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これまで戦闘を静観していたミヨリは、綾乃たちも戦ったことだしそろそろいいかと判断する。
「それじゃあ、あとは任せてください」
「え……?」
「ミヨリくん?」
「ど、どうやって……?」
三人ともポカンとして、ミヨリを見てくる。
余裕のある笑みを浮かべて大丈夫だと伝えると、ミヨリは闇の商人に目を向けた。
ミヨリと視線が合うと、闇の商人は警戒心をあげてくる。どんな攻撃がこようとも、空間に穴をあけて防いでくるつもりだ。
ミヨリはちょっとだけつま先に力を込めて、地面を蹴った。駆け出して、相手との距離をせばめていく。
闇の商人はミヨリを注視しながら、迎え撃とうとする。
が……その姿が突如として消失した。
「……は? 消えた……?」
どこにも姿が見当たらなくなったミヨリに、綾乃は呆然となる。玲奈と小春も目を丸くしていた。
:ちょっ! ミヨリちゃん消えちゃったぞ!
:え? マジでどこいったの?
:ミヨリちゃんどこにもいないじゃん!
:探索者だけど、ミヨリちゃんの動きを見逃さないように注意して観察していたけどいきなり消えた!
:ムラサメちゃんと小春ちゃんの配信でも確認したけど、どのカメラにも映ってないぞ!
:闇の商人も慌ててる!
「グアッ! グアッ! グアッ!」
闇の商人は大きな目玉をキョロキョロと忙しなく動かして、周囲に視線をめぐらせる。しかし、どんなに探してもミヨリの姿は見当たらなかった。完全に存在が消えてしまっている。
……狼狽する闇の商人の背後。そこに濁った水溜まりのようなモノが、地面の一部を染めあげていた。
黒い影が、そこにあった。
ズズ、ズズズズズッ――――
墓地から死者がよみがえってくるように、黒い影のなかからミヨリの上半身が浮かびあがってくる。
ミヨリが闇の商人の背中を指差すと、影のなかから何本もの触手が伸びていく。後ろを取られたことに気づいていない闇の商人の胸部や腹部を貫通させる。
「グ……アッ…………?」
死角からの攻撃。空間に穴をあけることすらできずに、最後まで一体なにが起きたのか理解できないまま、闇の商人は息絶えた。
触手を引っこ抜いて影のなかに仕舞うと、闇の商人は前にむかって傾いていき、地面に倒れる。
「うひゃあああ!」
「ミ、ミヨリくんなのか……?」
「う、うえだけ生えてる……!」
地面から上半身だけを生やしたミヨリを目にすると、三人は顔を青ざめさせていた。
:なんだよアレえええええええ!
:ミ、ミヨリちゃんの上半身……!(震え声)
:なんで上半身だけ……?(アワアワ)
:三人とも深夜にオバケ目撃したみたいになっとる!
:俺も一瞬オバケかと思ってビビったよ!
:絵面だけ見たら怖すぎだろコレ!
:やべぇ夢に出てきそう……!
:これもう実質オバケみたいなもんだろ!
:発狂してしまいそうだ……!
:ミ、ミ、ミヨ、お、おまっ……!(父より)
:お父さんが画面を見ながらプルプルしちゃってるwwwww(母より)
:娘が上半身だけになってたらプルプルしちゃうだろ!
:おとんプルプルwwww
:ワイもプルプル!
綾乃たちも視聴者も、自宅で配信を見ている茂則も、何が起きているのかわからずに恐怖しているようだ。
「これはね、自分の影のなかにもぐったんだよ。その状態のまま、影だけを闇の商人の背後に移動させたんだ。あとは影から出てきて、不意打ちで仕留めれば終わりだよ」
どうやって闇の商人を撃破したのか、自分のドローンカメラを見あげながら解説する。
:ミヨリ様! 自分の影のなかに入れることが判明!
:ホントだ! よく見たらミヨリちゃんの腰のあたりに黒い影がある!
:モンスターの足が影のなかに沈んでたりしてたけど、自分も影のなかに入れるのか!
:アサシンとしての才能まであんのかよ!
:ミヨリちゃんはアサシンじゃないよ? 神だよ?(大親友)
:神ではねぇよwww
:こっちがおかしいみたいな感じてコメントするのやめて大親友ちゃんwwww
:バックスタブ決めやがった!
:こんなん初見回避は不可能だろ!
:影にもぐってるとき、どんな攻撃も当たらないとしたら無敵すぎる!
:配信的に考えて、カメラに映らないのはなるべく避けそうだけどな!
:とりあえずミヨリちゃん、上半身だけ出したままカメラ目線やめてもらえません? それ怖すぎます……
:これでまた子供に怖がられちゃうねwwww
:宮本さんが影にもぐって、真夜中の部屋に侵入してくる話とかいいわね! ムラサメちゃんが精神崩壊しそうで!(先生)
:よくねぇよwwww
:こえぇよwwww
:先生がミヨリンを見ながらアイディアを考えてるwww
:ムラサメちゃんを精神崩壊させんなwww
:……ミヨリ。早くそこから出てきなさい(父より)
:そこから出てきなさいってwww
:ぐずって部屋に引きこもってる子供に呼びかけてるみたいwwww
ミヨリが影から上半身だけを出している姿を見ていると、みんな落ち着かないようだ。沈めていた下半身を浮上させていき、影のなかから全身を出して、地面に足をつける。
そして目の前で倒れている闇の商人に向けて、影をひろげていく。その亡骸を影のなかに沈めて、取り込んでいった。
「うひゃあ!」
「やっぱり食べるのか……」
「うひっ……!」
立て続けに刺激の強い光景を目の当たりにして、綾乃たちは身を竦める。
:上半身だけのミヨリちゃんに続いて、闇の商人が食われるところも生で見せられるムラサメちゃんたちwwww
:画面越しに見てる俺らですらしんどいのに、生で見せられるとかキツすぎだろwww
¥100 闇の商人:これからはちゃんと働きます
:もう遅いwww
:もう食べられてるから遅いwww
:スパチャの金額www
:ナイスパwww
:取り引きを持ちかける相手をまちがえたなwwww
:厄介な闇のセールスマンを撃退してえらいわミヨリ!(母より)
:闇の商人はセールスマンじゃねぇよwwww
:闇のセールスマンってなんだよwwww
:おかんやめろwww みんなそう呼ぶようになっちゃうからwwww
コメントが盛りあがっている。闇の商人と取り引きせずに戦ってよかった。
闇の商人を完全に呑み込むと、ひろげていた影を足元まで戻していく。
「それじゃあ、攻略を再開しようか」
ミヨリは口元がゆるみそうになるのを堪えながら、上機嫌なまま綾乃たちにそう呼びかけて足を動かした。
三人はまだ悪寒が止まらずに震えていた。それでもガクガクする足をどうにか前に出して、ミヨリについていく。




