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その後も、司会の人から振られる質問に答えてトークしていき、客席とコメント欄が盛りあがった。
徐々にではあるが、ミヨリの緊張もやわらいでいく。
ひととおりトークを終えると、司会の人の指示に従って動き、ステージに用意されていたテーブルに綾乃と並んで着席する。
テーブルには、ゲームハードとディスプレイが設置されていた。背後にある巨大スクリーンには、二人分のゲーム画面が映し出されている。
ミヨリはコントローラーを握って、気炎を燃やす。
いよいよ本日の目玉イベントである、ゲーム対戦が幕を開ける。
対戦するゲームは、アビスソフトの過去作である『ダンジョンウェポン』だ。
:いよいよゲーム対戦か!
:くっ! 一体どっちが勝つんだ!
:この勝負だけは結末が予想できないっ!
:戦う前から勝敗は見えてますがwwww
:アビスはこれ狙って企画しただろwwww
:このダンジョンウェポンってどんなゲームなのん?
:キャラセレクトして制限時間内にレベル上げやアイテムや武器をそろえてボスと戦うローグライト系のゲーム(アビス信者)
:ソロプレイもできるけど、他プレイヤーとチームを組んで協力プレイもできる(アビス信者)
:難易度がアホみたいに高いから協力プレイがオススメ!(アビス信者)
:ソロは鬼畜すぎる! よっぽどプレイヤースキルが高くないとクリアできない!(アビス信者)
:今回ミヨリちゃんたちが遊ぶ対戦モードでは、選んだキャラ同士で戦うことになる(アビス信者)
:アビス信者のみんなが説明しまくっとるwwww
同士であるアビス信者たちがコメントで説明してくれたので、視聴者たちにもダンジョンウェポンがどういったゲームなのかが伝わったようだ。
綾乃とダンジョンウェポンで対戦することは事前に聞かされていたので、頭のなかで何度もシミュレーションを行った。そのせいで昨日の配信はボーッとしてしまうことが多くなってしまったけど。
自宅にあるダンジョンウェポンを何度もプレイして予習もしてきたので、準備はバッチリだ。
ミヨリは唇の片端を持ちあげて、隣にいる綾乃を見る。
「ムラサメちゃん。言っておくけど、これから始めるのはゲームじゃないよ? 殺し合いだよ」
「……いや、ゲームだろ」
:ムラサメちゃんが困惑してるwwww
:ていうか昨日の配信で言ってた殺し合いってこれのことかよwww
:意味がわかんなくて視聴者が「え?」ってなってたwww
:腹黒さんとツンデレちゃんも「え?」ってなってたなwwww
対戦モードを開始すると、ディスプレイにキャラセレクト画面が表示される。
綾乃はよく考えずに、脳筋キャラであるセンシを選択していた。
それを見ていたミヨリは勝利を確信すると、技量系キャラのサムライを選ぶ。
「この勝負、わたしの勝ちみたいだね、ムラサメちゃん」
「どういう意味だ?」
「ムラサメちゃんが選んだセンシは火力は高いけど、動きが鈍くて攻撃の出が遅いんだよ。対してわたしの選んだサムライは、センシほどの火力はないけど、動きが素早くて攻撃の出が速い。対人戦において、これは圧倒的に有利になるんだよ」
実際センシとサムライが戦えば、八割以上の確率で後者が勝利する。ダンジョンウェポンをやり込んだプレイヤーなら、誰もが知っている常識だ。
「戦う前からすでに戦いは始まっていたってことだね。そして情報を多く持っていたわたしのほうが、勝者になった」
:さすがだね、ミヨリちゃん!(大親友)
:ミヨリ様にはそこまで深い考えがあったのか!
:ムラサメちゃん、あんまよく考えないでテキトーにキャラ選んだっぽいからなwww
:ミヨリンがめっちゃドヤってるwwww
:なんかダンジョンを攻略してるときよりも、ミヨリちゃん熱くなってないかwww
対戦が始まると、サムライとセンシが対人戦用のフィールドである闘技場に召喚された。背後にある巨大スクリーンに、ミヨリと綾乃のゲーム画面が映し出される。
「それじゃあ、はじめるよ」
ミヨリはコントローラーを操作して、ディスプレイのなかにいるサムライを操る。まるで自分と一体化しているようにサムライが動き出した。対面にいるセンシのもとまで駆けていき、攻撃を仕掛ける。
ドゴッ!
