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:それから先生はミヨリちゃんが好きすぎて、『サクちゃん先生』っていうペンネームで二次創作小説をいっぱい書いてネットに投稿してるよ(大親友)
「小説……?」
自分を題材にした小説を、静江が執筆している。そのことにミヨリは首を傾げつつも、どんなものなのか興味を引かれた。
:サクちゃん先生って、あれ書いてたの先生かよ!
:確かその二次創作小説はミヨリ軍の間で話題になってたぞ!
:頭おかしいって話題になってたwww
:どんな小説?
:いろいろある!
:ダンジョン編。ミヨリちゃんとムラサメちゃんがパーティを組んだけど、ダンジョンの最深部に置き去りにされたムラサメちゃんが精神崩壊
:魔王編。魔王として覚醒したミヨリちゃんを、勇者として覚醒したムラサメちゃんが止めようとするが、一瞬で消し飛ばされて精神崩壊
:ルームシェア編。二人でルームシェアをするけど、ミヨリちゃんが毎日ピーマン料理ばかり食べさせてくるので、耐えられなくなったムラサメちゃんが精神崩壊
:なんだそれwwwww
:ムラサメちゃん精神崩壊しまくりじゃねぇかwwww
:これは頭おかしいwww
:ピーマン料理ばかり食べさせられて精神崩壊ってなんだよwww
:やべぇ、ちょっと読んでみてぇwwww
コメントからの情報で、静江が執筆しているという小説の内容を知ると、ミヨリはたじろぐ。なんだか自分がトンでもない存在として扱われている。
「ミヨリ。さっきから立ち止まってるけど、何かあったのか?」
「えっと……」
綾乃が心配そうに見てくる。
どう説明するべきか悩むが、とりあえずかいつまんで事実を教えることにした。
「クラスの担任の先生がわたしのファンだったらしくて…………ムラサメちゃんを頻繁に精神崩壊させてたみたい」
「……そんな怖い先生がこの世にいるのか?」
:意味わかんなすぎてムラサメちゃん理解不能www
:そんなこと急に言われてもわけわかんないよwwww
:身に覚えのない精神崩壊を伝えられたムラサメちゃんwwww
:説明ヘタかwwww
:ミヨリちゃんの説明がヘタすぎる件wwww
:時間が飛んだのかってくらい話が飛躍してるwwww
戦慄している綾乃の反応を見るに、うまく伝わらなかったようだ。ミヨリは唇をつぐんで押し黙ると、眉根を寄せた。
:ごめんなさい! ミヨリちゃんへの愛が止まらなくて衝動的に書いてしまったの!(先生)
:最近はスランプでいまいちパッとしないものしか書けなかったけど、ミヨリちゃんの配信と出会えたことでスランプを脱出できたの!(先生)
:だけどミヨリちゃんがイヤなら書くのをやめるわ!(先生)
ミヨリの返答次第では、二次創作小説の執筆をやめるつもりのようだ。それはよくない。
「驚きはしましたけど、イヤではないですよ。創作が好きなら、それを続けてほしいです。それに先生の気持ちは、よくわかります」
ミヨリはこくんと頷くと、胸の奥にある熱い想いを言葉にする。
「わたしも、黒野スミレちゃんが世界を滅亡させるオリジナルシナリオとか、よく考えていました。だから先生の気持ちはわかります。これからもたくさん小説を書いてください」
:いや、なに妄想してんだよwww
:むしろ妄想してるミヨリちゃんが世界を滅亡させそうだがwwww
:そばで話を聞いてたムラサメちゃんたちが引いてるwww
:言ってることおかしいwww
:なんならずっとおかしいまであるwwww
目をキラキラと輝かせながら、かつて頭のなかで構想していた黒野スミレ世界滅亡編のことを、懐かしさと共に振り返った。
そしたらコメントから、いろいろとツッコミが入ってきた。そばで聞いていた綾乃たちも、顔をひきつらせている。
:認めてもらえてうれしい! わたしこれからもがんばってムラサメちゃんを精神崩壊させるね!(先生)
:がんばるなwww
:だからなんでムラサメちゃんを精神崩壊させんだよwwww
:がんばるの方向性wwww
ミヨリが承認すると、静江からの活気にあふれたコメントが返ってきた。リアルでの真面目な静江とのギャップにまだちょっと混乱しているけど、執筆意欲が増したのならいいことだ。
:よかったね! 先生!(大親友)
:わたしもミヨリちゃんのためにつくってるものがあるよ!(大親友)
:布と綿を使った簡単なミヨリちゃん人形をつくってるんだ!(大親友)
:えへへ、まだ百体くらいしかつくれてないんだけどね!(大親友)
:たくさんのミヨリちゃん人形と、毎晩楽しくお喋りしてるよ!(大親友)
――ゾッとした。
千紗から伝えられたのは、静江がミヨリの強火ファンだったという事実をはるかに超えるもので、ミヨリを一瞬で凍結させる。
:ミヨリちゃん人形……
:ひ、百体……!
