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「それでミヨリくん。さっきも話したように『常闇の迷宮』に入るためには鍵となる七つの指輪が必要だ。わたしはそのうちの三つを紛失しているから、指輪の数が足りていない。ミヨリくんは問題ないと言っていたが、本当に大丈夫なのかい?」
「玲奈さんと同じく、わたしもそれは気になっていた。何度聞いても『心配しなくていいよ』の一点張りで、ぜんぜん教えてくれなかったが、本当に指輪がなくても入る方法があるのか?」
「大丈夫だよ」
二人から追及されると、ミヨリは微笑んで頷いた。
:これでゲートに入ることさえできなかったら、完全に放送事故になるぞ!
:伝説のダンジョン編 完!
:勝手に終わらせんなwww
:ここからは女の子たちのゆる~い雑談配信になります
:わたしはそれでも一向に構わんッッ!
:一人だけ女の子って歳じゃないが……
:↑まさか代表のこと言ってるんじゃないだろうな?
:代表は永遠の十七歳でしょ?(すっとぼけ)
コメントの流れるスピードが速まる。視聴者たちも、指輪が足りていないのにどうやって『常闇の迷宮』に入るのか、気になっているようだ。
ミヨリはおもむろに歩き出すと、『常闇の迷宮』のゲートの前に立った。
空間にあいた大きな穴は、他のダンジョンにあるものと違って、半透明な壁により閉ざされている。七つの指輪をそろえなければ、この封印の結界を開くことはできない。
ミヨリは静かに右手を持ちあげる。
その手を、結界に向けて伸ばした。
指先が結界に触れると、バチッと音がして、ミヨリを弾き返そうとする。だけど意に介することなく、グッと力を込めて掌で結界を押していく。
バチバチバチッと音が強く鳴っても、ミヨリは結界を押し続ける。
「は? え……?」
「ちょっ、ミヨリくん? なにして……?」
「え? え? え?」
:いやいやいやいや! はぁ!
:ミ、ミヨリ様……?
:電撃が弾けるような音が結界からしちゃってるけど!
:並みの探索者なら、あれだけで弾き飛ばされてるぞ!
後ろにいる三人の戸惑った声が聞こえてくる。コメント欄も慌ただしくなっていた。
目の前にある結界は、さっきよりも荒々しい音を立ててミヨリを拒んでくるが、右腕に込める力をゆるめたりはしない。
――ピキッ。
ありえないことが起きた。
ゲートを閉ざしている結界の表面に、亀裂が走る。
:ちょっ! 結界にヒビ入ってない?
:待ってくれ! さっきから一体なにが起きてんだよ!
:そ、そんなバカなことが……!
:オイオイオイオイ! ウッソだろ!
更に右手に力を加えていくと、ビキビキビキビキッと刻まれた亀裂がひろがっていく。結界が悲鳴をあげて、ミヨリを弾き返そうとする反発力も大きくなっていく。
そして次の瞬間、窓ガラスが割れるような音が辺りに鳴り響いた。
これまで数多の探索者を拒み、ゲートを閉ざしていた結界が、ミヨリの右手によって意図もたやすく突き破られ、粉々に砕け散った。
道が開けると、ミヨリは振り返ってニコリと笑う。
「これでダンジョンのなかに入れるね」
:ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
:うえあああああああああああああああああああああああ????
:なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああああ!!!(父より)
:ミヨリ。よそ様の家の玄関を勝手に壊すのはどうかと思うわよ(母より)
:ダンジョンのゲートは玄関じゃねぇよwwww
:封印された結界を破る答え→手で押すだったwwww
:そっかぁ! 結界で封印されてるなら手で押して壊せばいいのかぁ!(発狂)
:なぁんだ! とってもカンタンなことだったんだねっ!(発狂)
:あっははははは! どうして今まで誰も気づかなかったんだろうねぇ?(狂い笑い)
:初っ端から多くの視聴者が発狂しとるwwww
:配信はじまったばっかなのにもう頭おかしくなりそうだwwww
:まだダンジョンに入ってないのに何名か発狂した模様wwww
:封印の結界を壊そうとした探索者は過去にもいたけど普通に無理だったぞwwww
:あの結界は高威力の魔法攻撃を連続で撃ち込んでも傷一つ入らなかったはず!
