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第九話 友人第一号

 魅力的な言葉に誘われるまま(わたくし)は唾を飲み込むと、そっと手を伸ばしてモフモフの耳に触れる。

 ピクピクッと動く耳に驚いてビクッと肩を揺らしてしまい、隣のレイは声を押し殺して肩を震わせていた。笑いを堪えているのが目に見えて分かる。


 ――この男、無礼にもほどがあるんじゃないかしら?


「ふはっ……やっぱり、直接触られることなんてないから、くすぐったいわね」

「ご、ごめんなさい……でも、とても温かくて……モフモフで、意外とふわふわしているわ」

「あー……確か、女性と男性では感触が違うって書いてありましたよ〜。女性のが柔らかいって」


 合いの手を入れるように言葉を挟むレイに耳を傾けると、チャコラの耳から手を離す。

 思わず触っていた両手を眺めていると横から再び笑いを堪える声がした。

 そんな失礼極まりのないレイは放置して、あとで尻尾も触らせてくれることになったから楽しみで自然と表情が緩む。


 そんな(わたくし)たちのもとにお待ちかねのパンケーキが運ばれてきた。

 三人同じなので、テーブルの上が三倍華やいでみえる。


「まぁ、キレイ……(わたくし)の部屋の庭先にも同じ木があるけれど、これほど強い匂いはしませんから」

「それはー……砂糖漬けもありますしね? 数えきれないほどの花弁も使っているでしょうし」

「美味しそうね! それじゃあ、冷めない内にいただきましょう」


 甘い香りにうっとりしながら少しの間目を細めて眺める。白い湯気で、熱々なのも伝わってきそうだ。

 (わたくし)が、礼儀正しく食事の前の挨拶を済ませると、三人でフォークとナイフで一口に切り取って口に入れる。


 すると、口の中で広がるほんのりした甘さと、木の実の酸味に目を丸くした。口の中が幸せすぎて、思わずため息がもれる。

 少しの間、三人共に無言となって完食した。


「ただオシャレなだけかと思ってたけど、とても美味しかったわね!」

「ええ……以前いただいたのも美味でしたが、今回のは優しい甘さで、うっとりしました」

「俺も、以前はいただいていませんでしたので、幸せのため息がでましたよー」


 飲み物はパンケーキのあとにしていたため、(わたくし)たちが食事を終わらせたのに気づくと、お皿は運ばれていき、代わりに季節の紅茶が運ばれてくる。

 これも、先ほどと同じ匂いがして心が癒やされて目を細めた。


「パンケーキが来ちゃったんで、止まっちゃいましたけど。お嬢〜肝心のことを、まだ聞けてませんよ?」

「ハッ! そうでした……それで、いかがでしょうか? 勿論、冒険者での稼ぎ以上の金額をご提示させていただきます。お仕事の内容は、主にお話相手……三食つきで、城内に専用の個室を設けさせていただきます」

「えっ……三食つきで、豪華な、あのお城に住めるの!? アタシの冒険者人生じゃ、そんな暮らしはできないわ……」


 口を押さえて可能な限り声を抑えるチャコラは、周りを確認しているけれど気にする人間はいない。

 手応えを感じた(わたくし)に対して、レイは淡々と伝えきれていない情報を提示してくれる。


「ちなみに俺と同様で、所用がない限りは毎日王女様に付き添います。それと、俺が獣人族の女性を許可したのは、万一……男の俺が入れない場所などで王女様をお守りできる能力があると判断しています。つまり、ただの話し相手だけじゃない」


 今までで一番真剣な表情をするレイに、(わたくし)は護衛のようなことは考えていないと口を挟めない。

 しばらくチャコラも真剣な様子で考え込んでいた。紅茶が冷めない間に答えをだしたチャコラの、透きとおった宝石のような黄色い瞳が輝いてみえる。

 思わず唾を飲み込むように二人の様子を眺めているとチャコラが口を開く。


「このような若輩者のアタシで良ければ、そのお話、(つつし)んでお受けいたします」


 礼儀正しく頭を下げるチャコラに一瞬戸惑って横を見ると、レイは微笑みを浮かべて頷いた。

 (わたくし)も先ほどよりも姿勢を正すと、王女の顔になる。


「お誘いをお受けくださり有難うございます。詳しいお話と、手続きに関しましては後日、レイからお渡しさせていただきます。お仕事は、来週からお願いいたします。これから、宜しくお願いしますチャコラ」

「精一杯頑張らせていただきます! ルキディア様」


 晴れてチャコラという友人兼、護衛? を得ることができた。

 城では、礼儀正しくするように伝え、普段は砕けた話し方で良いと伝えると喜んで尻尾を振っていたのが愛らしくて、触りたいのを我慢する。

 けれど、今更ながら確実に彼女の方が(わたくし)よりも年上のはずだ。


 紅茶を飲みながら、経歴についても話を聞く。

 これも、今更なのだけれど……。身を(てい)してモフモフを止める者に悪い人はいないと信じている。


「アタシはねぇ18から冒険者をしてて、今は25よ。それで、ポポルカって言う獣人族の村の村長の娘」

「えっ……? 獣人族の村長の娘というと、(わたくし)のような存在ではありませんか?」

「ううん、大丈夫よ! 獣人族は、人族と違って子供を沢山産むから、アタシの上に兄が二人、下にも双子の弟と妹がいるから」

「獣人族は、子沢山と聞いてましたけど……凄いですねー。お嬢なんて、お一人ですし……」


 どこか哀れみのような眼差しを向ける失礼なレイに軽く頬を膨らませた。思うと、レイについてはほとんど聞いていないことを思い出す。

 言われたままでは、王女が廃るかもしれない。

 最後の一杯を飲み干すと、カップを皿に置く。


「そういうレイは、ご兄弟はいらっしゃるのかしら?」

「あー……上に兄が一人いますよー? 自分と違って、とても出来の良い兄ですけどねぇ……」

「あー……兄弟二人だと、比べられそうで大変だね。でも、アタシからしたら、レイは凄腕に見えるけどね!」


 褒められて少しだけ照れて見えるレイを可愛いと思った。

 チャコラがレイよりも思っていた以上に年上だとは思わなくて、驚いたけれど……。



 そのあと店から出た(わたくし)は、人気(ひとけ)のない場所でモフモフの尻尾も触らせてもらう。

 とてもふわふわで、それだけで癒やされて、顔を(うず)めたいくらいだったのを堪えるのが大変だった――。

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