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「さっきファイアーボールを何発か当ててわかったけど、あの結界はダメージが通りにくいだけで、まったくダメージが入らないわけじゃない。わたしのファイアーボールでも、多少は結界に傷がついていた。つまり高威力の攻撃をぶつければ、壊せるってことだよ」


 天空を浮遊するブルードラゴン。その巨体を守っている光の結界を眺めながら、ミヨリは口の端を持ちあげる。


:もしやファイアーボールでゴリ押しするつもりか!

:それでもどれだけ時間がかかんだよ!

:結界を破壊する前にやられちゃうって!


 ミヨリはスマホ画面に表示されるコメントを横目で見ると、おもむろに右手を前に向かって伸ばした。


 正面に向かって右手を突き出したまま、足元の影に呼びかける。


「出ておいで、ギョロちゃん」


:ギョロちゃん?

:まさか別のイヌ!

:ワンワンか!

:ワンワンとは別のペットか!


 ミヨリの呼びかけに応じて、ズズズズズッと影のなかから浮上してくる。

 

 それは長さが二メートルはある、真っ黒に染めあげられた漆黒の大剣だ。


 大剣の表面には、たくさんの目玉や口がついている。まるで生きているように目玉がギョロギョロと動き、口がパクパクと開いている。


 いろんな生物を無作為に集めて閉じ込めているような禍々しさが、その大剣にはあった。


:ふぇぇぇ…………!!!!

:ぴええええええええええ!!!

:ミ、ミ、ミ、ミヨ、ミヨヨヨヨヨヨよよよよよよよ!!!(父より)

:おとん言語破壊された!

:いやいやいや! なんですかそれは!

:ミ、ミヨリちゃん! 一体なにを呼び出したんだ……?

:ミヨリ、すっごく気持ち悪いわよその剣(母より)

:ミヨリンのお母さん俺たちが言いにくいことをズバッと言ってくれるな

:マジでなんなんだその剣!


「ひぃうううう! なっ、なんだそれは……!」


 あまりにもおぞましい造形をした大剣を目にして、綾乃はガクリと腰を抜かしてしまう。


 ミヨリは影のなかから浮上してきた漆黒の大剣を右手でつかむと、みんなの疑問に答える。


「これはギョロちゃんっていって、影のなかに取り込んだモンスターたちを練りあげてつくったものだよ。ダンジョン素材じゃなくてモンスターを使ってつくったものだから、ルール上は問題ないよね」


:な、なるほど、わからん……!

:食べたモンスたちを材料にしてつくった武器ってことか?

:ミヨリンの影は生産系スキルの力も兼ね備えてんのかよ!

:モンスターを材料にしてはいけないなんてルールは確かに存在しないが……

:そんな生産系スキル聞いたことねぇ!

:この子、常識外れにもほどがあんだろ……!

:もしかしてあのデカイ犬もモンスターから……?

:とりあえず怖すぎる!

:剣についた目玉と口が動いてて、画面越しでもゾッとしたわ!

:さっきから鳥肌止まんねぇぇぇぇ!

:パソコンの前からリアルにひっくり返ったんだけど!

:俺もビビりすぎてゴボハッって吹いちまったよ!

:男だけど女子みたいな悲鳴をあげる日が来るなんて思わんかった!

:ついにミヨリ様が画面の向こう側にいる我々にまで物理的なダメージを与えてきてる!

:誰もツッコまないけど、武器のおぞましさと名前がぜんぜんあってねぇぞ!

:そこがミヨリちゃんのヤバいところだよ!(大親友)

:なんで大親友さんうれしそうなんだ?


