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これまでホワイトウルフの動きを観察していたミヨリは、そろそろいいかと判断すると足を前へと踏み出す。
静かな眼差しで、ホワイトウルフを見つめる。
「グゥッ……!」
ホワイトウルフはビクリとして、白い体毛を逆立てる。近づいてくるミヨリを両目を細めて睨みつけると、その姿が消失する。
:また消えた!
:どこ行った!
:どこから攻撃してくるかわかんないぞ!
ミヨリが足を止めると、その背後にホワイトウルフが出現した。鋭利な爪と牙でミヨリを引き裂こうとする。
ミヨリは足元の影から二本の触手を生やす。それを背後にいるホワイトウルフと……それから正面に向かって伸ばした。
:???
:正面に……?
:いやなんで……?
書き込まれる疑問のコメントをよそに、触手は背後から襲いかかってきたホワイトウルフの腹部を貫く。
……そして正面に伸ばした触手も、何かを貫いた。
触手を引っこ抜くと、背後にいたホワイトウルフが地面に転倒する。
同時に正面でも土埃が飛び散った。
そこには、腹部に風穴があいた、もう一体のホワイトウルフが倒れていた。
「なっ……!」
二体のホワイトウルフの亡骸を肉眼でとらえると、綾乃たちは泡を食う。
:ホワイトウルフが二体!
:え? なんで? どういうこと?
:どうして二体いるんだ?
「このホワイトウルフってみんなが呼んでいるモンスターは、気配遮断スキルが高いみたいだね。並みの感知スキルじゃ見破れない。それから二体だけじゃないよ。まだまだいっぱいいるね」
ミヨリは辺りに視線をめぐらせる。すると、周囲に続々とホワイトウルフたちが姿を現してきた。二十体くらいの群れが、ミヨリたちを包囲している。
にわかに出現した大量のホワイトウルフに、綾乃と小春は絶句する。
「そういうことか……」
ホワイトウルフの能力を理解した玲奈は、苦々しげにつぶやいた。
ミヨリは自分のドローンカメラを見あげて解説する。
「透明化して姿を見えなくするのが、このホワイトウルフたちの能力だよ。瞬間移動のように見せかけていたのはトラップだね。そう思い込ませることで、敵は一体だけだとわたしたちに誤認させてから、みんなで狩るつもりだったんだろうね」
:そういうことだったのか!
:なんて狡猾なモンスターなんだ!
:騙されたわ! てっきり一体だけかと思ってた!
:そう思わせておいて、集団で襲うつもりだったのか!
:普通の探索者だったら、敵の術中にハマっていたところだ!
ホワイトウルフが仕掛けていた罠を見破ると、視聴者たちから多くの反応が返ってくる。ミヨリはクスリと笑いながら、流れていくコメントを読みあげる。
:……あの、もしかしてなんだけど、ミヨリちゃん最初から全部わかってたんじゃない?
:……え?
:いくらホワイトウルフの気配遮断スキルが高いとはいえ、ミヨリちゃんの感知スキルは異常にすごいし、ホワイトウルフが群れでいることに気づいてたかも……
:言われてみれば、確かに!
:そういえば、最初からわかってたような素振りを見せてたな!
:コメントやムラサメちゃんが追及しても黙ってた!
:いやいやいや、いくらミヨリちゃんがやべぇ女でもさすがにそんなことはしないでしょ?
:ミヨリ様を疑うか! 我らがミヨリ様を一体なんだと思ってるのだ?
:ミヨリ様は悪くない! 悪くないもんっ!
:忠臣のミヨリ軍が必死すぎて草
:どうなんだミヨリ? 正直に答えなさい!(父より)
:お父さんからも詰められてるwwww
本当は最初から全部わかっていたんじゃないか? そう追及するコメントが、激流となって押し寄せてくる。
「……なぁミヨリ。もしかして、最初からあの白いワーウルフが複数いて、能力が透明化だってことにも、気づいていたんじゃないのか?」
綾乃も、ミヨリが知っていながら黙っていたんじゃないかと疑問に思ったようで、たくさんのコメントと同じように追及してくる。
みんなから答えを求められると、ミヨリは顔をうつむける。
そして、気まずそうに口を開いた。
「…………配信的に、ネタバレはよくないかなって」
:おい、宮本wwww
:こらっ、宮本wwwww
:配信をおもしろくするために黙ってたのかwwww
:ムラサメちゃんたちが危なくなったら守るつもりだったんだろうけどもwwww
:なぜです! なぜですかミヨリ様ぁ!
:信じてたのにぃ! ミヨリ様のこと信じてたのにぃ!
:ミヨリ様は一体なにを考えておられるのだっ!
:↑配信のこと考えてんだよwwww
:ミヨリ軍が混乱してるwwww
:ミヨリ軍の連中こういう流れになると読んでて前振りしてただろwwww
:ミヨリ! わかってたのなら最初からちゃんと教えなさい! ムラサメちゃんに何かあったらどうするんだ!(父より)
:おとん推しのことしか心配してないぞwwww
:他の子たちのことも心配してあげろwwww
:先生! 宮本さんが最初からわかってたのに黙ってました!
