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「ムラサメちゃん、それが新しいカメラ?」
「あぁ、そうだ。以前よりも性能が優れたものを使っている。費用を負担してくれた玲奈さんには感謝しないとな」
「綾乃はシルバーダスクの期待の星だからね。金銭に糸目はつけないよ」
綾乃の頭上に浮かんでいるドローンカメラは、クランが購入してくれたものだ。高性能ということは相当に値が張るのだろう。それを買い与えてもいいと思えるほどに、綾乃は玲奈から重宝されている。
綾乃が配信を再開できているのをこの目で確認できて、ミヨリは安心する。同業者として、綾乃にはたくさんの人たちに冒険の楽しさを届けてほしい。
:同じダンジョンにいることはわかっていたが、こうしてムラサメちゃんと会えるだなんて! こんなラッキーなことはないぞミヨリ!(父より)
:だからおとんどうしたの?
:さっきから変だぞミヨパパ?
スマホ画面をチェックすると、コメント欄がザワついていた。どうやら茂則の書き込みに、視聴者が戸惑っているみたいだ。
:お父さんはムラサメちゃんのファンになりましたwwww これまでのムラサメちゃんの動画をヘビロテで見まくって喜んでますwwww(母より)
:オイオイオイオイオイwwwwwww
:ウッッソだろwwwwwww
:なんでだよwwwwwww
:いやwwwwちょっwwwwマジでかwwww
:何があったんだよおとんwwwww
:なにがどうしてそうなったwwwww
:ごめんムリwwww 展開に脳がついていけんwwww
:おとんムラサメ騎士団の一員になるwwww
:娘さんのせいでポンコツ騎士団とか呼ばれてるけどねwwww
香奈子から伝えられた真実によって、視聴者たちが騒然となっている。茂則が綾乃のファンになったことは、よっぽど驚きだったようだ。
とりあえずこのことは、綾乃にも報告しておいたほうがいいだろう。
「うちのお父さんなんだけど……」
「おじさんがどうかしたのか?」
「ムラサメちゃんの配信がないと死んじゃうかもしれない」
「……ちょっと待って。おじさんに何があった?」
:説明が重たすぎるwww
:ムラサメちゃんがめっちゃビビってて草
:いきなりそんなこと言われたらビビるわwwww
:もっと普通に教えてあげなよwwww
視聴者たちから指摘を受ける。実際ミヨリの説明を聞いて、綾乃は恐怖していた。もっとわかりやすく話そう。
「うちのお父さんが、ムラサメちゃんのファンになったよ。家にいてもムラサメちゃんの話ばかりで、ムラサメちゃんは素晴らしい探索者だって、魂を救済されたって言っていたよ」
「魂を救済した覚えはないが……」
綾乃は少し困惑するが、この前はげましたことが関係しているのだと、すぐに思い至ったようで落ち着きを取り戻す。
「応援してくれるのなら、わたしはうれしいですよ。これからも配信をがんばろうと思えますから」
綾乃は活気のある笑みを浮かべると、ミヨリのドローンカメラを見あげながら感謝の想いを口にする。
:ムラサメちゃんの配信を見てたら気持ちが安定する! 遠くからムラサメちゃんの成長を見守らせてもらいます!(父より)
:お父さん今日はずっとムラサメちゃんとミヨリの配信を二窓で見てるwww(母より)
:まぁ、おとんが元気そうでよかったよwww
:うちの親父も若い配信者とか好きだからwww
:おそらく娘の配信で不安定になった精神を、娘の友達の配信を見て安定させてるwww
:状況がカオスすぎるwwww
:二窓で見てるならバランスとれててちょうどいいwww
綾乃からの言葉を聞いて、茂則が歓喜している。よかったとミヨリは安堵する。
「それはそうとミヨリくん。そろそろシルバーダスクに入りたくなってきたんじゃないかい?」
ミヨリと綾乃の会話をそばで聞いていた玲奈は引き気味だったが、二人のやりとりが一段落ついたのを見計らうと、人好きのするような穏やかな笑顔になって勧誘してきた。
「いいえ、まったく」
もちろんミヨリはきっぱりと断る。
:トップクランの誘いをバッサリ切り捨てるミヨリちゃんwww
:代表を相手に全くひるまずそんなこと言えるなんてすげぇな!
:探索者からすればシルバーダスクの代表からの勧誘を断るなんてもったいなさすぎる……
:一流企業から高待遇で誘われてるようなものなのにね!
:SNSでもどこのクランにも所属するつもりはないって書いてたから!
:たぶん理由は黒野スミレがどこにも属さないキャラだったからwwww
:そんな理由で断ってんのかよwww
:そういえば小春ちゃんも代表から勧誘されたことがあるそうだな!
「小春ちゃんもシルバーダスクに勧誘されたことがあるって書いてあったけど、本当なの?」
気になるコメントが目についたので、ミヨリは尋ねてみる。
ミヨリと視線が合うと、小春はピクッと頬をひくつかせた。
「あっ、うん。実力を見込まれて玲奈さんから誘われたことがあるんだけど、なんだか集団に属するのとか怖くって……知らない人ばかりだし、人間関係もいろいろとありそうだから」
「そういう理由で、小春くんには断られてしまったよ」
小春は顔をそむけると、組み合わせた両手をモジモジさせて理由を打ち明けてきた。それを聞いていた玲奈は、過去のことは気にしていないようで穏やかに笑っている。
:小春ちゃん陰キャの部分がはみ出てるwww
:わかるよ! 部活とかサークルとか人間関係が面倒そうだから入りたくないもんね!
:笑って許してる代表やさしい!
小春の話を聞くと、ミヨリは「なるほど」と頷いた。
「ミヨリくんにはまたフラれてしまったようだね。どうすればミヨリくんをクランに引き込めるのか、悩ましいかぎりだよ」
玲奈は冗談めかして笑っているが、ぜんぜんミヨリのことを諦めていないようだ。
「あの、どうして玲奈さんは、そんなにわたしをクランに入れたいんですか?」
目的を知りたくて、ミヨリは疑問を直接ぶつけてみる。
玲奈は目を見開くと、数秒ほどためらうように黙っていたが、やがて観念したのか、遠い過去を懐かしむように小さな笑みを浮かべた。
「勧誘するからには、理由を話しておくべきだね」
自分に呆れたように吐息をつくと、玲奈は語り始める。




