第九話 影能力
この話で出た情報は、後書きにまとめてあります。
「悪霊の倒し方と影能力について教えてほしい?」
幻花の声が響く。
真っ暗な道を進み、泰平は幻花、燈、鋭一の案内で寮に向かっている最中、影能力と悪霊のことを聞いてみた。
「んー、影能力の前に開脳について話しておこうかな」
「開脳?」
「人間の脳は100%の力を出せないように、無意識にリミッターをかけてるって聞いたことない?」
「あるある!火事場の馬鹿力!」
「そうそれそれ〜。開脳はリミッターを完全に外して本来の身体機能を引き出す力のことなの」
「つまり開脳は意図的に火事場の馬鹿力を使えるようになるみたいな感じか」
「近いけど違うかな。火事場の馬鹿力は全身に筋肉と骨が物理的に壊れる危険を伴うって言うじゃん? 開脳にはそれが無いの。それに、影能力を宿している人じゃないと開脳は発現できないんだよ」
「す、凄いね…!」
「開脳も必須レベルで必要だから習得頑張ってね」
「え、必須…? まじか…」
「次に影能力なんだけど、そもそも影能力が何かは知ってるよね?」
「うん、霊視ができる人は必ず持ってて、自分の影を操ったり、その影を媒介にして何かを生み出したりする能力でしょ?」
「まぁ、大体は合ってるかな。そこに追加して欲しいのが、その性質は人によって様々ってこと」
「性質? どう違うの?」
「例えば柊さんは影の盾を生成する影能力だけど、あたしの影能力は影幻。影から幻を生成することができる能力。燈も鋭一もそれぞれ違う影能力を持ってるし、ほんとに十人十色なんだよ」
(もうこの三人は影能力を使えるのか………。置いてかれてる……。なんとかして追いつかないと…!)
拳を握り、胸の中で誓う。
ふと泰平の中で一つの疑問が湧く。
「待って? 十人十色? だったら影僧団員の人達はなんでみんな同じ影能力を持ってるの?」
「あー、それは零影隊が独自に開発した影能力を宿してるからだよ。元々、僧殿達は霊視能力を持たない一般人。だから人工的に影能力を付与して、霊視能力と影転移を与えているの」
「一般人……? なんで一般人が……?」
「零影隊の存在を知ってしまった人や、悪霊の犯行を目撃しちゃった人達は影島に“保護”という名目で連れてこられて、管理される。国家機密だからね。情報が外に漏れたら、世の中が混乱する」
「……つまり、監禁ってこと?」
「まあ、そう聞こえるかも。でも、あくまで保護と管理が目的。島の中では生活に困ることはないし、仕事もある。外には出られないけど、自由はある」
「一般人ですら扱いは俺たちとほぼ同じ…」
「そうだね〜。そして、影僧団は志願制。志願して入団すれば任務に就ける。影転移で私たちを支えてくれてるし、あの人たちがいなきゃあたし達の任務は回らないよ」
「てか僧殿は開脳できるの? さっき影能力を持っていればできるって…」
「説明足りてなかった。ごめん、ややこしいよね」
「いや…全然…」
「開脳は先天的に影能力を持っている人だけが使える力なの。僧殿達は後天的に宿したから開脳は使えない」
「あっ、そういう……」
「そっ。で、開脳が使えないとなると、戦闘で命を落とす可能性が高い。だからサポート役としての責務を与えられているの」
「なるほど……。てか人工的に宿すって、それって大丈夫なの……?」
「大丈夫、人体にはなんの問題もないよ。さっきも言ったけど影僧団は志願制。志願した人にしかやらない」
「よかった……!」
「……でもさ、あたし、影島のこととか僧殿達の詳細を最初聞いた時、結構ゾッとしたんだよね」
「どうして?」
「影島には何もかも揃ってる。医療も教育も、衣食住も、娯楽も…逆に言えば外に出すつもりは毛頭ないって意思が垣間見えるっていうか…」
「確かに…」
