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ミヨリは綾乃たちと共にダンジョンを進んでいき、第二階層まで降りてきていた。
『常闇の迷宮』は、まだ未攻略のダンジョンだ。全部で何階層あるのか判明していない。なので踏破するまでにどれくらい時間が掛かるかはわからなかった。
晩ごはんまでには帰宅したいので、ミヨリはハイペースで歩いていく。
:「ベヒーモス瞬殺」が早くもトレンド入り!
:たくさん切り抜かれてて、もう百万再生いってるのもある!
:同接も伸びてる!
:同接が四十万になってる!
コメントにもあったように、同接が四十万になっていた。うれしいけど、緊張で喉がかわいてくる。ミヨリはチラッチラッと、頭上に浮かぶ自分のドローンカメラをしきりに見ていた。
感知スキルを展開しながら歩いているけど、辺りにはモンスターの気配がない。このままでは視聴者が退屈してしまう。何か雑談をはさんだほうがいいかもしれない。
「そういえばムラサメちゃんにも、アビスソフトから感謝のメッセージとダンジョンブレイドのパッケージ版が贈呈されたんだよね?」
話を振ると、なぜか綾乃はゾクッと背筋を震わせていた。
「あ、あぁ……。わたしはゲームのことは紹介していないが、ミヨリの配信に出ていたということで、アビスソフトからの厚意でいただいた……」
綾乃の手元にも、ダンジョンブレイドが届けられた。一人でも多くの人にアビスゲーをプレイしてもらえるのはいいことだ。
「そうなんだね。わたしも今はダンジョンブレイドに夢中だよ。チュートリアルを終えた後の最初のボスがなかなか倒せないけど、あと数時間かければいけそうかな」
:ミヨリちゃんまだ最初のボスを倒せてないwwww
:相変わらずゲームの腕前はポンコツwwww
:やめろ! ワイもまだ倒せてないから!
:やっとこのまえ最初のボスを撃破できた!
:チュートリアル後のボスの強さじゃねぇよアレ!
:でも倒せたときの達成感はすごいぞ!
ダンジョンブレイドについて、多くのコメントが寄せられる。みんな真のブレイドマスターになるために、日夜戦いを繰り広げているみたいだ。
「ムラサメちゃんも、初めてのアビスゲーに戸惑ってムシャクシャしているだろうけど、諦めなければ道はひらけるよ。そこがアビスゲーの醍醐味だからね。わたしはネットの攻略情報は見ないようにしているけど、どうしても先に進めないなら攻略情報を頼るのもアリだと思うよ。そしてダンジョンブレイドをプレイするからには、ムラサメちゃんも真のブレイドマスターに相応しいかどうか試されているんだよ」
:めっっっちゃ早口wwww
:相変わらず好きなことになるとすっごい喋るwwww
:ゲームのことを語ってるときのミヨリちゃん目がヤバイなwwww
:アビスに脳をやられてるwwww
:これでまだチュートリアル後の最初のボスも倒せてないんだぜ、この子wwww
ダンジョンブレイドの素晴らしさについて、熱心に語り聞かせる。それだけで、幸せ成分が頭の奥から湧いてきた。
そばでミヨリの熱弁を聞いていた玲奈と小春は少し引いているが。
そして綾乃はバツが悪そうに目をそらして、黙ったままうつむいていた。
なんだかさっきから様子がおかしい。
「……ムラサメちゃん?」
「うひっ!」
距離を詰めると、下から顔を覗き込む。
至近距離でミヨリから見つめられた綾乃は、喉元にナイフを突きつけられたように悲鳴をあげて仰け反った。
「ムラサメちゃん、前にダンジョンブレイドをちゃんとプレイしてるって、言ってたよね? どこまで進んだのかな?」
「い、いや、それは……」
「……どこまで進んだのかな?」
「うっ……ぐっ……」
ジーッと綾乃の顔を見あげる。
自分よりも背の低い女の子に圧をかけられた綾乃は、額に玉の汗をにじませる。
そして二人のやりとりを後ろで眺めている玲奈と小春は「一体なにがはじまったんだ?」と困惑中。
唇をムグムグとさせていた綾乃は、観念すると恐る恐る打ち明ける。
「も、もう倒した……」
「……?」
最初は綾乃の言っていることの意味が理解できなかった。だけどすぐにその意味をひもとくと、ミヨリは面食らう。
「もしかしてムラサメちゃん、もうチュートリアル後の最初のボスを倒しちゃったの?」
「あっ、いや、そうじゃなくてだな……」
興奮気味に詰め寄ってくるミヨリを両手で制しながら、綾乃はためらいがちに答える。
「チュートリアル後の最初のボスなら、とっくに倒している。わたしが倒したと言ったのは、ゲーム内だと五体目のボスになるのか? メインストーリーの大ボスの一体を撃破したところまで、進んだということだ」
:えっ! ムラサメちゃんゲームうまっ!
:もうあの大ボス倒したのか! いまのところ撃破率かなり低いぞ!
:攻略情報見てもあの大ボスはぜんぜん倒せない!
:うおおおおおおお! すっげぇ!
:まちがいなくゲームの才能ある! 探索者やめてゲーム配信者になるべき!
:両方やればいい!
:ムラサメちゃんゲームまで上手いとは、なんてすごいんだ!(父より)
:ミヨパパwwww
:娘さんのことも褒めてあげてくださいwww
:規格外すぎて褒める前に恐怖しちゃうからwwww
綾乃の発言にコメント欄が賑わう。綾乃のことを絶賛する書き込みがいくつも流れていった。
だが、その報告にダメージを受けている者もいた。
「へ、へぇ~。そうなんだね……」
:…………あ
:ハッ! ミ、ミヨリ様……!
:ち、違うのですミヨリ様! これはそのぉ……!
:わ、我々はいつだってミヨリ様を応援しておりますともっ!(汗ダラダラ)
:ミヨリ軍が大慌てで草
:ミヨリちゃん落ち着いて! 別にゲームの進行が早いからって偉いわけじゃないよ!(大親友)
なるべく冷静であるように取り繕おうとしたが、どうしても声が震えてしまい、ミヨリの動揺は視聴者にバレバレだった。
「もしかしてムラサメちゃん、実はかなりのゲーマーだったりするのかな?」
「いや、わたしは普段そんなにゲームはしないぞ? 空いた時間があるときは、探索者の配信ばかり見ているからな。今回はメーカーからの厚意でいただいたゲームだから、やっているだけだ。プレイしてみたら、すぐにコツをつかむことができた」
:やめたげてwwww
:ムラサメちゃんやめたげてwwww
:ミヨリちゃんがダメージ受けるからもうやめたげてwwww
:ムラサメちゃん! 今ならミヨリに勝てるぞ!(父より)
:勝とうとすんなwww
:おとん推しを娘に勝たせようとすんなwww
「……このまえ、わたしが部屋でダンジョンブレイドをプレイしはじめたとき、ムラサメちゃん逃げるように帰っていったよね? あれって、そういうことだったんだね?」
「い、いや、まぁ……」
アビスゲーが大好きなミヨリよりも、先に進んでしまっている後ろめたさと、たぶんバレたらこうなるだろうなという予感があったので、綾乃は宮本家からの撤退を即断したというのが事の真相だった。
ていうかなんで責められているんだ? 綾乃は軽くパニックになる。
「本当にゲーム情報を使えば、ミヨリくんにダメージを与えられるんだな」
「……あの、これなんの時間ですか?」
二人のやりとりを見ていた玲奈は感心したように頷く。そして小春は困った顔で疑問を口にしていた。




