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:代表は配信しないんだな?
:もう配信やめてかなり経つから……
:実は代表がまた配信してくれるのを密かに期待してた!
「玲奈さんはもう配信をやらないのかって、いくつかコメントがきてます」
ミヨリもそこは気になっていたので、玲奈に尋ねてみる。
「配信を再開するつもりはないよ。それは今後も変わらない。今日このダンジョンを攻略できたら、もう探索者として思い残すことはないからね。また裏方に戻るつもりさ」
:てことは代表がダンジョンにもぐるところを見られるのはこれが最後かもしれないのか!
:マジかよ!
:最近現場に復帰してくれたから、うれしかったんだけどな……
現場から離れて久しいのに、こんなに応援してもらえるなんて、よっぽど人気者だったんだろう。玲奈が配信するところを見たいと、多くの視聴者たちが望んでいた。
だけど玲奈自身が配信をやるつもりがないのなら、仕方ないことではある。
:ところで野次馬の探索者は周りに来てない?
:今回の攻略は探索者たちから注目されてたけど誰も集まってないのか?
:何人かは来ると思ってたんだけど?
:また無意味な出待ちをする人達がいるかと思ってたwwww
「そうだね。周りにはわたしたち以外の探索者はいないね」
人間の気配がするのは、ゲートの近くにある受付の人が待機している建物からだけだ。ミヨリたちの他には、探索者の姿は見受けられない。
:今回の配信には注目してるけど、探索者同士で互いに『常闇の迷宮』には近づかないようにって声をかけあった(探索者ニキ)
:ミヨリちゃんが来るから、巻き込まれたくないならダンジョンに入るんじゃないぞって避難勧告を出してたよ(探索者ネキ)
:『常闇の迷宮』は簡単に入れるようなダンジョンじゃないから、あんまり近づかないだろうけど一応ね(探索者ニキ)
:犠牲者が少ないに越したことはない(探索者ニキ)
:やっぱりみんなミヨリちゃんから逃げてたかwwww
:賢明な判断だwwww
:ミヨリ様モンスター扱いwww
どうやらミヨリのことを警戒して、探索者たちは『常闇の迷宮』から距離を取っているようだ。
一体自分をなんだと思っているのか? ミヨリとしては不服なので、ムムッと唇を上向きに曲げる。
:ていうかダンジョンにもぐるのはこの四人だけ?
:代表の昔の仲間はどこだ?
:声をかけるって代表言ってなかった?
「玲奈さんの昔の仲間の人達は来ていないのかって、コメントに質問が来てますけど」
ミヨリは玲奈のほうに向き直って、疑問を口にする。
綾乃も伝説のパーティが再集結するのを期待していたようで、『配信日が楽しみだ!』というメッセージを何度かミヨリに送ってきていた。
だけど当日になってみれば、玲奈の昔の仲間たちはどこにも見当たらない。伝説のパーティと呼ばれていた探索者たちの姿は、影も形もなかった。
「あ~、それなんだがね。わたしも若い頃に一緒に冒険した仲間たちとの再会を楽しみにして、声をかけたんだけど……」
玲奈は申し訳なそうに苦笑して言いよどむと、ミヨリから目をそらす。
「もしかして、また『常闇の迷宮』に行くのが怖くなったとかですか?」
「いや、このダンジョンに一緒に行こうと誘ったら、みんな迷いながらも了承してくれたよ。わたしと同じで、攻略できなかったことに未練を感じていたようだ。ただその……パーティにミヨリくんがいることを話したら、すぐに拒否されてしまった」
「…………」
伝説のパーティが再集結しなかった原因は、ミヨリにあったようだ。
:伝説のダンジョンはよくてもミヨリちゃんはNGだったwwww
:ミヨリちゃんとは共演できませんwwww
:ムラサメちゃんとパーティを組んだときの配信を見たらそりゃあねwww
:伝説のダンジョンよりも怖がられてるミヨリンwww
「いや、なかにはミヨリくんがいても構わないと言ってくれた仲間もいたんだよ。だけどそいつ、自分の娘から『ミヨリちゃんに食べられちゃう! やだぁ~!』って泣きつかれてしまって、やっぱり行けなくなったそうだ」
:wwwwwwwwww
:ミヨリちゃん、子供に怖がられてるwwww
:そらそうだろうよwww
:触手! デッカイ犬(目が八つ)! 影でモンスター食う! 目玉と口がたくさんついた大剣を使う!
:怖がられる要素しかねぇwww
:子供じゃなくても怖いwwww
:普通こういうのって昔の仲間が再集結して盛りあがるのに、そうならんかったwww
:ミヨリちゃんのせいで胸熱展開が消滅wwww
:ムラサメちゃんがめっさガッカリしとるwwww
やっぱりわたし、子供にまで怖がられている。玲奈の話を聞いて、ミヨリは心にダメージを受ける。
そして伝説のパーティが再集結することを誰よりも楽しみにしていた綾乃は、肩を落としてあからさまに落胆していた。
「シルバーダスクのメンバーにも声はかけたんだけど、ミヨリくんがいるとわかると、みんなおびえてしまってね。綾乃くらいしか来てくれなかったよ」
:トップクランに所属する探索者たちでもミヨリちゃんは怖い模様www
:ここまでみんなに怖がられてるのになんでミヨリちゃん人気高いんだよwww
:配信がおもろいからwwww
:こうして来てくれた代表とムラサメちゃんはえらいな!
