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 死神の亡骸を影のなかに完全に取り込み終えると、ミヨリは拡張させていた影を足元に縮小させる。


 もう少しで第十階層というところで、死神に出くわしてしまった……。これはミヨリにとっても想定外である。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、ミヨリの目の前にある空間が不自然に歪み、突如として光が生じた。薄暗いダンジョンが明かりに照らされる。


:なんだ……?

:いきなり光が……!

:え? 今度はなに?

:おいおい、これってまさか……!


 周辺を照らしていた光が収まっていくと、ミヨリの目の前に大きな穴が出現する。ダンジョンの出入り口であるゲートに似ている穴が、空間にポッカリとあいていた。


:裏ルートだああああああ!

:裏ルートか! ……裏ルートってなんだ?

:↑知らんのかい! 

:ダンジョンのなかには特定の条件を満たすことで、通常の最深部よりもさらに深い異界へつながる裏ルートを開通させることができる

:裏ルートが存在するダンジョンは少ない。裏ルートを出現させるための条件もダンジョンによって違うから発見するのが難しい

:異界は本当に異世界で景色が違うし、モンスターの強さもはねあがる!

:説明トンクス!


 異界へとつながるゲートが開かれると、静止していた綾乃がハッとして正気を取り戻した。深く息を吸って心を落ち着けると、空間にあいた穴を注視する。


「これまでいろんな探索者やクランが『鬼神たちの戦場』の裏ルートを解放する条件を探してきたが、見つけることはできなかった。だからこのダンジョンには異界につながる裏ルートは存在しないと思われていたが……」


 まさかこんな形で発見されてしまうとは。この配信をクランマスターの玲奈が見ていたら、今頃ひっくり返っているだろう姿を綾乃は思い浮かべる。


「しかし、ここの裏ルートの解放条件は一体なんだったんだ? 考えられる可能性としては……」


「強化状態のアークデーモンを倒すことと、死神を倒すことだね。そのときダメージを受けないことも条件に含まれているかも」


:無理ゲーすぎるwww

:条件鬼畜すぎwwww

:せめてノーダメクリアはナシで!

:普通は死神を倒すのも無理だからな!


 ミヨリが思い当たることを列挙すると、コメント欄にツッコミがあふれた。こんな高難度の条件はミヨリでないとクリアできない。


:ていうかこれ大発見だよね?

:これだけですごいお金になる情報だよ!

:無料公開しちゃっていいの?


「そこは気にしてないよ。わたしはお金のためじゃなくて、みんなに冒険の楽しさを届けたくて配信者をやっているからね。下手に使用料とか求めたら、切り抜きの拡散を減らしてしまう。みんな好きなだけ広めてくれていいよ」


:うおおおお! マジか!

:ミヨリン……あんた最高だよ!

:ミ、ミヨリ……しょんな……もったいない!(母より)

:お母さん魔石に続いて追加ダメージ受けてるww


「本当にいいのか? 多くの探索者やクランが探しても見つけられなかった貴重な情報だぞ?」


 ミヨリが裏ルートの解放条件を無料公開することを快諾すると、綾乃が慌てて問い詰めてくる。


「もちろんだよ。それでみんながもっとダンジョン攻略を楽しめるのなら、わたしに反対する理由はないかな」


 それに憧れの黒野スミレちゃんなら、そんなつまらないことにこだわったりしない。


「ミヨリ……おまえ、まだ人としてまともな精神が残っていたんだな」


「もしかしていま、ムラサメちゃんに失礼なこと言われてる?」


:ムラサメちゃん真顔で失礼すぎるwww

:ミヨリちゃんをなんだと思ってるんだよwwww

:↑人のカタチをした怪物

:まぁこれまでさんざん振り回されてきたから……

:アークデーモン戦ではリアルにブン回されてたwwwww

:ミヨリちゃんはまともな人間ダヨ(棒読み)


 なんだか綾乃だけでなく、コメント欄にも失礼なことが書かれている。盛りあがってくれているのならいいけど。


 こほん、とミヨリは咳払いをすると、頭上にあるドローンカメラを見あげてメッセージを伝えた。


「そういうわけだから、他の探索者たちにも無茶をしない範囲で強化状態のアークデーモンと死神にチャレンジしてもらいたいかな。ダメージを受けずに倒すことができれば、裏ルートが開かれるはずだよ」


:無理ですwww

:遠慮しますwww

:我々は人間なのでwwww

:我々は魔王ではないのでwwww


 またやべぇ女扱いされている。しかも今回は同業者たちから。


 ……解せない。ミヨリは唇を上向きに曲げてツンととがらせた。


「よし。それじゃあ」


 いつまでも立ち止まってはいられない。ミヨリは攻略を再開するために、空間にあいた穴のなかに足を進めようとする。


:ちょっ……! ミヨリ様なにしてんの!