痛快な音が響く。
それで吹っ飛ばされる。
画面内では……センシが振るった大剣が、サムライにヒットしていた。
「バカなっ!」
ありえない出来事を目にして、ミヨリは驚愕する。
:やっぱこうなったかwww
:うん! 予想どおりwwww
:突っ込んでったサムライが吸い込まれるようにしてセンシの大剣に吹っ飛ばされましたがwww
:まるで野球のホームランみたいだったなwwww
:期待を裏切らないミヨリちゃんwwww
「ま、まだ戦いは始まったばかりだよ。対人戦においては、相手の動きを読むことだって大切だからね」
一発もらって焦りはしたものの、どうにか笑みを取りつくろうと、ミヨリはサムライを操作して果敢に攻めていく。
ドゴッ! ボゴッ! ズギャッ!
……が、攻めれば攻めるほどサムライは叩きのめされて、ライフがガンガン削れていった。
:ミヨリちゃんの攻撃がぜんぜん当たらねぇwww
:さっきのドヤ顔講釈は一体なんだったのかwwww
:サムライのほうが動き速いのに、なんで負けてんだよwww
:センシは攻撃速度は遅いけど、大剣のリーチが長いからなwwww
:とはいえ、対人戦ではサムライのほうが有利なのは確かな情報だぞwww
:てことは原因はプレイヤーにあるwww
:ミヨリちゃんのプレイって、これどうなん?
:攻撃を仕掛けるタイミングがよくない(アビス信者)
:相手との間合いが悪い(アビス信者)
:回避が下手っぴ(アビス信者)
:全体的な立ち回りがいまいち(アビス信者)
:相手の動きをぜんぜん観察してない(アビス信者)
:これは下手です(断言)
:アビス信者wwwww
:おまいら容赦なさすぎだろwww
:少しは褒めてやれよwwww
:ボコられてる子をどうやって褒めろとwww
:がんばって褒めようと思ったけど、なんてこった! 良いところが一つもねぇ!
:ミヨリ様はゲームが上手くないと言われていたが、それが事実であることがここに証明されたwwww
:現実ではムラサメちゃんをエアコントローラーであんなに上手く操れてたのに、なんでゲームではこんなに下手なんだwww
:ていうかムラサメちゃんが上手すぎるなwww
:すぐにセンシの扱いに慣れてきたwwww
:ミヨリちゃんの動きを的確に読んでるっぽいwww
:ムラサメちゃん強いぞぉ! かっこいいぞぉ!(父より)
:おとん出てくんなwwww
:娘よりも推しを応援してるおとんwww
:あなたの娘さん推しにボコられてますがwww
:おとんムラサメちゃんの配信でも同じようなコメントしてるwww
「こ、こうなったら作戦変更だよ。ここはあえて『待ち』に徹するよ」
ミヨリは自分から攻めるのをやめると、サムライをセンシから引き離した。
ダンジョンウェポンでは、相手の攻撃をジャストタイミングでガードすればパリィが発動する。成功すれば相手は体勢を崩して、大きな隙が生まれる。
サムライが後退して距離を取ると、それを追いかけるようにセンシが迫ってきた。肉薄してきたセンシは、狙いどおり大剣を叩き込んでくる。
「いまだ!」
センシの大剣がサムライに直撃するタイミングを見計らって、ガードする。
次の瞬間、ステージの背後にあるスクリーンには、大剣でブン殴られたサムライの哀れな姿がデカデカと映し出されていた。
:距離を取ったと思ったら、なんもできずに殴られたぞwww
:なんだ今のwww
:おそらくパリィを狙ってたんだと思うwwww
:タイミングあってねぇwww
:ミヨリちゃん「いまだ!」→サムライが吹っ飛ばされるwwww
:ぜんぜんいまじゃないよwwww
:サムライがモロに殴られましたがwwww
:現実の戦いではあんなにパリィできるのに、ゲームだとパリィできないミヨリちゃんwwww
「……やっぱり待つのは性に合わないね。戦いは攻めていかないと」
:あえて待ちに徹するの即終了のお知らせwww
:パリィ失敗したからすぐに前言撤回したwww
:ミヨリちゃん攻めるのもできてないよwww
倒れていたサムライが立ちあがると、センシに向かって斬りかかる。
キィン、と甲高い音が鳴った。サムライの体勢が崩れる。
ミヨリは目を見張って固まった。
「なるほど。これがパリィか」
綾乃はセンシを操作して、身動きが取れなくなったサムライに大剣を叩き込む。またしてもサムライが吹っ飛ばされて、ダメージをもらった。
:パリィされたwww
:ムラサメちゃんがパリィを決めたwwww
:ミヨリちゃんができなかったことを、こうもあっさりとwwww
ミヨリはコントローラーを握る手に力を込めて、ムムッと唇を上向きに曲げる。サムライを動かして猛然と攻めていくが、またしてもパリィされて反撃を受けた。
:うめぇ!
:もうパリィのコツつかんだのかよ!
:やっぱムラサメちゃんゲームの才能あるな!
