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 次の休日。真昼の空の下で、ミヨリはとあるダンジョンの前まで足を運んでいた。


 数メートル先にある空間には、大きな穴があいている。ゲートと呼ばれるダンジョンに通じる出入り口だ。


 今日は予定していたとおり、綾乃と一緒にパーティを組んでダンジョン配信を行っていく。


 黒野スミレの装備を真似た黒いローブを身につけて、準備ばっちりだ。


 隣にいる綾乃も銀色の軽装鎧を装着しており、腰には鞘に収めた剣を下げている。その顔色はあまりよろしくない。ミヨリと一緒にダンジョンの近くに来たことで、先日のことがフラッシュバックしているようだ。


 シルバーダスクの事務所から配信を行った日から、ミヨリは更に注目されるようになっていた。今ではチャンネル登録者数が50万人を超えている。


 さすがにもう伸びないと思っていたのに、ぜんぜん勢いが止まらないので少し怖い。


 そしてミヨリがアビスソフトやダンジョンブラッドのことを配信で語った影響で、ネットではそれも話題になっている。


 あと「ムラサメちゃん肉体破壊されてた説」というのがSNSでトレンド入りしていた。


 そのことについて話を振ったら、また綾乃は頭を抱えて悶えていたけど。   


 今日の配信は、たくさんの探索者たちやクランが興味を持っていると千紗が言っていた。それが本当ならかなりの視聴者数が見込めるはずだ。


「じゃあ、そろそろはじめるよ?」


「あ、あぁ……」


 まだミヨリのそばにいることに慣れないようで、綾乃の態度はぎこちない。


 SNSで告知していた時刻が迫ってきたので、ミヨリは身体が震えそうになるのを堪えながら配信を開始する。


:うおおおおおお来たああああああ!

:ホントにダンジョンの前にムラサメちゃんと一緒にいる!

:ムラサメちゃん逃げ出さなかったかwww


 前回の配信と同様、いやそれ以上の勢いで左腕に固定したスマホ画面にコメントの嵐が吹き荒れる。


 いきなり同接が五万もいっていた。


 その数字にビクッとなってしまう。


:ビクッ! かわいい!

:出たビクッwwww

:今回もミヨリちゃん緊張してるwwww


 ……いけない。呆然としている場合じゃない。ちゃんとしないと。


「どうも宮本ミヨリです。予定していたとおり、今日はゲストさんが来てくれています」


「ミ、ミヨリとパーティを組むことになった村雨綾乃だ。この前の配信で約束していたとおり、今日はミヨリと一緒にダンジョンにもぐろうと思う」


:ムラサメちゃん無理してるなwww

:まだちょっとガクブルしてるwwww

:ムラサメちゃんは配信しないの?


「ムラサメちゃんは配信をやらないのか、だって?」


 ミヨリは書き込まれたコメントを読み上げて、綾乃に視線を向ける。


「あ、あぁ。今回わたしは配信を行わない。あくまでミヨリの配信のゲストとして参加させてもらう。それにこの前ドローンが壊れて、まだ新しいのを買えてないからな」


「そういえばドローン壊れてたね。あっ、コメントに『早くムラサメちゃんの配信が見たい』って書いてあるよ」


「そ、そうか!」


 自分の配信を待ってくれる人がいる。そのことを知ると、顔をこわばらせていた綾乃の表情がパアアと明るく華やいだ。


:チョロいwww 

:ムラサメちゃんチョロかわいい!

:けどマジでムラサメちゃんには早く配信を再開してもらいたい!

:ムラサメちゃんを見るために今日はこの配信を見にきたぜ!


 綾乃への応援コメントが続々と書き込まれていく。


 本当に人気者なんだ、とミヨリは感心する。


:てかいきなり同接五万とかすげぇ!

:ミヨリンのチャンネル過疎ってたけど、これだけ注目されてるならもう収益化できるのでは?


