最終話 愛の深さはゼロ距離と半径5メートル
「うぇぇえ!? えっ……? レイが、隣国の王子様で……ルキディア様に婚約の申し出? つまり、二人は結婚出来るってこと!?」
固まった私の代わりに玉座で盛大に大声を上げるチャコラは両手で口を押さえる。
そのあと小声で謝罪する姿に、石のように固まっていた私は声を出して笑った。
一瞬驚いた表情をしていたお父様はチャコラの失言を言及せず、私に優しく微笑む。
「レイン王子がそう申しているが、ルキディアの気持ちはどうだ? 他にもそなたへ求婚を申し込んでいる王子達もいる」
「わ、私は――レイ……レイン王子殿下が、好きです! 一介の貴族で、護衛の貴方とは婚姻を結べないと……諦めていました」
私の告白に目を見開くレイは戸惑った表情で口を押さえた。
キョトンとする私は、みるみるうちに顔が赤みかがる姿でレイの異変に気づく。
「……お……私が、最初に伝えたかった言葉でしたのに」
「ふむ……二人共に固いぞ? 私の前だが、普段の言葉遣いで話すことを許す」
思わぬところから助け舟が出されると、レイは深く頭を垂れてから立ち上がった。
「――国王陛下、寛大なお心感謝致します……。はぁ……お嬢。貴方はいつも俺の心を乱してくれました」
「わ、私は、そんなことしていません……! レイだって、酷いです。本名すら名乗っていなかったなんて」
「それは……俺の国では、第二王子以降は後学のために他国へ赴き、資本は学ぶことだからです。隣国だからという理由で、年齢の近い……ましては、婚約もされていない王女殿下がいる国で噂なんて立ったら国際問題です……」
「そ、それは……。モスフルがまだ発展途上国であり、私は王位を継承するのですから仕方ありません……! お父様たちのように、私にも教えてくださっても良いはずです!」
寛大なお父様の言葉で、普段と変わらない口振りのレイに対して思わず本音が飛び出す。
そのあとは互いにヒートアップした。
私たちのことを静かに見守って下さっていたお母様まで、口を隠して笑われてしまうほど。
ただ、それだけでは終わらなかった。
「――お嬢! いえ、ルキディア王女殿下……正式に、貴方へ婚約を申し込みたい。俺を、花婿にして頂けませんか? 女王となる貴方を生涯、隣で支え続けると約束致します」
「はい! 喜んで……って、はわわ……!? つい、条件反射で……いまのやり取りから急すぎます…………。ですが、そのお申し出……謹んで、お受けいたします。貴方の、花嫁にしてください!」
私の前に立て膝をつくレイは一度頭を垂れる。
それから顔を上げて私の手を掴むと、唇を押し当てた。
私の心臓はいままでの比ではないほど早くなる中、お父様とお母様の前で正式に婚約が受理される。
そのあとすぐ、国中に正式な発表があり、各国にも報せが伝えられた――。
◇ ◆ ◇
結婚については変わらず二十歳になってからで、私はレイとチャコラを連れて"木漏れ日の広場"へ来ている。
言葉を介せない精霊様にお願いして、威圧を解いてもらったから。
事の発端は、精霊使いの男性がいうように私にはモフモフの精霊様が憑いていたことで、畏怖したモフモフたちは"5メートル"の距離で威圧され逃げていっていたらしい。
「……まさか、お嬢に憑いてた精霊様によって、モフモフたちが逃げていたなんて思いませんでしたね」
「本当に……。つまり、精霊様の嫉妬ってことよね? それだけ考えると可愛いけど」
「しっかりとお話してお願いしましたので、昔のようにモフモフライフを謳歌出来ると思います……!」
つまり、私には精霊の加護が付与されていた。
精霊様が視えなかったのは、本人が隠匿魔法で隠れていたという。
「しかし、独占欲が強い精霊様もいるんですねー……。俺は排除されないか心配です」
「レイを排除……!? そんなことは致しません! モフモフの精霊様は、嫉妬深いだけですから」
「まぁ、レイはモフモフじゃないけど。精霊様の威圧を跳ね除けて、ルキディア様と"ゼロ距離"にいたわけよねぇ……愛の力は偉大ね」
レイの正体が判明して少しはぎこちなかったチャコラも、いまではすっかり元に戻って二人仲良く言い合いをしていた。
いつもと変わらない日常が私には眩しい。
そして、ついに目の前へ複数のモフモフが集まってくる。
その距離、約10メートルほど……。
「ゴクリ……ルキディア様、精霊様はどうですか?」
「精霊様、宜しいですか?」
「お嬢、ファイトです!」
二人が見守る中、私から一歩ずつモフモフたちへ近寄っていく。
そして、ずっと体験していたから分かるモフモフとの距離5メートルに到達したとき。
思わず唾を飲み込んで一歩を踏み込んでモフモフへ近づいたけれど、一匹たりと逃げる素振りはなかった。
むしろ、モフモフが好む香りをつけてきたことであちらから近寄ってくる。
私は草葉の上でしゃがみ込み背丈をモフモフに合わせると、手のひらに一匹が頭を擦り付けてきた。
「はわわ……!? レ、レイ! チャコラ! 見ましたか!? 私にモフモフが――」
「見ました! おめでとうございます、お嬢」
「ルキディア様、長かったですね……まさかのオチでしたけど!」
二人も近づいてきて、私はモフモフへ囲まれてついに念願のライフが始まることを予期する。
最後に、精霊様の目が鋭くなって少しだけ下がったモフモフたちを尻目に、頬に擦り寄ってきた姿が可愛くて撫でた瞬間。
木漏れ日の広場が光りだす。
「お嬢!? それが、精霊様……ですか?」
「うわぁぁあ!? 本当だ! ルキディア様が言ってた通りの姿」
「えっ……? 二人にも視えるのですか!? 精霊様、有り難うございます!」
思わず精霊様を抱きしめると、可愛らしい声が森の中へ木霊した――。
約十ヶ月ですが、リアタイで最後まで追ってくださった読者様。
途中から読み進めてくださった読者様や、一気読みで追ってくださった読者様、すべての読者様へ。
読んで頂き有り難うございました!これにて『モフサマ』完結です!
少しでも良かったと感じて頂けましたらブックマーク、☆☆☆☆☆を★★★★★評価頂けましたら執筆の励みになります。
最後にオマケも一緒に投稿しましたので、そちらも是非読んで頂けたら嬉しいです。
そして!重大報告です。
間を置かず、モフサマ完結と同時に新作連載始まります!
物語(冒険)メインのハイファンタジーです。
異世界恋愛のモフサマとは違いますが、こちらも是非、応援して頂けたら嬉しいです。




