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「うっかりモンスターを倒しちゃいましたけど、もしかして玲奈さんたちの獲物を横取りしちゃいましたか?」
「いいや、構わないよ。モンスターの一体くらいどうってことないさ。こうして直にミヨリくんのヤバさを目の当たりにできて、恐怖と感動で胸が高鳴っているよ」
ブラッディベアを撃破したのは問題なかったようなので、ミヨリは胸を撫で下ろす。
「それといま配信中で、カメラに玲奈さんたちを映しちゃってますけど……」
「それも問題ないよ。というか、そっちの二人も配信中で今ミヨリくんのことを映してしまっているけどね」
玲奈たちの頭上には、二台のドローンカメラが浮かんでいた。綾乃ともう一人の女の子が撮影しているようだ。ミヨリの姿も二人の配信に映っていることになる。
「二人とも、ミヨリくんがカメラに映っているが、構わないだろ?」
「えぇ、まぁ……」
「も、もちろんですよ! ミヨリちゃんがわたしの配信に映ってるってことは、もしかしたら同接が伸びるかも……!」
玲奈が確認を取ると、二人ともミヨリが配信に映ることを了承してくれた。初対面の女の子のほうはすぐに頷いて、口早に何かを言っている。
「わたしのほうも、二人の配信に映っても問題ないですよ」
お互いに相手の配信に映ることを許可しあう。
ミヨリが『鋼鉄の審判』にもぐっていると教えたとき、いくつかのコメントが反応していたけど、おそらく何名かの視聴者は綾乃たちが同じダンジョンにいることを知っていたんだろう。
「……ところで、そっちの人は……」
このまま自己紹介もせずにスルーするのは失礼になる。ミヨリは白いローブの女の子を見た。
ミヨリが視線を向けると、女の子はビクリと竦みあがる。
「ほ、本物のミヨリちゃんがこっち見た……。実物はこんなに小さいんだ……」
「…………」
悪気があっての発言じゃないのだろうけど、身長のことを言われると胸のあたりがモヤッとする。背が低いのは事実だから仕方ないけど。
おびえながらミヨリのことをまじまじと見てくる女の子は、スーハーと深呼吸をすると、さっきまでとは別人のように明朗な笑みを顔面にはりつけてきた。
「はじめまして、星川小春だよ! 個人で探索者をやってます! 歳はミヨリちゃんやムラサメちゃんと同じ十六歳で、高校一年生だよ! といってもミヨリちゃんやムラサメちゃんほどの人気者じゃないんだけどね! あっははははは!」
「……宮本ミヨリです」
「うっ……」
太陽さながらの晴れやかな笑顔で挨拶してきた小春だったが、ミヨリが淡々と返事をすると、笑顔が消え去って声をつまらせていた。
小春はキョロキョロと目を泳がせて、続く言葉を見つけられずに口をパクパクさせる。胸の前で両手を組んでモジモジして、めっちゃキョドっていた。
一体どうしたんだろう?
「土下座しますっ!」
「なぜ?」
突然その場に膝をついてきた小春に、ミヨリはキョトンとする。様子のおかしい人だ。
:なんだこの子おもしれぇなwwww
:小春ちゃんはいつもこんな感じよwwww
:がんばって明るく振る舞おうとしてるんだけど、根が陰キャだからwww
:さっきのどこかで見たことあるな~と思ったら、高校デビューしようとして最初の自己紹介で張り切りすぎて事故ったときの俺でしたwwww
「ミヨリ、この子は星川小春といってわたしと同じ高校に通っている探索者だ。どのクランにも所属していないが実力は本物で、若手のなかでもトップクラスに値する」
「そうなんだ。よろしくね、小春ちゃん」
「……あっ、う、うん! よろしくミヨリちゃん!」
膝をついていた小春は慌てて立ちあがると、若干ぎこちない笑みを浮かべながら挨拶してくる。ぎこちないけど、さっきの無理している笑顔よりは自然体に見えた。
:ムラサメちゃんが自己紹介をやり直してるwww
:小春ちゃんをフォローしてあげるムラサメちゃんやさしいwww
:ミヨリちゃんもさっきよりすんなりと受け入れてて草
:小春ちゃんが根は陰キャだってことは視聴者にバレてますwww
:配信のほうでは『小春ムリすんなwww』ってコメントをよく見かけるwww
小春についての情報がコメント欄に書き込まれていく。それを読んで、さっきまでの小春の言動に違和感があったのはそういうことかと、ミヨリは合点がいった。