「収益化ラインには達したけど、申請するかどうかは考え中だよ。両親とも話し合わないといけないからね」


:ちゃんとしてる!

:よくできたお子さんだ!

:やべぇ子ではあるけどな!


 将来的には探索者を生業にしたいと考えているが、今はお金のためにダンジョンにもぐっているわけではない。収益化するにしても、お金の管理は両親に任せることになるだろう。


:今いるのってどこのダンジョン?

:それ気になってた!

:二人はどこのダンジョンにもぐるんだ?


「今日やって来たのは『鬼神たちの戦場』っていうダンジョンだよ」


 情報によれば、第十階層まであるダンジョンだ。初心者の探索者が近づくことは推奨されていない、難易度が高い場所とされている。


「今から『鬼神たちの戦場』を最深部の第十階層まで踏破する予定だよ」


「なっ……ここを踏破するだと?」


 本日の目的を告げると、綾乃が目を白黒させてくる。


「ちょっと待て。このダンジョンにもぐるとは聞いていたが、踏破するだなんて初耳だぞ? わたしはてっきり中層か下層の最初あたりで切りあげるものだとばかり……」


 ミヨリとしては最深部まで踏破するつもりでこのダンジョンにもぐることを伝えていたのだが、綾乃は最深部まで行くとは思っていなかったようだ。コミュニケーションがうまく取れていなかった。


:あれ? 揉めてる?

:どうやらこの二人、ちゃんと意思疎通ができてなかった模様

:ムラサメちゃんめっちゃ焦ってるな!

:うちの会社の若いヤツらがこの前こんな感じだったよ

:先行きが不安すぎる!


 目的が共有できていなかったことをコメントでイジられる。ミヨリはあまりコミュ力が高い方ではないので、言葉足らずだったようだ。


「わたしは反対だぞ。もぐるだけならともかく、踏破するだなんて。このダンジョンは長居すればするほど危険度が増していく」


「大丈夫だよ」


 薄笑いを浮かべながら、簡潔にそれだけを口にした。


 その一言で、綾乃はゾッとして竦みあがっていた。


「い、いや、しかし……」


「問題ないよ。わたしもムラサメちゃんも無事にこのダンジョンから出られるから」


「う、うぅぅ……」


:ムラサメちゃん気圧されてるwww

:ミヨリちゃんの「大丈夫だよ」の一言の説得力パネェな!

:このダンジョンはガチでやばいからムラサメちゃんが反対するのもわかる!

:アレとエンカウントしたら即詰みだからな! 

:危ないと思ったら逃げるべし!

:ミヨリちゃんならやれるよ!(大親友)


 コメントのほうでも、このダンジョンが危険であることを警告してくるものが散見された。


 小動物のような唸り声をあげていた綾乃は、グッと両手を握りしめる。ようやく踏ん切りがついたのか、鋭い目つきでミヨリを見てくる。


「危険だと判断したら迷わずに逃げるんだぞ? それを了承するなら、わたしも最深部まで同行しよう」


「うん、いいよ。わたしが危険だと判断したらね」


 ミヨリが答えると、綾乃も最深部を目指すことに納得したようで「ならばいいだろう」と頷いた。


:ミヨリちゃんとムラサメちゃんとでは危険だと判断するラインが絶対違うだろこれwww

:ムラサメちゃん騙されてて草

:気づくんだムラサメちゃん!

:ミヨリちゃん知能犯www

:いざとなればミヨリちゃんがどうにかしてくれるから大丈夫だとは思うけど


 コメント欄では、たくさんのツッコミが入ってくる。 


 さすがに本気で危険だと判断したら、綾乃だけでも逃がすつもりだ。


「それじゃあ、これからムラサメちゃんとダンジョン攻略を開始するね」


 ドローンカメラに向かってそう伝えると、気を引き締めている綾乃と一緒にゲートのなかに踏み込んでいった。




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