:当然のように裏ルートに行こうとしてて草

:準備もなしに未発見の裏ルートに突入しようだなんて思考回路がどうかしてる!

:ミヨリぃ! 危ないから帰ってきなさい!(父より)

:ミヨリ! もう撮れ高なら十分よ!(母より)

:家族からも心配されてるww

:撮れ高wwww

:親が子供を叱るみたいになってるぞwww

:実際そうなんだよwwww

:ためらわずに裏ルートに行こうとするなんて、やっぱりミヨリちゃんヤバすぎだよ!(大親友)

:大親友さんもそろそろ帰ろうかwww


 ミヨリを止めようとするコメントが書き込まれていく。そしてそれは行動を共にしている綾乃も同じだった。


「まさか裏ルートに入るつもりか? 準備もなしに入るだなんて、いくらなんでも無謀すぎるだろ。異界は場所によっては、トップクランですら敗走するような魔境なんだぞ。それに今回の配信は、このダンジョンの第十階層まで踏破する予定だったはずだろ?」


「そのつもりだったけど、予定変更だよ。これから第十階層よりも深部にある異界を攻略しようと思って」


「なっ……!」


 配信プランを変えたことを教えると、綾乃は絶句した。


 正直なところ、第十階層の最深部で待ち受けているボスよりも死神のほうが断然強い。その死神を先に倒してしまったので、このあと第十階層のボスと戦っても尻すぼみになって盛りあがらないのではないか、という懸念があった。


 表情にこそださなかったが、死神が出現したときミヨリはかなり焦っていた。このままだとこのあとの予定が崩れてしまうと。


 そしたら幸運にも裏ルートへの道が解放された。これは天からの助けだ。


「せっかく異界につながる道が開けたんだし、そっちに行ったほうが絶対におもしろいよ」


:マジかあああああああ! 異界に行くのかあああああ!

:第十階層のボス「ふぅ……助かった」

:ホッとすんなwww

:このままミヨリンが十階層に行ったら、ボスは秒で撃破されてたなwww

:おおおおおおおい! 大丈夫なのかぁぁぁ! 本当にこれ大丈夫なのかよこれぇぇぇぇぇぇぇ!!!(父より)

:お父さんがパソコンの前で暴れてるwwww(母より)

:おかんはおとんを笑うなwww


 ミヨリが裏ルートに入る意思を示すと、コメント欄が大騒ぎになる。なんだかんだ言っても、みんな異界の景色を見たがっているようだ。


 茂則はパニックになっているみたいだけど……。


「できればムラサメちゃんにも来てほしいかな。わたし一人で行くよりも、最後まで二人で一緒に冒険したいよ」


「いや、しかしだな……」


「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ムラサメちゃんは、わたしが守るから」


:ミヨリ様イケメン……!

:トゥクン……!

:これほど頼もしい味方は他にいない!

:本当に裏ルートに行くのか……!


 ミヨリが微笑みかけると、綾乃はギュッと唇を噛みしめて「うぅ」と唸る。胸のなかでいろんな感情が湧きあがってきて、葛藤しているようだ。


 やがて考えがまとまったのか、綾乃は大きく肩を落としてため息をつく。身体を震わせながら、それでも強い想いを瞳に込めてミヨリを見つめてくる。


「ミ、ミヨリ一人だけを異界に行かせるわけにはいかない! 一度パーティを組んだんだ! わた、わたしも最後まで冒険に付き合おうじゃないか!」


:おおおおお! ムラサメちゃん偉い!

:怖がりながらもついていこうとしてて偉い!

:声震えてるwww


 綾乃が決意を告げてくると、賞賛のコメントが次々と流れていく。


 異界に向かうことを了承してくれた綾乃に、ミヨリも心から感謝する。


「ありがとう、ムラサメちゃん。それじゃあ行こうか」


 さっそくミヨリは解放された裏ルートのなかに踏み込んでいく。異界には他のダンジョンを探索しているときに何度も行ったことがあるので、綾乃や視聴者たちが言うほど危機感は感じていなかった。


 コンビニにでも立ち寄るような軽い足取りでミヨリは進んでいく。その後ろを綾乃は「やってしまった……」と自らの選択を後悔しながらついていった。





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