:ミヨリちゃん今日もじゅごるるるるるるるるるるるるるるるる!!!(大親友)
:大親友www
:言語バグっとるwwww
:じゅごるるるるってなんだよwwww
:数年かけて仲間たちと必死に指輪集めしてる途中のワイ、膝から崩れる……
:ワイも苦労してこのまえやっと一つめの指輪をゲットしたばかり……
:これから指輪を集めようとしてたけど、いまの見て心が折れた……
:探索者ニキたちが嘆いててかわいそうwwww
:これたくさんの探索者たちに特大ダメージを与えただろwwww
スマホ画面では、コメントの嵐が吹き荒れていた。結界を破る方法を今日まで秘密にしていたのは正解だった。ミヨリは微笑みながら頷く。
「いや、おかしいだろ! どうなってるんだ!」
「昔のわたしの仲間たちがここにいなくてよかったよ。たぶん今の見てたら、苦労して指輪を集めていた時間はなんだったのかと、みんな愕然としていた」
「も、もしかしてわたし、すっごく危ない人とパーティを組んじゃったの……?」
:ムラサメちゃんが慌ててるwww
:そりゃ慌てるだろwww
:代表は遠い目をしてるなwwww
:たぶん代表は顔に出してないだけで、かなりショックを受けてるwww
:小春ちゃんは来たことを後悔しはじめてるねwww
:さっきまで活き活きしてたのにねwwww
:残念だったね小春ちゃんwww もう引き返せないよwwww
同行している三人も驚愕していて、信じられないものでも見るような目をミヨリに向けてくる。
「さすがにブルードラゴンが使ってきた結界とかは、素手で破壊するのは難しいけど、これくらいなら押せば壊せるよ。手がちょっとビリビリするくらいだしね」
:手がちょっとビリビリするくらいwww
:屈強な探索者を弾き飛ばしちゃう結界なのにwww
:これでまたミヨリ様に新たな伝説が生まれた!
:これがミヨリ様か……
:新規の反応がおもしろくて草
:かつては俺もミヨリちゃんを見たときフリーズしてた
:なんなら今もフリーズしてる……
じっくりコメントを読んでみんなの反応を確認したいけど、あんまり悠長にはしていられない。
「この手の結界は壊れてもすぐに修復されるからね。その前に、早く入っちゃおうか」
ミヨリはダンジョンに入るようにと、後ろにいる三人を促す。
「最後まで持ってくれよ、わたしの心臓……」
ミヨリのせいで早々に心拍数が乱れつつある綾乃は、深呼吸をしながらつぶやいた。
:たぶん無理だよムラサメちゃんwww
:諦めろwwww
:ムラサメちゃん無茶だけはしちゃダメだ! 危険だと思ったら撤退も視野に入れるんだぞ!(父より)
:あなたの娘さんが一番危険なんですwwwww
:なんなら伝説のダンジョンよりも娘さんのほうが危険wwww
:娘よりも推しのことを心配してるおとんwww
「では、行くとしようか」
想定外の方法で結界が破られたことにギョッとしていた玲奈だったが、どうにか平静を取り戻すと、後輩たちに目を配りながら声をかける。
まだおびえている小春は「うっ、あっ、うっ……」とまともに返事ができていないが、足を動かして歩くことはできていた。
:ついに伝説のダンジョン『常闇の迷宮』の攻略開始か!
:ミヨリちゃんがすごいのはわかってるけど……本当に踏破できるのか?
:踏破はできなくても、ミヨリンがいるから全員生還はできると思う……
:ワクワクしてきた!
コメント欄には、様々な書き込みがされている。ミヨリたちの身を案じるものや、これからはじまる冒険にワクワクしているものもある。
ミヨリは心音が高鳴るのを感じながら、三人と一緒に、道が開けたゲートに踏み込んでいった。




