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死神は右手をミヨリに向けてくる。ターゲットを変更したのではない。ミヨリも綾乃もまとめて始末するつもりだ。
突き出された死神の右手が激しく明滅した。高威力の赤い魔弾が連続で放たれる。
横殴りの雨となって襲いかかってくる魔弾を、ミヨリは足元から複数の触手を伸ばすことで対処する。
触手が鋭い風切り音を鳴らしてしなり、全ての魔弾を弾き飛ばす。周辺にある壁に魔弾が衝突して穴だらけになっていき、立て続けに爆破が起きて地面が震えた。
「うひゃあああああ!」
「危ないから動かないでね、ムラサメちゃん」
ミヨリは触手で魔弾を弾きながら、身を縮こまらせている綾乃に呼びかける。綾乃に被弾しそうな魔弾も取りこぼさずに処理していく。
:……え? うそ! もしかしてぜんぶ触手で弾き飛ばしてんのか!
:しかもムラサメちゃんを守りながらかよ!
:ドローンカメラも守ってる!
:俺たちミヨリちゃんに守られてるのか……
:↑おまえはカメラじゃねぇだろwww
:ムラサメちゃん、もう完全にミヨリ様にとってデバフだな!
:パーティ組んでる相手がデバフってwww
:ミヨリちゃんの存在が特殊すぎるからww
:触手最強伝説!
:こんな爆発しまくって、ダンジョンが壊れないか心配だ……
:ダンジョンが崩壊してもミヨリンなら余裕で帰ってきそう
「…………!」
どんなに魔弾を撃っても弾かれてしまう。そのことに死神は動揺して声にならない悲鳴をあげる。
「それじゃあ次は、こっちの番かな」
触手で魔弾を弾きながら、ミヨリは微笑みかける。
右手の人差し指をピンと立てると、火の玉を灯す。
:またファイアーボールか!
:あの高速レーザーみたいなファイアーボール!
:死神に通じるのか? 魔法防御もめっちゃ高いんだろ?
:上位クラスの魔法スキル持ちでも倒せないって聞くぞ!
:いや待て! なんか変だぞ?
:ミヨリ様のファイアーボールの色おかしくない?
ミヨリの指先に灯った火の玉に変化が起きる。赤い火のなかに濁った泥のような色彩が混じり込んでいき、黒い火の玉になった。
「…………!」
死神は竦みあがると、連発していた魔弾を止める。ローブをはためかせて身をひるがえし、全力でこの場から離れようとする。
だけどもうミヨリは死神の背中を指差していた。
「ぼん!」
ミヨリの指先から黒い火の玉が撃ち放たれる。黒炎は死神を逃さずに一瞬で追いつき、爆音を轟かせて炸裂。上半身を吹き飛ばした。
残された死神の下半身は浮遊する能力を失い、ボロ布のように地面に落っこちる。
ダンジョンに出現するイレギュラーが呆気なく撃破された。
:倒したああああああああああああああ!!!
:死神を倒しやがった!
:アレ倒すとかマジか!
:魔法防御も高いはずなのに一撃で倒した!
:探索者だけど死神を撃破するとかわけわかんない……
:死神ってあんな簡単に倒せるものだっけ?
:いや……無理でしょ……
:探索者たちが混乱してるwwww
:最後のほう死神逃げようとしてなかった?
:イレギュラーの死神が逃げるってwww
:ミヨリ様こそ真のイレギュラー!
:ばああああああああああああああああ!!! ミヨリぢゃああああああああああああああああああああん!!!(大親友)
:大親友wwww
:うるせぇwwww
:大親友さんじゃないが、ファンになったわ!
:てかファイアーボール黒かったけど?
:なんで???
ミヨリのファイアーボールが黒くなっていたことに疑問が向けられる。みんなそこが気になるみたいだ。
「ファイアーボールにわたしの影の力を送り込んだんだよ。そしたら色が変わって強くなるみたいだね」
:エンチャントみたいなもんか!
:ファイアーボールに闇属性をつけてパワーアップさせたってこと?
:火属性と闇属性の合体技!
:いや、ミヨリちゃんもよくわかってないだろこれwww
:「色が変わって強くなるみたいだね」という小並感www
:とりあえず影の力を火の玉につけて、めっちゃ強な攻撃魔法になったってことか?
:魔法スキル持ちだけど、二つの属性をかけ合わせた混合魔法とか周りに使える人いないんだけど……?
:それができるのは一部の特殊スキル持ちだけよ
ミヨリが使用した黒いファイアーボールについて、あれこれと意見が飛び交う。再びコメントの流れが加速していた。
「ただでさえ強力な魔法なのに、そこに属性を付加させるなんて……ありえない」
これまでミヨリの規格外っぷりに何度も恐怖させられてきた綾乃は、またしても戦慄していた。いつもより戦闘回数は控えめなはずなのに、精神的な疲労はその何倍も感じてしまう。




