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いつものように校門を通って学校に着くと、そこでミヨリを待っていたのはちょっとした騒ぎだった。
「ひぃ! み、宮本さん!」
「いつも見ている宮本さんなのに、配信で見た宮本さんと同一人物だとは思えないよ……」
「前々からタダ者じゃないと思っていたが、まさか宮本もアビス信者だったとはな……」
恐る恐る声をかけてくる生徒もいれば、ミヨリを見るなり逃げるように立ち去っていく生徒もいた。
ミヨリが校庭に踏み込んだだけで、周りの空気が騒然となる。
しかも声をかけてくるのは同級生たちだけではない。なぜか先輩からも「おはようございます、ミヨリ様」と敬語で挨拶されて頭を下げられた。
対応に困って、「あっ、どうも」としか返せない。
最近ではこれが日常になっている。綾乃とのダンジョン配信によって、チャンネル登録者数が爆発的に増加して100万人を突破した影響だ。
……100万人。その数字は未だに信じられない。本当に現実なのかと疑ってしまう。
大バズりして、自分の配信を見てくれる人が増えたのはうれしい。
うれしいけど、以前よりも学校で声をかけられることが多くなった。
ため息をつきたいのを我慢しながら教室に入ると、クラスメイトたちからも注目される。ミヨリを見るなり、ビクッとする生徒が何名か見受けられた。
そのせいでまた倦怠感が蓄積される。自分の机につくとグッタリと突っ伏した。
こういう扱いを受けるのは学校に限った話ではない。最近は街中でもミヨリだと気づいた人にビクッとされてしまう。
今後はこういうことが増えていきそうだ。
「ミヨリちゃんのチャンネル登録者数が100万人を突破したね! 学校でも着実にミヨリちゃんを応援する人達が増えつつあるよ!」
ミヨリが机に突っ伏していると、友人の藤森千紗が満面の笑みを浮かべて声をかけてきた。
ウェーブのかかった長い髪に、おっとりとした顔立ち。可愛らしい容姿なのに、目のなかではグルグルと渦が巻いていて理性を失っている。
机から顔をあげると、千紗を見ながら懸念を口にする。
「わたしを応援してくれる人たちが増えたのはうれしいけど、学校に迷惑がかからないか心配だよ」
「そこは大丈夫だよ! ミヨリちゃんの通う学校にやって来ようとする不届き者なんていないよ! この学校には魔物が住んでるって噂になっていて、みんなミヨリちゃんを畏怖して近づこうとしないからね!」
「なんだか不良漫画の強キャラみたいな扱いをされてる……」
はたしてそれは喜んでいいことなのだろうか? 学校に迷惑がかからないのは、いいことなんだろうけど。
「最悪ミヨリちゃんに食べられちゃうからね! 変な輩なんて学校に近づいて来ないよ!」
「……わたし人間を食べたりしないけど」
ダンジョンのモンスター並みに怖がられているというか、それ以上に危険人物認定されている気がする。
「ようやく世界がミヨリちゃんに追いついたね! だけどまだまだ足りないよ! ミヨリちゃんがこの世界の頂点に立つためには、もっともっともぉ~っと、『ミヨリ軍』を増やさないと!」
「世界の頂点に立ちたいだなんて思ったことないけど……ていうかミヨリ軍ってなに?」
「ファンネームだよ! ミヨリちゃんのことを応援してくれて、忠誠を誓ってくれた人たちのことをネットではミヨリ軍って呼んでいるんだよ!」
「そうだったんだ」
いつの間にかミヨリを応援してくれる人たちのことを、そう呼ぶようになっていたらしい。
ファンネームができたのはうれしい。同接ゼロだった頃は、そういうのとは無縁だったから。
……でも忠誠までは誓わなくていい。千紗みたいなのは、一人だけでお腹いっぱいだ。そんなにはいらない。
自分を応援してくれる人たちにファンネームがついた。そのことを知ると、自ずと口元がほころぶ。どうやら自分で思っていたよりも、気分が盛りあがっているようだ。
スマホを取り出すと、さっそくミヨリ軍についてネットで検索してみる。
すると……。
『やべぇ女に精神を壊されてしまった人々www』
『やがて世界を滅亡させるであろう軍団wwww』
『気をつけてください。もしかしたらあなたの隣の人も、ミヨリ軍なのかもしれないのだから……』
『一度でもミヨリ様に脳を焼かれてしまった我々は、もう正常だったあの頃には戻れない……』
といった変な書き込みが目についた。なかには完全にネタにしているものまである。
「不良漫画の強キャラどころか、前よりもやべぇ女として扱われている」
これじゃあまるで自分が魔王か何かのようだ。
……なぜ?
ミヨリはムムッと唇を上向きに曲げながら、不服そうにスマホの画面と睨めっこする。
それを遠巻きに眺めていたクラスメイトたちは、「そりゃそうだろう」と心のなかでみんな同じことをつぶやいた。