「特に僧殿たちは影転移を持ってるから、その気になれば島を抜け出せる。だからこそ、脱出しようと思わないような環境を作ってる。恐ろしいほど合理的で、同時に徹底した秘密主義な組織なんだなって思った」
「合理的で秘密主義……。秘密組織だしまぁ納得」
「そんな零影隊だけど、ちゃんと人々を養ってるし、それに恩義を感じる人たちがいるのも事実。そういう人たちがもっと力になりたいってことで影僧団に志願するイメージかな」
「そんな……零影隊も結構腹黒いんだね」
「まぁ〜、ねぇ…知らない方が幸せなこともあるってことよ。残りの人は影島で農業したり、お店出して商売したりしてる。みんな楽しそうだよ」
「……でもさ、"影転移"を俺たち隊士に宿せばいいんじゃ? 戦いに行くのは隊士だし……」
「無理だよ。だって影能力は一人につき一つ。既に影能力を宿しているあたし達には効果が無いの」
「そ、そんな……」
(あの時の影僧団員の人が言ってた"特殊"って意味、そういうことだったのか…)
「あ、そうそう。普通の体で影能力を発現しちゃうとさ、負荷に耐えられなくて壊れちゃうから注意してね」
「こ、壊れる!?」
「うん、壊れる。一瞬で全身骨折して当分ベッド生活。最悪、内臓や四肢に強い負荷がかかって命に関わるほどの損傷を受ける」
「う、嘘でしょ…?」
「だーかーら! 基盤を作る必要があるの。今日の稽古でやったマラソンも筋トレも、ただの自己鍛錬だけじゃなくて、影能力の負荷に耐える体を作るためのものでもあるんだよ」
(あ、あれにそんな重要な意味があったなんて…!)
「そしていよいよ開脳と影能力の発現方法について〜! はい拍手〜、パチパチパチ〜」
「パチパチ〜……?」
軽く咳払いをした後、語り出した。
「開脳は極限の集中状態で感覚が研ぎ澄まされた時に発現する場合が多い。この状態に持っていくの、すごく難しいけどね。影能力に関してはひたすら訓練かな」
「訓練?」
「うん、まぁ今後絶対やるとは思うけど簡単にいえばイメージトレーニングかな。影を操るイメージをしてその感覚を頭に染み込ませるんだよ。まぁ〜、普通に暮らしてたら影を操るイメージなんてしないし、最初は難しいかもだけどガンバ」
(結局、発現に近道は無くて、ひたすら鍛錬あるのみ…ってことか)
「あ、ねぇ。影能力と開脳、どっちの方を優先した方がいいの?」
「んー、基本的には同時並行で進めていくものだけど大体みんな開脳が先かな。あたし達もそうだし」
「そうなの!? 開脳も難しそうだけど…」
「まぁ難しいんだけどさ、柊さん達がうまいことやってくれるのよ」
すると横にいる燈が口を開く。
「でも影能力を発現した後も大変なんだよ。応用して、技を増やしていかないとだからね」
「うわ……。なんだか気が遠くなるなぁ……。燈さんは今どのぐらいできてるの?」
「私は全然。技も出せないしまだ実戦レベルじゃ無いかなぁ……」
「そうなんだ……。中々難しそうだね……」
「だから泰平くんも、一緒に頑張ろうね! 一緒に成長しよっ!」
(ま、眩しい……! 一生懸命というか健気というか……燈さんの頑張り、報われて欲しいな)
すると最後尾にいた鋭一が叫ぶように言った。
「どうだかなぁ!? 影能力を発現できなきゃ意味がねぇ! 結局引き出せませんでしたーつって終わるんじゃねぇか?」
「もー、ネガティブなことばかり言わないの!」
「燈はなんでそんなにそいつの肩持つんだよ。もしかしてそいつのことが好きなのかよ」
「す、好きってわけじゃ…」
「え、じゃあ嫌いってこと?」
幻花がニヤニヤしながら顔を覗き込むように言った。
「えっ!? いや、そういうわけじゃ…」
「じゃあ好きなんだ?」
「な、なんでそうなるの〜!」
顔を赤くし、頬を膨らませながら燈が抗議する。
「あ! そ、そうそう! ちなみに悪霊の倒し方だけど、普通の攻撃じゃ倒せないんだよ!」
