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双界記録  作者: 影縫い
1章 記録の胎動
9/11

8話 鍵の在処

朝が来た。

けれど、リクトにとっては“夜”の続きのようだった。


目を覚ました彼は、静かに立ち上がる。

クレアはまだ眠っていた。カリナは、火の番をしていた。


「……眠れなかったの?」


「うん。夢の中で、誰かが……また“名前”を呼んでいた気がする」


カリナはふと、小首をかしげる。


「その人が、君の“お姉さん”とかだったりして」


リクトは少しだけ笑った。


「……それならいいな」


ただ、その笑みはすぐに消えた。


「夢の中で、その人が、こう言った。“鍵は地の底にある”って」


「地の底……?」


カリナの表情が、徐々に険しくなる。


「それって、もしかして……」


--------------------


彼らは、森の奥へ進んでいた。


クレアが地図を手にしている。

カリナは、その背中を押すように隣を歩いている。


リクトはというと──少しだけ先を行っていた。

“何かに導かれるように”。


「森のこの先に、“転写殻”の跡がある。地面が崩れて、封印されたって記録が残ってる」


「クレア、そこって……」


「“地の底”に降りるための唯一の道。私の部隊も、かつてそこを調査したけど、半数が帰ってこなかった場所」


彼女の声は冷静だった。だが、歩みは止めない。


リクトはふと、立ち止まって言った。


「たぶん、僕たちは“そこ”に行かなきゃいけない」


クレアが目を見開く。


「……なぜ?」


「“名前”をくれた人が、そこで待っている気がするから」


静寂があった。


だが次の瞬間、カリナが背を伸ばして言った。


「じゃあ、行こうよ。私たちは、リクトの旅に付き合うって決めたじゃん」


クレアは溜息をつき、肩をすくめた。


「……こういうの、よくないわ。三人とも突っ走りタイプってことよね」


--------------------


谷底に近づいたとき、空気が変わった。


風が重くなり、木々の葉の色が抜けていく。


「異界化……?」


クレアが剣を抜く。


リクトの足元に、黒い“蔦”のようなものがからみつこうとしていた。


「下がって!」


だが、リクトは一歩踏み出した。


次の瞬間、黒い蔦が彼の足に触れた瞬間──


《認証完了──コア反応あり》


《アクセス、承認》


足元の地面が割れた。


三人は光の渦に包まれ、気づけば“階層のない”地下空間に立っていた。


「ここが……地の底?」


周囲は真っ白だった。


だが、リクトはまっすぐ前を向いていた。


「──あそこに、“鍵”がある」


彼が指したその先に、黒鉄の扉がひとつ。


そして、その扉を見つめていた存在が、ゆっくりと振り返った。


それは──


「……リコル?」


クレアがつぶやく。


だが、それは正確ではなかった。


そこに立っていたのは、リコルに“似た姿”をした、仮面の少女。


彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「ようやく来たね。リクト──“鍵を継ぐ者”」


--------------------


「あなたは……誰?」


リクトが問いかける。


少女は、無表情で、ただ首をかしげた。


「私は、リコルの“影”。彼女が残した観測者の残滓」


「……リコルは、死んだの?」


「存在を“名前”に変えた。それが、あなた」


リクトは、言葉を失った。


クレアも、カリナも何も言えずにいた。


「君は、リコルの“想い”でできてる。だから、この鍵を開けることができる」


彼女が一歩近づく。


「だけど、その扉を開けた瞬間──」


彼女の声が、少しだけ震えた。


「君は、君じゃなくなるかもしれない」


静寂が落ちた。


だが、リクトは言った。


「それでも、進むよ」


クレアが顔を上げた。


「リクト……」


彼は、まっすぐに前を向いていた。


「僕がここにいるのは、誰かが“名前”をくれたからだ。だったら、その理由を見届けたい」


--------------------


そして、扉に手をかけた瞬間。


光が爆ぜた。


黒鉄の扉が開かれ、その奥にあったのは──


“真の転写核”。


そして、そこに眠る、“起動しなかったもう一人のリクト”。


鏡のように、彼を見つめ返す存在だった。


そして世界は、再び“分岐”を始めた──

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