:小春ちゃんもえらい!
もしかしたら、このまえ綾乃とパーティを組んで行ったダンジョン配信は、ミヨリが思っていた以上に刺激が強かったのかもしれない。
こうしてミヨリとパーティを組んでくれる三人は、希少なのだろう。
「まぁ、かつての仲間たちは集まらなかったが、綾乃と小春くんがいるから問題ないよ。二人の実力は本物で、戦力になるとわたしは考えている」
「は、はい! 任せちゃってくださいよ! ダンジョンを踏破するために、全力でがんばっちゃいますよ!」
玲奈に認められて自己肯定感が高まったのか、小春は拳で胸を叩いてフフンと得意げに鼻を鳴らした。
「かつての玲奈さんの仲間の人達に比べたら力不足でしょうけど、わたしだって前回ミヨリとダンジョンにもぐったときよりもレベルアップして強くなりましたから。玲奈さんの夢を叶えるために、最善をつくします」
クランマスターから期待されていることに、綾乃も気炎を燃やす。探索者の強さの指標となるレベルは、高ければそれだけ自信につながる。
そこでふと綾乃は一つの疑問が浮かび、いぶかしげな視線をミヨリに向ける。
「ミヨリ。おまえのレベルは今いくつなんだ?」
「そういえば、ずっと計ってないね」
探索者組合の事務所には、レベルを計測するマジックアイテムである水晶玉が置かれている。だいぶ前に、あの水晶玉に触れて以降は計っていない。
自分のレベルがどれくらいなのか、把握していなかった。
でも、そんなのは気にしなくても大丈夫だ。
「ムラサメちゃん。大切なのはレベルよりもプレイヤースキルだよ。アビスゲーでもそうだからね。どんなにレベルが高くても、プレイヤースキルが低ければボスは倒せない。逆に低レベルでも、プレイヤースキルさえ高ければボスを倒せてしまう。うちのお母さんは、低レベルでアビスゲーのラスボスを倒していたよ」
「……いまゲームの話とかいいから」
「本当にゲームに脳をやられているんだね、ミヨリくんは……」
「……やっぱりこの人、やべぇ女だ」
:代表が早くも引いてるwwww
:小春ちゃんも引いてるwwww
:ムラサメちゃんはもうなんか諦めてるなwwww
:レベル? そんなのミヨリちゃんの前では無意味な概念だよ!(大親友)
:ミヨリはもっとゲームでのプレイヤースキルをみがきなさいwww(母より)
プレイヤースキルの大切さについて説いてみたが、三人には響かなかった。ミヨリは唇を閉ざしてムッとする。
相変わらずゲームと現実の境界線が曖昧なミヨリに綾乃はため息をつくと、真剣な面持ちになって玲奈と小春を見やる。
「いよいよこれから伝説のダンジョン『常闇の迷宮』にもぐりますけど、心の準備はいいですか?」
「もちろんだよ。わたしはこのダンジョンに再び踏み込むのを、ずっと待ち望んでいたんだからね」
「いつでも準備オッケーだよ! 絶対にこのダンジョンを踏破して、固定ファンをいっぱい獲得してみせるんだから!」
玲奈と小春が胸を熱くしながら、それぞれの決意を述べる。
だけど、それを聞いていた綾乃は眉根を寄せると、激しく首を左右に振った。
「そういうことじゃないです。伝説のダンジョンとかじゃなくて、ミヨリとパーティを組むことの心の準備を聞いてるんです。ミヨリとダンジョンにもぐるからには、まともな精神で帰ってこられるだなんて思わないほうがいい」
:ムラサメちゃん失礼wwww
:伝説のダンジョンよりもミヨリちゃんのほうが怖い件!
:ムラサメちゃんよくわかってらっしゃる!
:経験者は語るwwww
「なんだかムラサメちゃんに失礼なことを言われてる」
ミヨリは半目になってスマホを見下ろし、高速で流れていくコメントを読みながらつぶやいた。
「……えっと、綾乃がミヨリくんとパーティを組んでいたときの配信を見れば、言いたいことはわかるが……」
「ミヨリちゃんの恐怖のまとめ動画を見て予習してきたけど、やっぱりもう帰りたいかも……」
:恐怖のまとめ動画www
:小春怖じ気づくなwwww
:ここまで来たらもう遅いwww
:覚悟決めてきたけど、ムラサメちゃんの話を聞いてやっぱり怖くなったかwww
綾乃からの最後の確認を受けて、玲奈と小春は肝が冷えた。とりわけ小春は膝を小刻みに震わせている。
だけど、二人とも逃げ出したりはしない。ミヨリとパーティを組んで『常闇の迷宮』に挑むようだ。
綾乃と小春がとどまってくれたことに、ミヨリはホッとする。




