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ミヨリたちは裏ルートのゲートを通っていき、異界と呼ばれる領域にやって来る。
そこは通常のルートではたどり着けない異世界そのもの。目に見える景色がまるで違っていた。
ミヨリの前には、どこまでも果てしなく続く新緑の草原が広がっている。ポツリポツリと建物の残骸や木々が散見された。
どういうわけなのか頭上には青空があって、薄暗い洞窟にはなかった日の光が降り注いでくる。
そして広大な草原のなかには、巨大な光の柱が天に向かって伸びるように立っている。
幻想的な景色は冒険してる感がすごくある。異界に踏み込むとミヨリはいつもワクワクした。
隣にいる綾乃も圧倒的なその景観を前にして、言葉を失いつつも目を輝かせている。
:うおおおおおお!!! すげぇえええええ!!!
:こんなんマジで異世界やん!!
:やべっ! 感動してる!!!
:このダンジョンの異界は草原みたいになってんだな!
:ダンジョンによって異界の景色は違うみたいだけど、ここはすごく自然が豊かだ!
:ゲームで似たような景色を見たことあるわ(母より)
:やめろwww
:異界の景色が安っぽく見えるからやめてwwww
リスナーたちもドローンカメラが映し出す光景に胸を打たれている。みんなとこの景色を一緒に見られてよかったと、ミヨリは口元がほころんだ。
:『鬼神たちの戦場』の裏ルートの解放条件が発覚してSNSでは探索者たちを中心にめっっちゃ騒ぎになってるぞ!
:裏ルートの情報が凄い勢いで拡散されて、再生数が爆増中!
:「あのときの俺たちの苦労は……」ってつぶやいてる探索者ニキがいてワロタ!
:たぶん前にここの裏ルートを探そうとがんばってた探索者だな
:かわいそうwwww
:気づけばこの配信、同接が十八万だ!
:たぶん探索者たちが押し寄せてきてるwww
「……っ!」
もうどんなに同接が増えても驚くことはないと思っていたが、いざその数字を目の当たりにするとミヨリはビクッとなった。
この前まで同接ゼロだったのに……いまだに現状が信じられない。
こうなるきっかけをくれた綾乃には本当に感謝しなくては。
:またミヨリちゃんビクッとしててかわいい!
:怖いけどかわいいよね! 怖いけど! めっちゃ怖いけど!
:↑怖さが勝ちすぎてるwwww
:草原のなかにデカイ光の柱が立ってるけど、あれなに?
「あれは地上につながる光の柱だよ。あの光のなかに入れば、ダンジョンの入り口前に戻ることができるんだ。いわゆる異界のゴール地点だね。光の柱のそばには、異界のボスモンスターが待っているけどね」
:説明ありがとうございます! ミヨリ様!
:あの光の柱はワープ装置みたいなもんってことか
:異界にはそんな便利機能があるのか
:異界のボスモンスってことは、普通の十階層のボスよりもつよつよなんだよね?
:次元が違う強さだと思う
:第十階層ボス「そ、そんなことないもん!」
:↑そんなことあんだろwwww
ミヨリはコメントを見て微笑むと、光の柱を目指して移動を開始する。綾乃はやたらと周りをキョロキョロしながら追いかけてくる。
しばらく草原を踏みしめて進み続けていたが、ミヨリはその歩みをゆるめた。
「どうしたんだ?」
「さっそく異界のモンスターが現れたみたいだね」
ミヨリの視線を追いかけるように、綾乃も前方に注目する。
視線の先にある樹木の後ろから、見覚えのある一つのシルエットが出てきた。
凶悪な顔つきに額から二本の角を生やしていて、全身がたくましい筋肉におおわれているモンスター。
オーガだ。だけど色が違う。ダンジョンで見かけたオーガは緑色だったけど、異界のオーガは身体が青色だ。
その身に宿した魔力は大きく、通常のオーガより何倍も強化されていた。
ハイオーガ以上の強敵だと一目で理解した綾乃は、緊張で身体が硬くなった。
:オーガ!
:色が違う!
:異界の強化種だ!
:ダンジョンにいたオーガよりも強くなってるぞ!
:ごくり……!
強化されたオーガの出現にコメント欄が慌ただしくなる。
「ウガアアアアアアアアア!」
強化オーガは野太い叫び声をあげて威嚇してくると、有無を言わさず襲いかかってきた。
綾乃は身体にまとわりつく重たい緊張感を振り払うと、急いで腰の剣を抜こうとするが……。
ドゴッ! ビシャン!
「えっ……?」
綾乃が剣を抜くまでもなく、強化オーガは消し飛んだ。
突っ込んできた強化オーガに向けて、ミヨリがデコピンを弾いていた。それだけで、跡形もなく消滅してしまった。
「テンポよくサクサク進まないとね」
ミヨリはそう言って、ゆるめていた歩みを速めていく。
:……うそ? 倒したの?
:強化オーガが……
:強化種ってなんだっけ……?
:強化オーガがデコピンでwwww
:おかしいな? 異界のモンスターって、ダンジョンにいるのとは格が違うはずなんだけど……
:ミヨリちゃんからすればそんなのささいなことだよ(大親友)
:異界のモンスをそんなのってwwww
:これを見てミヨリの強さに驚けばいいのか、無事に帰ってこられそうだからホッとすればいいのか、もうわけわかんねぇよ!(父より)
:おとんww
:お父さん感情グチャグチャになってるwww
:俺もいま見たことがわけかんねぇよwwww
強化された異界のモンスターですらデコピンだけで瞬殺してしまうミヨリの力を見て、綾乃は棒立ちになる。ゆっくりと剣の柄から手を離すと、深く考え込むように目をつむってポツリともらす。
「……これ、別にわたし異界までついてこなくてよかったのでは?」
:ムラサメちゃんwwww
:格好つけてついてきたのにねww
:覚悟決めた感じでついてきたのにwww
:ついにそのことに気づいてしまったかムラサメ!
:もしかしてここでもムラサメちゃんはいらない子かな?
:ムラサメちゃんはいるだろ! ビジュアル的に!
:戦闘では置物だけどねwwww
「……だって」
「くっ……」
書き込まれたコメントを読み上げて教えてあげると、綾乃は悔しそうに唸った。
:ムラサメちゃんの「くっ……」いただきました!
:くっ……www
:リアルで言う人はじめて見たwwww
盛りあがるコメントを見てミヨリは微笑しながら頷くと、遠くにそびえ立つ光の柱に向かって進んでいった。