:宮本さん! いいですか、最初からわかっていたのなら……ヤバヤバのヤバッ! ネタバレ防止しててエライエライエライエライよおおおおお! しゅぴしゅぴしゅぴしゅぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!(先生)
:だめだこの教師wwww
:この教師ミヨリちゃん好きすぎて役に立たないwww
:説教する気ゼロwwww
:神の前では透明化なんて無意味! 神であるミヨリちゃんは全てを見通してるんだよ!(大親友)
:全てを見通しててネタバレ防止してたwwww
はじめからホワイトウルフが複数いることと、その能力にも気づいていたことをミヨリが打ち明けると、綾乃たちはドン引き。「こいつマジか?」という目を向けてくる。
「それじゃあ、そろそろ終わりにしようか」
ミヨリが顔をあげて周りを見まわすと、二十体のホワイトウルフの群れはゾクリと身震いをする。
それでも牙を剥いて凄んでくると、白い狼たちは一斉に透明化した。不可視の姿となって気配を遮断し、ミヨリを狩るために走り出す。
「わたしはネタバレしてても、おもしろい映画は好きだよ。二回目でも楽しんで見られるからね。結末を知っているはずなのに、その物語を飽きずに最後まで楽しむことができる」
群れで連携しながら押し寄せてくるホワイトウルフたちの姿を、ミヨリはその瞳で見つめる。
「だけどね、全部の映画がそうじゃないんだ。なかにはネタバレしたら、もうそんなにおもしろくない作品もあるんだよ。そういうのは、二回目は見ないようにしているかな」
……目があった。透明化していて視認できないはずなのに、完璧にその位置を把握されている。そのことに、ホワイトウルフたちは得体の知れない恐怖を感じる。
「キミたちは、ネタバレしたら、もうおもしろくないね」
薄笑いを浮かべると、足元の影から無数の触手が勢いよく飛び出す。ホワイトウルフたちの気配遮断スキルを凌駕する感知スキルで居場所を見抜き、二十体全てを的確に触手で貫いていった。
「ありがとう。おかげで配信が盛りあがったよ」
お礼を述べると、触手を引っこ抜く。透明化していたホワイトウルフたちが次々と目に見える姿で現れていき、その死体が地面に横たわった。
:ネタが割れたら用済みなので即ジェノサイド!
:容赦ねぇええええええ!
:これで他の探索者たちもホワイトウルフへの対策ができるな!
:ほとんどの探索者は、そもそもこんな深いところまで来られないんだけどね……
死屍累々となったホワイトウルフたちを目にして、綾乃と玲奈は顔面蒼白になる。
小春は膝から崩れてしまい、ぺたりと地面にへたり込んだ。
「あ、足、足が震えて……!」
ガクガクと震えて、小春はまともに立つことさえできなくなる。
「あれ? もしかして小春ちゃん、歩けないの? だったら触手貸そうか?」
飛び出している無数の触手の先端がグネリと動いて、小春のほうに向けられる。
大きなバケモノの集団に見下ろされているようなおぞましさに、小春はブワッと目元に涙があふれ出す。
「い、いいいや、いいいいや、いいよいいよいいよっ! 大丈夫だよっ! そんなわたしごときのためにミヨリちゃんの触手を煩わせるわけにはいかないよ! ほらわたしならこのとおり自分の足で歩けるよ! 元気元気! 元気いっぱいだよ! あっはははははは!」
震える身体にムチ打って、小春は気合いで立ちあがる。まだ足がガクガクしてて倒れそうだけど、ふんばり続ける。ぎこちない笑顔を振りまいて、今日一番のがんばりを見せた。
:小春ちゃんwww
:触手が怖かったんだねwwww
:「触手を煩わせるわけにはいかないよ」ってなんだwww
:ミヨリちゃんはミヨリちゃんで「触手貸そうか?」ってwwww
:おかしなセリフが飛び交ってるwww
:「手を貸かそうか?」みたいに触手貸されても困るwwww
:疲れた仲間に触手を貸そうとするなんてミヨリちゃんやさしすぎだよ!(大親友)
:疲れてるのはミヨリちゃんのせいwwww
:触手貸されてもありがた迷惑wwww
:絶対にイヤですwwwww
「小春ちゃんが、歩けるようでよかったよ」
ミヨリはホッとすると、伸ばしていた無数の触手を影のなかに引っ込める。
ホワイトウルフたちとの戦闘は盛りあがった。やっぱりネタバレ防止したのは正しい判断だった。
ミヨリは頬をゆるめると、足を前に進めていく。
小春はガクガクしながら、どうにか倒れないように、おぼつかない足取りでミヨリについていった。
また小春の歩き方がおかしくなったので、玲奈はプルプルしながら笑いを堪える。
綾乃は確実に疲労が蓄積されているのを自覚すると、重たいため息をこぼして、最後尾から仲間たちを追いかけていった。