パリィをマスターした綾乃には、どんな攻撃をしても通用しなかった。一太刀さえ当てることができずに、ミヨリは敗北する。
その後キャラを変えて再戦するも、綾乃はすぐに操作キャラの扱いに慣れてしまうので、ミヨリは手も足も出ずに惨敗しまくった。
:さっきからミヨリちゃんが一方的に虐殺されまくってますがwwww
:キャラ変えてもぜんぜん歯が立たないwww
:ステージの巨大スクリーンにデカデカとミヨリちゃんがボコられる映像が流れ続けてるwww
:客席で見てるけど、さっきから笑いが止まらんwwww
¥10000:ムラサメちゃんもうやめてぇえええええwwww
:やめてと叫びながらスパチャ投げんなwww
:ミヨリ、あなたいま最高に輝いてるわwwww(母より)
:どこがだよwww
:友達からボコられてますやんwwww
:この二人は現実とゲームでどうしてこうも立場が逆転してしまうのかwwww
:お腹痛いwww 仕事が手につかないwwww(代表)
:代表www もう配信見ながら吹き出してるだろwww
:いっけえええええええええええええええええええ!!! やっちゃええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!(小春)
:小春wwww
:小春ちゃんが全力でムラサメちゃんを応援しとるwwww
:まぁダンジョンではミヨリちゃんにメチャクチャにされたからねwwww
何度か対戦を行うと、ミヨリはまともに攻撃を当てることさえできずに連敗しまくった。その結果、グッタリとテーブルに突っ伏して撃沈する。
:完 全 敗 北 !
:一勝どころか、一発もムラサメちゃんにダメージを与えられなかったなwww
:ダンジョンの強力なモンスターたちですら傷を負わせられないミヨリちゃんを完封して打ち負かしたwwww
:すっごく会場が盛りあがってたから、実質ミヨリちゃんの勝利だよ!(大親友)
:ダンジョンではあんなにツヨツヨなのに、ゲームだとこんなクソザコすぎて、そのギャップがたまらにゃいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!(先生)
:クソザコってwww
:先生www それ褒めてませんwwww
ダンジョンウェポンでの対戦を終えると、隣にいる綾乃が申し訳なさそうに視線をそらした。
「……えっと、すまない。つい夢中になってしまった」
「会場が盛りあがったから……いいことのはず……だよ」
むくりとテーブルから顔をあげると、ミヨリは消え入りそうな声でどうにか返事をする。
:無茶するな宮本www
:ダンジョンでムラサメちゃんにいろいろしてきたことが、ここにきて自分に返ってきたなwwww
:今後もこの二人がゲームで対戦するところ配信で見たいwww
:それミヨリちゃんがどんなふうにボコられるのかを見て楽しむ配信になっちゃうだろwww
これでゲストとしての仕事は終わりだ。あとは軽くトークをして、綾乃と一緒にステージからはけていけばいい。
テーブルから立ちあがると、司会の人から「最後に何か告知などあれば」と聞かれる。
ミヨリは少し考えると、客席にいるお客さんと、自分のドローンカメラに視線を向けた。
そして、なんでもないことのように言った。
「いま決めたことなんですけど、次の配信は『明星の導き』でします。よかったら見に来てください」
ぺこりと頭を下げて、司会の人の進行を待つ。
だけど司会の人は凍りついていて、なかなかステージから退場するように指示してこなかった。
隣にいる綾乃も「は?」と呆気に取られている。
目の前にいるお客さんたちも、何かの聞きまちがいかと、間の抜けた表情をしている。
:……え?
:いまミヨリちゃん、探索者たちの間で話題になってる新ダンジョンに行くって言ったか?
:言った! 『明星の導き』に行くって言ったぞ!
:……さっきまでわたしなんの仕事してたっけ?(代表)
:いや、え……?(小春)
:代表と小春ちゃんが困惑しとるwww
:ミヨリちゃんの発言のせいで、代表がなんの仕事してたか忘れたようだwwww
:隣にいるムラサメちゃんも驚いてるなwww
:会場にいるお客たちもポカ~ンだぞwww
:一瞬でみんなを驚かせちゃうなんて、ミヨリちゃん神すぎるよ!(大親友)
:さらりとトンデモないことを言っちゃうミヨリちゃんしゅぴしゅぴしゅぴしゅぴ!(先生)
:頭が痛くなってきた……(父より)
:ミヨリ、お母さんたち買い物して帰るから、先に家に戻ってていいわよ(母より)
:おかん関係ないこと言うなwww
:おとんの頭痛を心配してあげてwww
:おかん配信のコメントを便利に使いすぎだろwwww
ステージにあがる前は不安だったけど、ちゃんとゲストとして会場を盛りあげることができた。アビスソフトに貢献できてよかった。ミヨリは充足感に満たされる。
しかし満足するミヨリとは違って、会場内やコメ欄は驚愕につつまれていた。




