なことを言っていたがまた表情を真面目にして、


「ユウガさ、最近連絡もしてくれなくなったんだよね。既読すらつかない。何か知ってる?」


と聞いてくる。それは俺も聞きたい。


「俺も知らない。最近は連絡も取ってない。」


少し前までは既読はつくが返信が遅かった。ただ、今は全く連絡を取っていない。


「そうか。心配だな…」


 俺とアイツとヒナは幼稚園から一緒の幼馴染だった。

ヒナは、急になかなか会えなくなった幼馴染を本気で心配しているみたいだ。

これは俺の予想だが、ヒナはアイツのことが好きなんだろう。

好きなやつが学校に来なくなり、連絡すらとってくれなくなるなんてつらいだろう。

しばらくの沈黙の後、ヒナは真面目な顔でこっちを見て、口を開いた。


「アオにお願いがあるの」


ヒナは俺の返事を待たずに続ける。


「ユウガに会って話を聞いてほしい。この前ユウガの妹のコハルちゃんに会ったんだけどさ、泣いてて、どうしたのか聞いたらさお父さんもお母さんもいないっていうの。さみしいって言ってずっと泣いてた。詳しいことは分からない。」


初耳だ。何があったんだろう。

今日のユウガの様子を思い出した。


「お兄ちゃんしかいないって言ってずっと泣いてたの。」


そんなことがユウガの身におこっていたなんて…

何でアイツは俺に相談してくれなかったんだろう


「だからさアオ、ユウガに会いに行って、一緒にいてあげてほしい。私じゃあ……ね。ユウガにとってアオの存在が大切なの。だから会って寄り添ってあげて。」


沈黙


「苦しい時に寄り添ってくれる存在ほど嬉しいものはないよね…」


と、ヒナ


「分かったよ。俺もユウガが元気ないのはほっとけないし。でも、俺には心の支えになるようなことをしてあげれるような能力はないし、逆に不快な思いさせるだけかもしれない。」


「そんなことはないよ。」


それだけだが、ヒナの言葉は俺が考えていた、何かに気付かせてくれた。


「まあ、後のことは知らんけど。」


ニコニコの笑顔に戻って責任放棄する意味不明なやつ。

なんだコイツ

変な奴だと思ったが、それでもヒナは俺に何かを気付かせてくれた。

本当は自分も行きたいだろうけど、ユウガを思って、俺に任せた。

ヒナはユウガにとって今俺が一番必要だと言った。

それは本当かどうかわからないけど…

それにヒナは俺のことも考えてくれたんだろう。

俺だけでは、行く勇気がなかったが、背中を押してくれた。

ヒナにもきちんと感謝を伝えようと思った


そしてヒナは背を向けて元気よく言った。


「それじゃあよろしくねー!!」


…でもやっぱコイツはよくわかんないや。





_______________

_______________





 俺は走った。

ものすごい勢いでアイツを追いかけた。

走っている中で思った。

父親はいないし、母親もいない、小さな妹と二人。

学校にもこれなくなるような状況。

どれほどの孤独なのか。

考えればアイツが何もせず、休むはずはない。

さっきまでアイツは何をしていたのか。



…………



ユウガの家にたどり着いた。チャイムのボタンを押す。

家は静かで何も聞こえない。

しばらくするとユウガが顔を出した。


「ユウガ!」


ユウガが何か言いかけたのを遮る。


「入れてくれ!」



…………


無理やり家に入り込んだ俺はユウガの部屋にいた。


「…何しに来たの…」


「理由がなきゃ来ちゃいけないのかよ。」


「………………………そんなことはないけど。」


「だろ?お前に会いに来た。」


かっこよく決きめてやった。


「恥ずかしげもなく言えるよな。だけどコハルが寝てるから騒ぐなよ!」


「分かってるって。それよりゲームしようぜ!」


それから始まったゲームのバトル。

無理に話しかけるのも難しいし、俺だったらつらいことがあったらゲームをする。

テストで気分が悪さを指先に込めて、ゲーム内のユウガを撃ちまくる。

ただ残念なことに、コイツめちゃめちゃ強い!

悲しくなるほどぼこぼこにされて、悔しい思いをためていく俺。


「チッ」


「おい!マジでいつも通りだな。ここに来たのだって、俺に話があって来たんだろ?」


バレてるし、なんか悔しくなった。


「そうだけど!何話したらいいのかわかんなくなったんだよ!」


「話に来たんならきれるのやめてもらっていいですかね?」


おこられた。


「でも…いつも通りで気分が楽になった。」


ユウガは続けた。


「一か月くらい前に父親が亡くなったんだ、突然だったよ。急に病気になって、気づいたら…。それに続いて母親も倒れた。二週間くらい前かな。ストレスがたまったんだろうな。入院することになって…」


初耳、そんな大変なことがあったなんて…


「親戚も近くにいないから、今は俺とコハルの二人で過ごしてる。隣の家のおばさんがが夕夕食を作るの手伝ってくれたりしているけど、ずっとはいれないからさ。今は二人だけなんだ。」


ユウガは続ける。


「でもな、俺は、コハルを安心させてあげられるような立派なお兄ちゃんではないんだ。コハルには元気に楽しく過ごしていてほしいのに…。本当、俺は無力だ。」


ユウガはそう話してくれた。

ユウガの苦しみはわかった。

ただ、俺は思った。

それは違うと。

俺心の中で思ったことを文字に変換される前にしゃべりだしていた。


「ユウガ、それは違う。コハルにとって一番は、ユウガの存在だよ。ユウガがそばにいてくれる。自分に笑ってくれる。それが一番なんだ。前も会ったときコハルはユウガが近くにいるだけで、とてもうれしそうだった。ありのままでいいんだ。特別な何かがなくてもありのままのユウガでいいんだ。」


ユウガは目を開いて、固まった。


「まあ、これはさっきまで俺も考えていたことなんだけどな。」


俺はそう言って、ソファに座り直した。

これはあのバカがさっき気づかせてくれたことだ。

テストが悪くても、自然と仲間、ユウガの存在が支えとなったのだ。


「俺は…いろいろと考えすぎていたみたいだな…」


ユウガが静かに言った。


「ありがと。なんか気分がよくなった。確かに俺もずっと学校に行ってなかったりしてたけど、お前が会いに来てくれて、お前と少しだけでもあえて、なんか気分がよくなったんだよな。」


「やめろよ、照れくさい。」


「ㇷㇷッ、」


「笑うなよ!」



_______________


いつも通りの俺たち。

お互いがいるからこそ、心の支えとなる。

特別じゃなくていい。

ありのままでいい。

ありのままの俺たちが、必要なんだ。


_______________







それからの俺たちは、元気に過ごしている。

ユウガもコハルもすっかり元気で、元気に学校に通っていた。


「そういえば、来週母さん退院することになった。」


「本当!おめでと!」


「これ、お祝いの奢り」


さっき自販機で買った缶コーヒーを渡した。


「センキュ!ってこれブラックだし、わざとなの!?」



静かな通りは、俺の笑い声とユウガの文句の笑い声で朗らかな通りになっていた。

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