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:……ん? 待って! じゃあなんでミヨリちゃんは幻惑にかかってないの!
:あれ? 言われてみれば?
:ミヨリンは正気のままだ!
:さっきクモの目から放たれた紫色の光をミヨリちゃんも見てたよね?
マダラグモが放った紫色の光を浴びたはずなのに、どうしてミヨリだけは幻惑にかかっていないのかと、疑問が寄せられる。
ミヨリは仲間たちからの攻撃をかわしつつ、事もなげに答える。
「わたしは状態異常や精神攻撃への抵抗スキルが高いみたいだからね。そういうのは効かないよ」
:なん……だと……?
:ウッッッソだろ!
:ミヨリ様! 状態異常と精神攻撃が効かないことが判明!
:怪物すぎるだろ!
:おいおい! どうやったらこのやべぇ子を倒せるんだよ!
:ミヨリちゃんを攻略しようとすんなwwww
:ミヨリちゃんの攻略方法はアビスゲーやダンジョンブレイドの新情報を教えることです。そうすれば有効なダメージを与えられます
:ミヨリちゃんの攻略方法が意外と簡単だった件wwww
:うちの子、丈夫だわ~(母より)
:いいのかこれぇ! せんべいバリバリかじりながら、丈夫の一言で済ませていいのかこれええええええ!(父より)
:丈夫で済む話じゃないですwwww
:状態異常や精神攻撃が効かないのを丈夫の一言で済ませるお母さんwwww
:母ちゃんせんべい食ってんのかよwwww
:ミヨリちゃんに状態異常や精神攻撃が効くはずないよ! だって全てを超越した神なんだからね! 神をどうにかしようだなんて考えそのものが間違いなんだよ!(大親友)
:はぁぁぁぁ~! ミヨリちゃんしゅごい! え? まって……しゅぴ! しゅぴしゅぎて、しゅぴがとまらにゃいいいいいいい!(先生)
:大親友と先生も状態異常にかかってるのかな?
:二人ともミヨリちゃんに幻惑されてるようなものだからwwww
:先生www なにを言ってるのかまったくわかりませんwwww
自分が正気を保ってている理由を説明すると、ミヨリは足元の影を四方に向けて拡張させる。
ぐぼっ、と仲間たちの足首がひろがった影のなかに沈む。影から触手を生やすと手足にからみつかせて、三人を拘束した。抵抗しようともがいているが、まともに身動きが取れないようにする。
遠距離から魔法攻撃が撃てる小春は、両腕に巻きつけた触手で押さえ込んで、掌をこっちに向けられないようにしておく。
:三人の動きを封じた!
:三人まとめてかかってきても、ミヨリ様の相手にならないか!
:完全にミヨリちゃんのポジションがボスキャラで草
:ミヨリちゃん! そのままみんなを影のなかに取り込んで自分の力にするのね! そうなのね!(先生)
:やめろwww
:そういうことしないからwwww
:この先生、考えてることがやばいなwwww
三人を行動できなくしたので、これで仲間たちから攻撃されることはなくなった。あとは元凶であるマダラグモを叩けば、幻惑が解除されるだろう。
マダラグモをどうやって撃破するのか思案していると、頭のなかで閃きが生じる。
これなら、配信が盛りあがる。
そうと決まれば、さっそく拡張した影を見下ろして呼びかけた。
「メースケ、出ておいで」
:メースケ?
:またなんか呼び出すのか!
:一体なにが出てくるんだ?
ミヨリの呼びかけに応えるように、拡張した影の一部分がグニャリと歪む。
そこから浮上してきたのは、頭部に二本の角を生やしたモノだった。肉体は黒い影によって形成されており、赤い瞳をしている。
三メートルはある大きなヤギが、ドバッと影のなかから飛び出てきて、二本の足で地面に立つ。
:なんだあれえええええええ!!!
:ヤギイイイイイイイイイ!!!
:でっかいヤギが出てきたぁっ!
:人間みたいに二本足で立ってるヤギさんだ!
:メェェェェェェェェ~!
:↑ヤギになんなwwww
:これもギョロちゃんやガイくんと同じで影のなかに取り込んだモンスターからつくってるのか?
:たぶんそう!