:ひぇぇ……!
:楽しくお喋りしてるって、ガチでヤバイやん大親友ちゃん(震え声)
:無自覚にミヨリちゃんにダメージを与えてる大親友wwww
:ついさっきミヨリちゃんが先生の二次創作を認めちゃったから、人形つくるのやめてと言いづらくなっちゃってるだろwwww
:だ……大親友ちゃん???(父より)
:お父さんが口を開けたまま固まってるwwww(母より)
:ミヨパパにまでダメージがおよんでて草
:隣にいる大親友さんが、鞄から宮本さんみたいな人形を何体も取り出してきて、先生も引いてます…………タスケテ(先生)
:先生ぇ!
:先生ピンチ!
:先生もビビってるwww
「さ、先を急ごうか……」
ひとまずスマホ画面から視線を外すと、ミヨリは先に進もうとする。悪寒を振り払うように足を動かした。
「今度はどうしたんだ?」
明らかに様子がおかしいミヨリのことを気づかって、綾乃が尋ねてくる。パーティを組んでいる仲間として、ミヨリのメンタルに配慮してくれていた。
「えっと……これ、言っても大丈夫なのかな?」
「どういうことだ?」
「わたしの友達が……」
「あぁ、大親友という名義でコメントをしている女の子か。その子がどうかしたのか?」
「……わたしの人形をつくってるって」
「…………」
「……百体くらい」
「……いや、もういい。もうそれ以上は話さなくて」
「毎晩、楽しくお喋りしてるって」
「やめてくれっ! もう聞きたくない!」
「今も人形を取り出して、この配信を見てるって」
「もうやめてくれえええええええええええええ!」
綾乃はギュッと目を閉じて、両手で耳をふさいだ。精神系の攻撃を食らっているときみたいに、錯乱しかけていた。
:ムラサメちゃんwwww
:大親友ちゃんのせいでムラサメちゃんのSAN値がwwww
:代表と小春ちゃんもベヒーモスと対峙したときよりもビビってるwwww
さっきから繰り広げられているおかしなやりとりをそばで聞いていた玲奈は、モンスターとは無関係なところで精神力を削られる。だけど綾乃が両耳をふさいでおびえているので、代わりに玲奈がミヨリと話をする。
「あ~っと、ミヨリくん。そのお友達は大丈夫なのかい?」
「……悪い子ではないです」
:ミヨリちゃん明言をさけたwwww
:大丈夫じゃないからねwwww
:外部からの攻撃でパーティを混乱に陥れんなwwww
:大親友さまの忠誠心は、我ら忠臣の想像を超えたものだったか……
:ミヨリ軍の間でも物議をかもしてるwwww
「思わぬところで足止めを食らっちゃったね。これだから、ダンジョン攻略は何が起きるかわからないよ」
:ダンジョン関係ないwww
:ダンジョンは関係ないですwwww
:ミヨリちゃんの交友関係の問題wwww
視聴者たちに図星を突かれて、ミヨリはグウの音も出なかった。
「今は配信を優先させないと」
玲奈たちにそう言って、先を急ぐ。
ミヨリが歩き出すと、他の三人も追いかけてきた。
綾乃はまだ震えているけど、がんばってついてきていた。




