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「……なんでアラーム鳴らなかったんだろ?」


 いつもより少しだけ遅い時間に自室のベッドで目覚めたミヨリは、眠気を引きずりながらスマホを手に取った。


 ……電源が入らない。どうやら充電が切れているらしい。

    

 アラームが鳴らなかった原因が判明すると、スマホを充電器につなぐ。


 電源が入ってホーム画面が表示されると、たくさんの通知が来ていた。


『マスタングさんを含む1562人が、あなたをフォローしました』


「……ん?」


 その通知を目にすると、何かの見間違いかと思う。まだちゃんと目が覚めていないのか? 


『冷シャブさんを含む2395人が、あなたをフォローしました』


 見間違いではない。他にもたくさん通知が来ている。


 一気に頭が覚醒すると、胸の鼓動が加速して身体が熱くなった。


 急いで配信告知用のSNSのアカウントを確認してみたら……。


 フォロワー数が20万を超えていた。


 ……20万。


 その圧倒的な数字にミヨリは呆然となる。


「……なにこれ?」


 なんでこんなことになっているのか? 全力で思考を働かせるが、まるで答えがわからない。


 固まったままスマホを見ていると、着信音が鳴り出した。


 友人である藤森千紗ふじもりちさからだ。


 スピーカーモードで千紗からの電話に出てみると……。


「ミ、ミ、ミ、ミ、ミヨリちゃあああああん! ミヨ、ミヨッ、ミヨリちゃああああああああああああああああああああ――――プツッ」


 ミヨリは通話を切った。


 二秒もせずに千紗からまた電話がかかってくる。 


 もう一度、電話に出てみる。


「どうして切っちゃうの!」


「千紗のテンションが壊れてたから、一度切ることで冷静になってもらおうと思って」


「そりゃテンションが壊れもするよ! 昨日から何度も電話してるのにぜんぜんつながらないし! わたし五百回以上は電話したんだよ! メッセージだって二千件くらい送ったのに!」


「スマホの充電が切れてて、気づかなかったんだよ」


 そして気づいてたら引いてた。現にいま引いてる。まさか友人の異常な鬼電とメッセに恐怖する日がくるだなんて。


「そんなことより、すごいんだよ! ミヨリちゃんがすごいことになってるんだよ! 今すぐ動画のチャンネル登録者数を見て!」


 耳が痛くなるほどの大声で千紗がまくし立ててくる。ただ事ではないようだ。


 なぜかたった一日でSNSのフォロワー数がおかしなくらい増えていた。


 ということは、まさか……。

 

 その予感に駆られると、慌ててスマホを操作して配信アカウントを確認してみる。


「チャンネル登録者数……30万!」

  

 その数字を画面で見ると、スマホを持っている手がブルブルと震え出した。


 これ本当にわたしの配信チャンネルなのかと目を疑ってしまう。


「……なんでこんなことに?」


「昨日ミヨリちゃん、女の探索者の人を助けたでしょ?」


「うん。ダンジョンの下層の方で魔剣に呪われていたからね」


「あの人、村雨綾乃(むらさめあやの)って名前で、SNSのフォロワーや配信のチャンネル登録者数が100万人を超えている人気者なんだよ。ムラサメちゃんって愛称で呼ばれてて、若手のなかでも上位の実力者。それに国内トップクラスのクランであるシルバーダスクに所属しているんだよ」


 シルバーダスクは優秀な探索者や人気配信者が多くいると聞いたことがある。


 あまり他の探索者に興味がなくて、探索者界隈の情報に疎いミヨリでも、シルバーダスクの名前は知っていた。


「あの人、有名な配信者だったんだ」


「そうだよ! それでそのムラサメちゃんの動画に昨日の出来事が映っていたんだよ! 映像は乱れていたけど、ミヨリちゃんが魔剣を折って、ムラサメちゃんを助けるところがバッチリとね!」


 千紗から熱心な説明を聞かされると、どうしていきなりフォロワーやチャンネル登録者数が爆増したのか、ようやく状況がつかめてきた。


「そのときの映像が切り抜かれて、何百万再生もされてるんだよ! それで昨日からネットはお祭り騒ぎ! ミヨリちゃんも配信を切り忘れていたみたいだから、チャンネルが特定されたんだよ!」


「配信を切り忘れていたか……」


 そういえば昨日はおざなりに操作して、よく確認していなかった気がする。


「ようやくだよ! ようやくこのときが来たんだよ! ミヨリちゃんのすごさを世界に知らしめるときが! 伝説の幕開けだよ!」


 ハァハァと興奮した友人の息づかいがスマホから聞こえてくる。言っていることが大げさだ。


「わたしよりも千紗の方が興奮してる」


「ミヨリちゃんが落ち着きすぎなんだよ! もっと感情を爆発させなよ!」


 感情は爆発させないけど、こうやって友人が喜んでくれるのはうれしい。


 以前から千紗は、ミヨリの配信が振るわないことを誰よりも悔しがっていた。「世界は何もわかってないよ!」と世界そのものを否定していたくらいだ。


 せっかくバズったんだ。こんなことは一生に一度あるかどうかわからない。自分にもチャンスが巡ってきたんだと良い方向に受け止めよう。


 ……正直まだ受け止めきれなくて、身体が震えてるけど。


「……ん?」


 千紗と通話しながらスマホの画面をなんとなくイジっていたら、とあるワードが目についた。


「……『やべぇ女』『ムラサメちゃんを運ぶやべぇ女の子』『小さなやべぇ子ちゃん』……」

 

「あっ! SNSのトレンドワードはどれもミヨリちゃん一色で埋めつくされてるよ! やったね!」


「……やべぇ子」


 どうやらミヨリは、やべぇ子としてSNSで話題になっているらしい。


 ……解せない。困っている同業者を助けたのに、なぜそんな扱いなのか?


 あと背が低いことは気にしているので、話題にされるとモヤッとする。


「みんなわかってないよね! ミヨリちゃんのヤバさは、まだまだこんなものじゃないのに!」


「それ、褒めてるの?」


「もちろんだよ!」


 友人の活き活きとした声に、ミヨリは嘆息する。


 続きは学校で話すとしよう。


 そろそろ朝食の時間だから、通話を切ることにした。




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電話500回に、メール2000件だと超迷惑状態な友人。
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