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:ここは撤退も視野に入れるべきだ!
:攻撃が効かないんじゃ倒しようがない!
:ミヨリちゃんがいれば、またいつでも再挑戦できるわけだし!
:最深部まで来られただけでも十分にすごい!
:攻略方法がわかるまでは、あの魔王に手出ししないほうがいいだろ!
:勝てないのなら逃げるべし!
撤退を促すコメントが滝のように流れてくる。あの魔王を倒す方法はないと、多くの視聴者たちが呼びかけてきた。
視聴者たちと同じように、玲奈も迷っていた。
どうにか吐き気を抑え込んだ玲奈は、圧倒的な魔力をほとばしらせる魔王を悔しげに見つめる。どうしても攻略法が見出せない。
ここは撤退するべきか、という思考が脳裏をよぎる。
かつて仲間たちと攻略できなかった、このダンジョンを踏破する。あともうちょっとで、その夢に、焦がれていた瞬間に、手が届きそうなのに……。
諦めなければいけないのか……。
「撤退はしないよ。ラスボスは、きっちり倒さないとスッキリしないからね」
後ろ向きな感情に支配されかけていた玲奈は、目が覚めたようにハッとする。綾乃と小春も面食らっていた。
まだミヨリは、少しも諦めていない。相手がどんなに強大な存在であっても、挑もうとしている。
「ミヨリくん、どうして……。どうしてそんなに強くあれるんだ……」
玲奈は問いかける。なぜそんなにも強い心を持ち続けることができるのかと。
探索者として、憧れを持ち続けることができるのかと。
「そんなの決まってるじゃないですか」
ミヨリは玲奈を見つめ返して、微笑みを浮かべた。
そして、確信を込めて言い放つ。
どうして自分が強い心を持つことができるのかを。
「わたしが強くなれたのは、ぜんぶアビスソフトのおかげですよ」
「……なんだって?」
「おまっ……」
「……へ?」
きっぱりと答えたはずなのに、なぜか三人とも間の抜けた顔をしていた。うまく伝わらなかったようなので、もっとわかりやすく説明しよう。
「わたしはアビスゲーをプレイしたことで、多くのことを学びました。いろんなギミックを持ったモンスターと戦って、攻略方法を見出すこと。あらゆる状況でも生き延びる方法。宝箱がミミックだとわかっていても、とりあえず一回は食べられてみること。どんな理不尽な目にあっても、諦めない心を教えてもらいました」
これまでアビスゲーに費やしてきた時間に想いを馳せながら、熱心に語る。そして、握った拳を胸に当てて、ミヨリは再び断言する。
「だからぜんぶアビスのおかげ!」
:違いますwwww
:絶対ちがうwwwww
:キリッとした決め顔でなに言ってんだこの子はwwww
:わかりやすく説明したつもりなんだろうけど、三人とも「ハァ?」だよwww
:ブレないなミヨリちゃんwwww
:宝箱がミミックだとわかってるなら食べられるなwwww
:アビスソフト「やめてください」
:そうか! アビスのおかげか!(納得)
:探索者のみんなはミヨリちゃんみたいに強くなりたいならアビスゲーをやりこめばいいんだね!(大親友)
:なるほど! 俺もアビスソフトのゲームをやりこめば強くなれるんだな!
:それが探索者として強くなる近道だったのかっ!
:んなわけあるかいwwww
:ミヨリちゃんのせいでみんな頭がおかしくなっとるwwww
:アビスソフトとは一体……
:↑ただのゲーム会社ですwwww
:またアビスに混乱を招くような発言をwwww
ミヨリの言葉を聞いても、まったくなんにも理解できなかった玲奈は果てしない徒労感に見舞われてガックリとする。綾乃と小春も「そんなわけないだろう」と胸中でつぶやいた。




