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「ムラサメちゃん。ちょっとわたしの近くに来てもらってもいいかな?」
「何か策があるのか?」
「うん。どうしてもムラサメちゃんの協力が必要なんだよ」
ミヨリは前方にいる綾乃に呼びかける。
綾乃は少しだけためらっていたが、思案している余裕はないと判断して、覚悟を決める。
「この場を打開するためなら仕方ない」
イヤな予感はするものの、文句は言っていられないので綾乃は了承する。
「玲奈さん。お願いします」
「あぁ、ここは任せてミヨリくんのところに行ってくるといい」
玲奈は手足に力をみなぎらせると、炎をまとった剣で猛然と斬りかかる。小春からの援護を受けつつ、デーモンナイトを押さえ込む。
その間に、綾乃はミヨリのもとまで引き下がった。
綾乃がそばまでやって来ると、ミヨリは足元にある影に呼びかける。
「それじゃあガイくん、出ておいで」
:ガイくん?
:新しいペットか!
:それとも新しい武器か!
:またミヨリちゃんが影から何か取り出すぞ!
:みんな気を引き締めろ!
:ホラー映画の怖いシーンがくる前みたいになっとる!
ズズズズズッと音を立てて、影のなかから浮上してきたのは、バスケットボールのような真っ黒な球体だ。影を凝縮した黒いモノが、ミヨリの手につかまれる。
:なんだあれ?
:影の塊みたいな丸いもの……?
:モアモアしてて気体みたいに見えるけど……
ミヨリは黒い球体を持ったまま、にっこりと綾乃に笑いかけた。
綾乃はゾッとする。そのときにはもうミヨリは黒い球体を綾乃にむかって投げつけていた。
ベチョリ。
「うひゃあ!」
黒い球体は付着すると、液体のように飛び散った。綾乃の身体についた影は、白銀の鎧を侵食するように肩や手足、足首にまでひろがっていく。ドロドロしたモノが全身を這っていく感触に、綾乃は鳥肌が止まらない。
肉体にまとわりついた影は凝固していくと、暗黒騎士が装着しているような漆黒の鎧に変わっていく。綾乃は強制的に鎧を装着させられた。
パチッと開く。
パチパチパチパチパチと続々と開いていく。
漆黒の鎧の表面には、無数の目があった。開いた目たちがギョロギョロと不気味に動いて、視線をさまよわせる。
「うひゃああああああああああああ!」
:ムラサメちゃんwwww
:俺も悲鳴あげちゃったよ!
:黒い塊が鎧になった!
:もともと着てた白銀の鎧の上から装着させてるのか!
:鎧に目玉いっぱいついとる!
:やっぱ怖いヤツきたあああああああああああ!
「ムラサメちゃんも気づいてると思うけど、ガイくんは影のなかに取り込んだモンスターたちを練りあげてつくった鎧だよ。いまムラサメちゃんは、たくさんのモンスターの死体を着ていることになるね」
「そういうこと言わなくていいからっ!」
:いらん説明すんなwwww
:「なるね」じゃねぇよwwww なに教えてんだよwwww
:たくさんのモンスターの死体を着せられてるとか聞きたくないwwww
:絶対に聞きたくない説明だったwwww
:知らないほうが幸せなことってあるよねwwwww
:ちゃんとみんなにわかるように説明しててミヨリちゃんえらい!(大親友)
:えらくねぇよwwww
:配信者としては正しいんだろうけどもwwww
:そんなもんいきなり着せられたらビビるわwwww
:あんなの装備したくねぇええええええええ!
:闇の商人よりもヤバイ装備を押しつけてくるミヨリちゃんwwww
:指が震えてコメント打つのも一苦労だよwwww
:ミヨリイイイイイ! ムラサメちゃんになんてもの着せてんだああああああ!(父より)
「は、はず……! 外れない! どうなってるんだこれっ!」
綾乃は漆黒の鎧を引きはがそうとする。だけど鎧は身体と一体化しているようにくっついていて外れない。いたずらに左手で首元や右腕を引っかくだけだった。
「外しちゃダメだよ。これからムラサメちゃんには、活躍してもらうんだからね」
ミヨリが笑いかけると、綾乃はビクリとして竦みあがった。
漆黒の鎧を装着した綾乃を見ていた玲奈はドン引き。小春にいたっては、アワアワアワアワとなって震えている。
「玲奈さん。あとはムラサメちゃんがやってくれますから、下がってください」
「よくわからないが、ここはミヨリくんと綾乃を信じよう」
玲奈は気の毒そうに綾乃を一瞥すると、後退していく。交戦していたデーモンナイトから距離を取った。




