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ミヨリは薄ら笑いを浮かべると、人差し指を立てて浮遊するブルードラゴンを指差す。
指先に火を灯すと、狙いをつけてファイアーボールを連続で発射する。複数の火の玉が空に向かって高速で飛んでいった。
:いきなりファイアーボール連発!
:一気に決めたぁ!
:ドラゴン撃墜!
ドラゴンが空から落とされる姿を何人かの視聴者が予想する。
ところが放たれた複数のファイアーボールはドラゴンに直撃する前に炸裂して、弾け飛んでしまった。
空を飛ぶ巨大な青い龍は無傷のまま、ミヨリたちを見下ろしている。
:!!!!
:ミヨリ様のファイアーボールが通じない……だと!
:ウソだろぉ!
:オイオイどうすんだよ!
:ファイアーボールがドラゴンに当たる前に弾けてなかったか?
「……結界だね」
ブルードラゴンを見据えながらミヨリは言った。
すると不可視となっていた障壁が青い光を帯びていき、その輪郭をあらわにした。光によって形成された球状の結界が、ブルードラゴンの巨体を包み込むようにして守っていた。
:バリア……!
:結界か! あれでミヨリちゃんのファイアーボールを防いだのか!
:ミヨリンのファイアーボール連発を防ぐとか、どんだけ固いんだよ!
「……あの結界なにかおかしくないか?」
恐怖に震えていた綾乃は、ブルードラゴンが張り巡らせた結界を目にして違和感を覚える。
よく見れば、結界の表面には剣で斬りつけたような亀裂が斜めに大きく刻まれていた。
「まるで剣の切り傷のような跡だ……」
そこまで言って、綾乃はハッとする。
「そういえば玲奈さんから聞いたことがある。ダンジョンのボスには、特殊なギミックを持つヤツもいると。そういったモンスターは専用武器を手に入れてからでないと、倒すことができないそうだ」
綾乃はクランマスターからの助言を思い返しながら、ブルードラゴンの結界を観察して思考を働かせる。
「おそらくあの結界を破壊するには、なんらかの特殊武器が必要なんじゃないか?」
:おいおいマジかよ!
:専用武器を持ってこないと倒せないボスってことか!
:面倒だし厄介すぎだろ!
:ミヨリちゃんのファイアーボールでも破れなかった結界だ! 専用武器でも持ってこなきゃ倒せるはずがない!
:初見ボスだけあって、攻略情報が少なすぎる!
綾乃の考察を聞くと、コメントからも激しい反応が返ってくる。
「あの結界に刻まれている切り傷みたいな亀裂から推察するに、おそらく専用武器は剣だろう。空に浮いているドラゴンに向かって大きな斬撃か何かを飛ばせるような剣が……」
そこまで言いかけて、綾乃はギョッとした。
「……それってまさか……」
「……あ」
綾乃と同じ考えに到ったミヨリは、口から間抜けな声をもらす。
:……ん? ムラサメちゃんの言うそれって……
:おいおい、もしかして……
:イヤな予感が……
:剣で……斬撃を飛ばせるって……
:アレかああああああああああああああああああああ!
:あの剣! あの剣!
:さっきの鎧着てたオーガが持ってたヤツ!
:たぶんさっきの青い剣がドラゴンのバリアを壊すためのイベント武器だったと見るわ(母より)
:オォォォォォイ! どうすんだよこれぇぇぇぇっ! さっきミヨリがブッ壊しちゃったぞあの剣をよおおおおおお!!!!!(父より)
:ウソだろオイッ!
:いやいや、マジでどうすんの!
:ボス専用の武器を破壊しちゃうとか聞いたことねぇぞ!
:ミヨリちゃんもムラサメちゃんも未成年だからどっちにしろあの剣は拾えなかっただろ!
:あくまでダンジョンの外に持ち出すのが禁止であつて、ダンジョン内なら使っても問題ないはず!
:今回みたいに専用武器がないと倒せないボスへの使用は認められてるぞ!
:壊さなければ拾いに戻ることもできた!
:え? じゃあこれ完全に詰んでんじゃん!
ミヨリたちが窮地に立たされていることが判明すると、コメント欄が乱れまくる。
……やらかしてしまったようだ。ミヨリは気まずくなって、唇をモゴモゴさせる。
ここは焦っても仕方ない。とりあえず深呼吸をして気持ちを静めよう。
「みんな落ち着いて。大丈夫だよ」
混乱している視聴者たちに呼びかける。何も心配することはないと。
そしてミヨリは微笑んで言った。
「あの青い剣はなぜか壊れてしまったけど、それも全て織り込み済みだよ」
:う そ つ け
:ちょっwww
:この子、ウソついてます!
:ミヨリ様、額にちょっと汗が流れてませんか?
:「なぜか壊れてしまったけど」って、壊したのアナタでしょ!
なるべく平静を装ったつもりだったが誤魔化しきれるはずもなく、視聴者たちから無数の指摘が相次ぐ。
やっぱりあの青い剣を壊したのはまずかったようだ。




