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「そろそろ終わりにしようか」
ミヨリは口元に弧を描く。
爆速で走りまわったり、跳びはねたりして、光の槍を反射しまくっていた綾乃は生きた心地がせず、ゼェハァゼェハァと息も絶え絶え。その身体がまた勝手に動き出すと、「ひぃ!」と悲鳴をもらした。
操られた綾乃は猛スピードでジグザク走行しながら、デーモンナイトのもとに迫っていく。
デーモンナイトはグレートアクスを構えて迎え撃つが、急接近してきた綾乃はデーモンナイトを凌駕するほどの電光石火の斬撃を連続で叩き込んできた。
まともに反応することさえできず、鈍色の鎧を砕かれて斬りつけられたデーモンナイトは、膝から崩れてバタリと倒れる。
「や、やっと倒せた……」
どんな探索者でも倒すことができなかったボスを撃破したことの達成感よりも、もうこれでミヨリに操られずに済むという安心感に、綾乃は深々と息を吐き出す。
:ムラサメちゃんホッとしてるwww
:これでもう操られないでいいからねwwww
:最後の動き速すぎてまともに見えんかった!
:重傷を負っていたとはいえ、デーモンナイトさんがなんもできなかったぞ!
:これでデーモンナイト倒せたのか?
:やったか……!
:↑コラ! やめろ!
:それ言ったらダメなヤツwwww
「グ……アァ……」
うつ伏せに倒れていたデーモンナイトが、かすかに動く。もう虫の息ではあるが、まだ生きていた。
「あ、死んでないみたいだね」
ミヨリが親指をクネクネと動かすと、剣を握っている綾乃の右腕が勝手に持ちあがった。
「うぇっ! ちょっ……!」
綾乃の意思を無視して、右腕が振り下ろされる。
ダンダンダンダンダンッと死にかけのデーモンナイトを容赦なく剣で滅多打ちにする。
「ウッ……グゥ……」
「なかなか死なないね」
「も、もうやめっ……やめて……!」
さっきよりも右腕に力が込められると、ダンダンダンダンッと無慈悲に何度も剣が振り下ろされる。
「……ッ……グ……」
「まだ生きてる」
ダンッダンッダンッダンッダンッ!
死にかけの虫を踏みつけるように、何度も何度も何度も綾乃は握りしめた剣を振り下ろす。
「や、やめ、やめろおおおおおおおお! もうやめてくれえええええええええええ!」
:おwまwえwがwやwめwろwwwww
:いや、だからミヨリちゃんに操られてるんだってwwww
:デーモンナイトかわいそすぎだろwwww
:ムラサメちゃんもかわいそすぎるwwww
:こんな泣き叫びながら剣を振り下ろす探索者は他にいないwwww
:↑いてたまるかwwww
:黒幕はミヨリちゃんですwwww
:ミヨリイイイイイイイイ! もうやめろおおおおおおおおおお! ひどいモグラ叩きみたいになってるぞおおおおおお!!!(父より)
:ひどいモグラ叩きwwww
:なんだそれって思ったけど、まさにその通りだったwwww
:おとん推しが苦しめられてパニックwwww
:その元凶が自分の娘だという悲惨すぎる現実wwww
:なんでムラサメちゃんのファンになっちゃったんだよミヨパパwwww
:しょせん天使と悪魔だね! 神であるミヨリちゃんの足元にもおよばないよ!(大親友)
:そっかぁ! ミヨリちゃんは神様だから天使や悪魔よりも強いのか!
:なるほど! そういうことだったのか!(納得)
:なんでそんな当たり前のことに誰も気づかなかったのか不思議だね!
:みんなしっかりしろ!
:この配信のせいで多くの視聴者が正気を失いつつあるwwww
:みんな大親友ちゃんに汚染されてるwwwww
:ミヨリちゃんがムラサメちゃんを操り人形にして、永遠に餅つきをさせるというアイディアを思いついきました(先生)
:思いつくなwwww
:永遠に餅つきさせるってなんだよwww
:新手の拷問かな?
:ムラサメちゃんが精神崩壊してしまうwww
:なんならいまリアルタイムでムラサメちゃん精神崩壊寸前だよwwww
操られた綾乃によって、何度も剣を叩きつけられたデーモンナイトは、ついに息絶えようとしていた。
だが、命の火がつきる前に、最後の力を振りしぼる。
「グッ……グッ……グググッ グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ボス部屋の全域に響きわたるような断末魔の咆哮をあげてくる。
デーモンナイトは叫び終えると、もたげていた首を落として絶命した。
今度こそ本当に、戦いを終えることができた。誰も倒すことができなかったボスを撃破できたことに、ミヨリや玲奈たち、視聴者たちも歓喜しようとしていた。
ところが、デーモンナイトの叫び声に呼応するかのように異変が起きる。
どこからともなく地響きが聞こえてくると、広いボス部屋そのものが揺れはじめる。
:なんだ?
:地震か……?
:ボス部屋が震えてる?
突然の地震に、困惑するコメントが書き込まれていった。
綾乃と玲奈と小春も「今度はなんだ?」と辺りに警戒の目を配っている。
揺れが次第に激しさを増していくと……ピシッと音がする。
ピシピシピシッと地面に亀裂が走った。亀裂は枝分かれしてひろがっていき、部屋の隅々にまで行きわたる。
そして一際大きな揺れが起きた瞬間。
ミヨリたちが立っている地面そのものが崩落した。




