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第二十五階層に降りると、ダンジョン内の光景は輪をかけて禍々しいものになっていった。
壁を這う黒い植物には、血管のような赤い光の筋が何本も通っていて、地面から生えている樹木や、転がっている鉱石には、いろんな色の光が宿っており、どれも濃密な魔力をまとっている。
おそらくここが最下層だと、ミヨリは推測する。
:「せんべいうまい」と「ヤギが殴った」がトレンド入りしてるwwww
:なんで「せんべいうまい」がトレンド入りしてんだよwwww
:おかんの名言wwww
:どこがだwwww
:あのヤギが殴るところの切り抜き、おもしろすぎてリピートで何度も見てしまうwwww
:ヤギが殴るところのスタンプほしいwww
:いつ使うんだよwwww
コメントは大賑わいで、同接が八十万まで増加していた。
まさかここまで伸びるだなんて……。小春じゃないが、夢のように思えてしまう。
ミヨリとしても、メンタルがしんどくなってきた。そろそろゴールにたどり着きたい。
そうして歩き続けていると、大きくて重厚な扉が見えてくる。
だが、これまでとは違う。扉越しに桁違いの魔力が感じられる。
ボス部屋の前までやって来ると、玲奈は怖気立った。綾乃と小春も同じように肩を竦ませて、気後れしている。
「このなかに、トンデモないモノがいるみたいだね」
ミヨリは目の前にそびえる大扉を見あげながら、つぶやいた。
:ということは!
:ついに……! ついにか……!
:とうとう『常闇の迷宮』のラスボスか!
:本当に伝説のダンジョンの最深部までたどり着きやがった!
:一体どんなのが待ち受けているんだ!
:ドキドキ!
視聴者たちの期待値が最高値に達している。ミヨリもワクワクして、胸が高鳴る。やっぱりボス戦前はテンションがあがる。
ミヨリは三人に「準備はいいのか?」と視線で尋ねる。綾乃と玲奈は凜とした面持ちで頷いた。小春も戦々恐々としつつも頷いてくれた。
確認が取れたので、ミヨリは大扉に手をかけて押し開いていく。仲間たちと一緒に、ボス部屋のなかに踏み込む。
これまでの道中にあったボス部屋と同じように、四方にひらけた空間がそこにあった。だけど、部屋の奥には次の階層につながる道はない。
「ここが最深部で間違いないようだね……」
玲奈が張りつめた声で言った。
かつて仲間たちと攻略できなかった、伝説のダンジョン。それを踏破するという悲願は、もう目の前だ。
その願いを叶えるためには、最後の障害を乗り越えないといけない。
部屋の奥には、濃密な魔力を放ってくる気配があった。
干からびた老人のように、やせこけた顔をした悪魔だ。額には二本の角が生えていて、その瞳は底知れない暗闇をたたえている。ほっそりとした身体は紫色のローブを羽織っており、石の玉座に腰を据えていた。
そこにいるだけで、生命の危機を感じさせてくる、強大な存在だ。
「なんて魔力量だ……」
猛獣の檻のなかに入れられたウサギのような気持ちになって、綾乃は声を震わせる。
:探索者だけど、画面越しにでも凄まじい魔力量が伝わってくる!
:あいつヤバイだろ!
:まともな探索者なら、すぐに引き返してる!
:探索者じゃなくても、そばにいないほうがいい相手だってわかる!
:もしかしてあいつガチモンの魔王なのでは?
:見た目もかなり魔王っぽい!
コメントを確認すると、魔王という単語が散見された。どうやら視聴者たちは、あの年老いた悪魔が本物の魔王なんじゃないかと思っておびえているようだ。
「大丈夫だよ。例えアレが本物の魔王だとしても、そんなに珍しいものじゃないよ。わたしはこれまで何体も魔王を倒してきてるからね」
「なっ……! 魔王を倒しているだと!」
視聴者たちを落ち着かせるために、ドローンカメラに向かって話しかけたら、そばにいる綾乃が驚愕していた。玲奈と小春も唖然としている。
:ちょっ……待て! さらりとスゲぇこと言ったぞこのやべぇ子!
:え? 魔王? いま魔王を倒したって言ったか?
:言った! 何体も魔王を倒してるってミヨリン言ったぞ!
:なんだってえええええええええええええええええ!
:ミヨリ様! 既に何体かの魔王を撃破してることが判明!
:マジかよ!
:それでこんなに強かったのか!
:どおりで規格外に強いわけだ!
ミヨリの発言によって、コメント欄がザワつきはじめる。魔王を撃破したことがあるのは、よっぽど衝撃的な事実だったようだ。
「ミヨリ。おまえは本当に、これまで何体も魔王を倒してきたのか?」
「うん。そうだよ、ムラサメちゃん」
綾乃からの問いかけに答えると、ミヨリは自信満々に語る。
「アビスゲーをはじめとして、わたしはいろんなゲームの魔王を倒してきたよ。お母さんが持っている古いゲームだと、しょうちゅう魔王が出てくるからね。もうどれだけ魔王を倒して世界を救ってきたか、数えきれないよ」
ミヨリが若干ドヤりながら、いくつもの世界を救ってきたことを豪語すると、綾乃は愕然としていた。
:あっ、俺も(ゲームで)たくさん魔王倒してたわ!
:わたしも(ゲームで)たくさん魔王倒してる!
:なんなら昨日魔王を(ゲームで)倒して世界救ったばかり!
:ぜんぶゲームの話かよwwww
:一瞬本気で信じちまっただろうがwwww
:ゲームと現実をごっちゃにすんな定期wwww
:こんなときまでゲームの話するなんてイカレてるwwww
:懐かしきかな、かつて魔王たちと戦った日々……(母より)
:おかんのせいwwww
:元凶はミヨママwwww
:おまえ魔王たちと戦った日々って、それゲームしてただけじゃねぇか!(父より)
:おとんの言うとおりゲームしてただけwwww
:母と娘そろってゲームしてただけwwww
:昔やってたゲームを懐かしんでるwwww
:娘さんがおかしな発言をしたのはアナタのせいですwwww
ミヨリの話していたことがゲームのことだとわかると、玲奈はポカンとなっていた。小春はいろいろと抗議したいようだが、握った拳を震わせて堪えている。
ダンジョンのラスボスを前にしているのに、ミヨリのせいでおかしな空気になってしまった。




