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第八階層に降りてきたミヨリは、左腕に固定したスマホを見下ろしながら、ダンジョン内を進んでいく。
:闇の商人を撃破したことがめっちゃ話題になってる!
:切り抜かれて拡散されまくってるな!
:もう百万再生されてる切り抜き動画もあるで!
:死神に続いて闇の商人というイレギュラーまで倒されて、探索者たちがザワついとる!
:「ウソだろ……」ってSNSに書き込んでる探索者いたなwww
:「ミヨリちゃんの上半身」と「闇のセールスマン」がトレンド入りしてるぞwwww
:ミヨリちゃんの上半身wwww
:文字だけでもホラーすぎるwwww
:やっぱおかんのせいで「闇の商人」が「闇のセールスマン」って呼ばれるようになったじゃねぇかwwww
:闇のセールスマンwwwww
:うおおおおおお! ミヨリちゃんの配信が同接五十万いってる!
「ごじゅうま……!」
コメントで伝えられて確認してみると、本当に同接が五十万人を突破していた。圧倒的な数字に、ミヨリはビクッと肩を上下させる。
どこまで伸びるんだろう、これ……?
体温が一気にあがって、全身が火照ってきた。
ガッチガチになって、歩き方が少し変になりつつも、洞窟を進み続ける。しばらくすると、大きくて重厚な扉がある部屋の前に到着した。
:もうボス部屋かよ!
:速っ!
:スピードおかしい!
:ここから先に進むことができるのか!
「ミヨリくんがいるから、早めに着くだろうとは思っていたけど……まさかここまで早いとはね」
玲奈は疲労感のにじむため息をつきつつ、神妙な面持ちでボス部屋の大扉を見つめる。
「公式では、ここが『常闇の迷宮』の最高到達地点になっている。このボス部屋よりも先には、まだ誰も進めていない。わたしも昔の仲間たちと挑んだけど、ここのボスを倒すことができなくて、敗走を余儀なくされたよ」
伝説のパーティと呼ばれていた玲奈たちですら、ここから先には進むことができなかった。この扉の向こう側にいるのは、玲奈にとって因縁のある相手だ。
玲奈の話を聞くと、綾乃と小春は表情を硬くする。
そんな二人に気づいて、玲奈はやさしく微笑みかけた。
「あんまり気負うことはないよ。今回は対策ができているんだからね」
玲奈が大丈夫だと言うと、綾乃と小春は緊張がほぐれたようで、こわばっていた肩の力を抜いた。
問題があるとすれば、ただ一つだけだ。
玲奈は不安そうに眉を下げると、ミヨリのほうに向き直る。
「……わかってるよね、ミヨリくん? 事前に説明したように、ボスと対面しても、すぐに攻撃してはいけないよ? それで難易度が変わってしまうからね」
「はい。わかってますよ」
「ホントかミヨリ? 本当に大丈夫なのか?」
「ムラサメちゃんまで、心配性だね」
さっきの闇の商人のことがあったので、玲奈と綾乃は念押しをしてくる。小春もソワソワしながら、ミヨリのことをいぶかしげに見ていた。
:仲間たちから疑われてるミヨリちゃんwww
:まぁこれまでの行動を見てればね……
:信頼度ゼロwwww
:さすがにここまで言われたらミヨリちゃんだってわかるだろ?
:頭はおかしいけど賢いみたいだから
:頭おかしいのに賢いwww
:その二つって両立するんだなwww
:天才と狂人は紙一重wwww
二人の言いたいことは、ちゃん理解しているとミヨリが微笑んで応えると、玲奈は吐息をついて胸を撫で下ろした。小春も「よかったぁ」と安堵する。ボス部屋では、やらかしてほしくないみたいだ。
でも綾乃だけはまだ半信半疑で、しげしげとミヨリの顔を見つめていた。
「ここで立ち止まっていたら、テンポが悪くなりますからね。そろそろ行きましょう」
ボス部屋に入るように催促する。
玲奈は覚悟を決めて頷き、綾乃と小春も緊張した面持ちで頷いた。
ミヨリは大扉に手で触れて、押し開けていく。重たい音を立てながら、扉は開かれていった。