:ミヨリちゃんの考察班によると、影のなかのペットたちもモンスターからつくられていると推察されていたが……
:ミヨリちゃんの考察班がいるのかよwwww
:デッカイし二本足で立ってて不気味だけど、ワン太に比べればそこまで怖くないかも……
現れた巨大な黒ヤギは、フンスと鼻を鳴らす。その腹部に、シュッと垂直に切れ目が入った。お腹がパカリと左右に裂けていって開くと、そこには血のような真っ赤な色彩をした大きな瞳があった。
メースケの腹部についた赤い目玉が、ギョロギョロと動く。
:うぎゃああああああああああああ!!!
:やっぱりこええええええええええええええええ!!!
:お腹が開いてデッカイ目玉が出てきたあああああ!
:やっぱさっきのなし! ワン太に比べて怖くないって発言は撤回させてもらう!
:なんだよこのヤギ! 見てるこっちのSAN値やばくなるんだけど!
:発狂ゲージが急上昇する!
:は、ははは、ははははは……(父より)
:お父さんが笑いながらフリーズしたwwww せんべいうまいwwww(母より)
:おとんついにフリーズしたかwww
:笑いながらフリーズwwww
:おかんせんべい食ってんじゃねぇwwww
:せんべいうまいって関係ないだろwwww
「それじゃあメースケ、よろしく」
主人からの命令が下ると、メースケはフンッと鼻息を吹いて頷き、マダラグモのほうに向き直った。
マダラグモは危険を察知したようで、掠れた鳴き声をもらすと、わずかに後退する。
だが、もうメースケの腹部にある赤い瞳は、マダラグモを射程内にとらえていた。大きな目玉が、真っ赤な輝きを発してくる。
その赤い光を直視すると、マダラグモは数秒ほど硬直した。
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
そして硬直が解けると、怒り狂ったように八本の脚で地面を叩いて、金切り声をあげてくる。
かと思えば、巨体を激しく揺さぶってうめき出した。急におとなしくなると、グゥゥと寝息を立てる。すぐに目覚めると、なぜか壁のほうに向かって全速力で突っ込んでいって激突する。それでまたグゥゥと眠りにつく。またすぐに目覚めると、苦しみ出して地面を転げまわった。
なんだかもう挙動がおかしいというか、支離滅裂である。
:ボスがwwww
:どうしたんだwwww
:タチの悪い酔っ払いみたいになってんぞwww
:むかし夜の駅前にこういうオッサンいたぞwwww
:これもしかして状態異常にかかってんじゃね?
:たぶんそうだ! しかも一つだけじゃない! 複数の状態異常にかかってる!
:混乱、毒、睡眠、あと暗闇で視界も見えてないのか?
:あの黒いヤギの仕業か!
:ヤギのお腹にあるデカイ目玉が光って、マダラグモがおかしくなった!
:状態異常を使ってくるボスを状態異常で倒すとかやるな!
コメントの流れが加速していく。ミヨリは口元をゆるめて、左腕に固定したスマホを見下ろした。
狙いどおり、状態異常を使ってくるボスを状態異常で倒すことで、配信を盛りあげることができた。
毒の状態異常にもかかっているので、すぐにマダラグモは息絶えるだろう。
……そう思っていたのだが、めちゃくちゃな挙動を取っているマダラグモは結構元気だ。力つきる気配がなくて、なかなかしぶとい。
そういえば毒液を吐いていた。もしかして、毒への耐性が高いのだろうか?
「…………」
だとしたら非常にまずい。大きなクモが暴れたり苦しんだり眠ったりしている映像を流し続けているだけでは、視聴者が飽きてしまう。それにここで足止めをくらったら、配信のテンポが悪くなる。
焦ったミヨリは、早々に決断を下した。メースケのほうを見ると、その視線だけで命令を伝える。
メースケはこくりと頷く。ミヨリの意図を察すると、大股で歩き出した。
ダッダッダッと足音を立てて、挙動がおかしくなったマダラグモのもとまで近づいていく。
拳を振りあげると、ボゴッと殴った。頭を潰して始末する。
:をい!
:ヤギが殴ったwwww
:なんでだよwww 状態異常で倒すんじゃなかったのかよwwwww
:撲殺したwwww
:もしかしてクモが死ぬまで待つのめんどくさくなったのかwwww
:状態異常を使うボスを状態異常で倒すのかと思いきや、めんどくさくなってヤギが殴り殺したwwww
:ヤギさんミヨリちゃんを気づかえてて偉い!(大親友)
殴り殺されたマダラグモは、地面に崩れて動かなくなる。