「あ、話すり替えた」
「え、じゃあどうやって倒すの?」
「影能力とかで体を維持できなくなるぐらいの傷を負わせる、かな。でも悪霊にも個体差があるから同じ攻撃でも消滅する悪霊と耐えてくる悪霊がいるし。一応、影能力ともう一つの倒す手段はあるんだけど、多分近いうちに説明あると思う」
「……ってことは俺はまだ悪霊を倒す土台にすら立ててないってこと?」
「そゆこと♪」
幻花が軽い口調で言う。
(ガーン! 今日の模擬戦でちょっと自信ついたのに…)
「だから言ったろ。お前は"雑魚"だってな。何も"守れねぇ奴"は零影隊にはいらねぇんだよ!」
「鋭一くん、私たちだってまだその段階でしょ?」
(悪霊を倒すのが俺のしばらくの最大目標。そしてそのためにまずやらなきゃいけないのは開脳、影能力を発現させることか……)
「てか、みんな詳しいんだね。実戦経験とかあるの?」
泰平の言葉に三人がキョトンとする。
やがて幻花が笑いながら口を開く。
「ないない! 今の話ぜーんぶ柊さん達から聞いた話っ! あたし達は泰平と同じ!」
「あ、そ、そうだったんだ…! 俺てっきり…!」
「さてさて〜、そんな話をしてたらとうちゃ〜く♪」
「泰平くん、ここが寮だよ」
「ここ?」
そこは町から少し離れた場所にあった。
夜の静けさの中、木の塀に囲まれた庭が広がっていた。その奥には瓦屋根の民家が一軒、ぽつんと建っている。障子の隙間から漏れる灯りが庭を淡く照らし、古めかしい造りでありながらも、どこか落ち着いた温かさを感じさせた。庭先には洗濯物がかかっていて、夜風に揺れていた。
(寮っていうもんだからてっきりボロい所だと思ってた…)
歩いてきた道の両側には田んぼが広がっていた。
日本のザ・田舎みたいな風景だ。
田んぼの近くにはそこで働いているであろう農家の家があった。
「あの家ってもしかして…!」
「御名答。零影隊が連れてきた一般人。あそこに住んでるのは確かおじいちゃんだったかな。悪霊に家族を殺されちゃったみたい…」
そう言うと幻花は門をくぐり、家の方に向かって歩き出す。
泰平は幻花についていく。
「……話戻るけどさ、零影隊は確かにグレーな部分はある。でも、あたしは優しい方だと思う」
「え、それはどうして…?」
「だって政府直属なんだよ? 一般人を殺しても、事故で処理できる。でもそれをしないで匿ってあげるなんて…あたしがここの管理者だったら、多分、そんなことできない…だってあたしは――」
泰平は何気なくその横顔を見た。
先ほどまでの無邪気さとは違う、ほんの一瞬だけ影を落としたような表情――
(……? 気のせいか?)
ガラガラと音を立てて戸が開く。
横にいた燈が泰平の顔を見てながら口を開く。
「泰平くん、ようこそ。私たちと君のお家へ!」
開脳
・脳のリミッターを外して身体能力を引き出す力(火事場の馬鹿力に近い)
・先天的に影能力を持つ人のみ使用可能
・極限の集中状態にて発現
・戦闘には必須
影能力
・霊視できる人間は全員宿している(ただし一人につき一つ)
・影を操る/影から何かを生み出す力
・人によって能力はバラバラ(十人十色)
・訓練で発現
・発現後も技の成長が必要
リスク
・未熟な体で発現すると
→ 骨折・内臓損傷などの危険
・だから基礎体力作りが重要
影僧団
・全員、霊視ができない元一般人
・元一般人に人工的に影能力付与(それにより霊視が可能に)
・能力は全員同じ(影転移など)
・開脳は使えない(影能力を先天的に宿していないため)
・戦闘ではなくサポート役
零影隊と影島
・一般人は「保護」という名の隔離
・生活環境は完備されている
・合理的&秘密主義でややグレーな組織
悪霊の倒し方
・普通の攻撃は効かない
・影能力で限界までダメージを与えて消滅させる
・個体差あり(強さバラバラ)