 きちんと説明したのに、コメント欄は大混乱になっている。


 さすがにモンスターを使って武器までつくれるというのは、すぐには受け入れられない事実なのだろう。


 ミヨリは自分の身の丈よりも大きな漆黒の大剣を片手で軽々と動かすと、その切っ先を天空にいるブルードラゴンに向けた。


 しっかりと狙いを定める。


「それじゃあギョロちゃん。邪魔な結界を破っちゃおうか」


 ミヨリが薄笑いを浮かべて命じると、無数の目玉や口がついた漆黒の大剣が膨張をはじめる。急激に成長する大樹のように凄まじい勢いで剣が何百倍にも膨れあがっていき、天空に向かって伸びていく。

 

 高層ビルを遙かに超えるほどのありえないサイズと化した漆黒の大剣が浮遊するブルードラゴンめがけて突き進み、張り巡らされた結界に衝突する。


 時間の流れが狂って昼と夜が交互に入れ替わるように中空で激しい明滅が起きた。


 それでも勢いは止まらず大剣は急成長をつづけていき、ビキビキビキッと結界の表面に新たな亀裂を刻みつける。


:なんか剣がめっちゃデカくなってんですけどおおおおおおおお!

:なにこれえええええええええええ!!

:マジかマジかマジかあああああ!

:結界にヒビ入ってる!

:まさか専用武器なしで結界を破壊しちゃうの!

:いっけえええええええええええええ!

:ミヨリぃ~! やるのか! やっちまうのかああああああああああああああっ!!!(父より)

:ミヨリちゃん! ミヨリちゃん! ミヨリちゃああああああああああああああん!!!(大親友)


 命の危険を感じ取ったブルードラゴンが悲鳴じみた唸り声をあげると、鉄壁だった結界が突き破られる。


 肥大化した漆黒の大剣はそのまま成長を続けていき、剥き出しになったブルードラゴンの巨体を貫いた。

 

:やったあああああああああああ!

:やりやがったああああああああああああ!

:すげぇええええええええええええええええええ!!

:どうなってんだマジでえええええええええええええええ!!!!!


 ギョロちゃんをブルードラゴンに突き刺すと、ミヨリは左手の人差し指を立てる。指先に火を灯すと、そこに影の力を混ぜていき黒い火球ができあがった。


:ファイアーボール!

:しかも黒い火の玉だ!

:てか、ファイアーボールがなんか大きくなってる!


 指先に灯した黒い火の玉に魔力をそそいで膨張させていく。バランスボールほどの大きな火球へと変化させる。


 ミヨリは薄く微笑んだまま、肥大化した大剣に貫かれたブルードラゴンを指差す。


「ぼん!」


 それを口にすると、膨張した黒い火球が一筋の閃光となって天空へと放たれた。


 ブルードラゴンは暴れまわって逃れようとするが、突き刺さった大剣が食い込んで自由に飛びまわれない。避けることのできない黒炎が迫ってきて容赦なく焼き尽くされる。


 天空そのものが震撼するような大爆破が起こり、弾け飛んだ黒炎が空一面にひろがっていった。


 青い光をまとったブルードラゴンは巨体の上から半分を失い、貫かれていた漆黒の大剣からずり落ちるようにして落下する。


 天空にいた青い龍が撃墜される。轟音を立てて砂煙をあげながら地面に叩きつけられた。


:うおおおおおおおおおおおおおお!!!

:なんか世界の終焉みたいに空が真っ黒な炎に包まれてた!

:異界の初見ボスを倒したあああああああああ!

:ミヨリ様! たったいまこの瞬間からあなた様に忠誠を誓います!

:ミヨリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!(父より)

:お父さんがリアルに立ちあがって絶叫してるwwww(母より)

:ミヨリぢぁああああああああああああああああんんんんん!!!!(大親友)

:おとんと大親友が荒ぶってるwwww


 コメント欄が最高潮に盛りあがる。みんなテンションがおかしくなっていた。


 流れが加速するコメントを目にしてミヨリは微笑むと、肥大化したギョロちゃんを縮小させていく。漆黒の大剣が元のサイズに戻ると、足元の影のなかに落として仕舞い込む。





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― 新着の感想 ―
なんだろう、この父親ちょっと気持ち悪いな・・・
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