第四十二話 獣人族の隠密兄弟
朝に投稿忘れてました(汗)夕方投稿になってしまいましたが、宜しくお願いします。
チャコラと離れ離れとなって波に流されてしまった私は、団体客の方が時間を気にしていた理由と向き合っていた。
流されるままたどり着いたのは広場で、先ほどまではなかった大きなテントが張り巡らされている。
そして、その中に置かれた長いテーブルでは可愛らしい人形が動き回っていた。
この国でお祭りの際だけに行われる名物の人形劇というものらしい。
お金を払わなくても見学出来るとのことで、私はなぜか最前列にいる。
「……お人形さんが、魔法のように動き回っています……。お話は、人間の方でしょうか」
「お嬢ちゃん、初めてかい? あれは、そのとおり。魔法で動かしてる……声は、人間だねぇ」
「……そうなのですね。ご丁寧に、有り難うございます」
体感三十分ほどで人形劇が終わるとすぐに解散して、広場にはテントと屋台へ足を向ける人だけになった。
チャコラはまだ、あの高台にいるでしょうか……。
完全に迷子となってしまった私は、とぼとぼと高台を目指して歩きだす。
行き交う男女や家族、友達だろう同性同士を眺めて少しだけ不安になって高台の下階段まで走った。
走るのなんて学生の頃以来だったことで、最後のところで石につまずく私は、良くおとぎ話である光景を体現する。
「きゃっ……」
前のめりに倒れると思った直後、後ろから誰かに引き戻される感覚で瞑った目を開けた。
当然痛みもなく、後ろへ振り向くとフードを目深く被った男性が二人いる。
ただ、灰色のローブ袖に見覚えのある家紋がついていて目を疑った。
「あわわ……あっ、あの……有り難うございます!! それから……その家紋は――」
「いえ……」
「ほらっ……バレた。兄貴が助けに入るから」
フードを目深に被っていた理由はすぐに判明する。
街中では目立つという理由でフードを下ろしてすぐに立ち上がる大きくてモフモフした耳。
兄と呼ばれた獣人族の男性は、紺と灰色の中間色をしていて、後ろにいるもう一人は白に近い灰色の毛をしていた。
確か、白色は珍しいとかで昔は奴隷商人に狙われることが多かったと聞いたことがある。
思わずもう一人と視線が重なった。
「あっ……もしかして、オレの毛色気になってます?」
「はっ! い、いえ……申し訳ございません! 凝視してしまって……」
「こちらこそ、申し訳ございません。ルキディア王女殿下……。私達は、密かにルキディア王女殿下の護衛をしております通称"王家の影"です」
王家の影と聞いた私は思わず口を押さえる。
幼少期にお父様から聞かされたことがある部隊。
影から私たちを護ってくれる存在のこと。
ただ、表には一切出てこないため正体を知る者はいないと聞いた。
まさか、こんな形で会って話せるとは思わなくて心臓がドキドキしている。
二人も戸惑っている様子に、私は王女らしく改めて挨拶をした。
「なんだか、不思議ですね……。私が間の抜けたことをしてしまったせいで」
「いえ……そのようなことは。普段でしたら、接触しても気付かれないようにするのは容易なのですが……」
「人が多すぎるところだと、オレたちの能力が損なわれるんです。なので、兄貴が失態を犯しましたー」
兄と呼ばれる影の方が睨みつけても微動だにしないのは、凄いかもしれない。
ただ、二人は頑なに名前を教えてくれなかった。
けれど、チャコラがこちらに向かっていると分かって待っていた弟の方が墓穴を掘る。
「うおっ……遠くからで全く分からなかった。チャコラか……」
「えっ……? あぁぁあ!? トギリ兄! そっちは、カガリ兄!?」
「えっ……? はわわ!? まさか、王家の影であるお二人は……チャコラのお兄様……!」
思わず顔を隠して耳が下がるカガリさんに、トギリさんが指で顔を突いていた。
すべてを知ってしまった私とチャコラに、場所を変えようと提案され近くの古民家カフェへ足を踏み入れる。
お祭りにカフェを訪れる者は少ないようで、客は私たちだけだった。
何があってもいいようにテラス席を案内してもらう。
素人目からしたら外ほど危険はなさそうだけれど、案外逃げ道の無くなる室内の奥が危ないらしい。
獣人族は魔法よりも身体能力で仕事をすると聞いたのだけれど、トギリさんは性格とは正反対に魔法を得意としていた。
白い毛が関係しているかもという話で、防護壁と防音魔法がされる。
「これでオーケーだな」
「ハァ……元はと言えば誰のせいだと……」
「ごめんね……二人共。まさか、二人が、ルキディア様の護衛をしていたなんて知らなくて……。しかも、まさかの――」
男性姿で叫びかけるチャコラの口をカガリさんが塞いだ。
よく見ると三人共似ている部分はある。一つは、毛の色は違うけど目の色が同じ宝石のような琥珀色。
髪の色はカガリさんのがチャコラと近いかもしれない。
トギリさんは少し特殊だと言っていたから、突然変異? なのかもしれない。魔物でも色が違うけど、同じ種類は結構いる。
「まぁ、もうアタシやルキディア様に知られちゃったから、隠す必要はないわね! あっ、レイがいたか……」
「なんだか、その見た目でチャコラの話し方だと面白ぇなー。まぁ、可愛い妹には変わらねぇけど」
向かいに座るトギリに頭を撫でられるチャコラは、男性姿なのに耳をペタッとして尻尾を揺らして可愛らしい。
私たちは、少しの間雑談をして店を出る。
そろそろ迎えの馬車が来る時刻だから。
私は馬車が来る間、前に立つ二人の下半身に視線を向けてしまう。
なぜなら、チャコラのように尻尾を出しておらず……隠しているから!
なんと勿体ない……。
当然、怪しい私の視線に気が付かないはずもなく、眉を下げるカガリさんは視線を合わせず言葉を選んで聞いてくる。
「その……ルキディア王女殿下は、私達の尻尾を気にされているのでしょうか?」
「はっ! 申し訳ございません! ほ、ほんの出来心です!」
「ルキディア様ー……それ、犯人が言う台詞だからねぇ? 獣人でも、隠す人はいるのよぉ。意外と痛くはない……緩めのズボンを履いてるからね」
チャコラの説明に感動する私に苦笑いするカガリさんは、確実に引いていた。
その点トガリさんは気にしていないようで、終始笑っている。
そんな穏やかな時間が過ぎていく中、遠くからモスフルの家紋が入った馬車が走ってくるのが見えてきた。
楽しい時間が終わってしまう感覚に、寂しい気持ちが生まれた瞬間。突然、後ろの方から発砲音が聞こえたと思うと、逃げ惑う人々の叫び声がし始める。
「えっ……今度は、何事でしょうか!?」
「ルキディア様! これは、さっきと違ってただ事じゃないわ!」
「まずは、ルキディア王女殿下の避難経路を確保……。一旦、物陰に隠れましょう」
チャコラに手を引かれ建物の陰に隠れようとしたときだった。
後ろから親を求めて泣く少女の声が聞こえてくる。
思わず顔だけ振り返ると、地面に倒れて泣きじゃくる獣人の少女がいた。
しかも、その子の耳と尻尾は、トガリさんよりも白い。
「ちょっ……!? ルキディア様!!」
「おい、嘘だろっ!?」
「――ルキディア王女殿下……!」
私の悪い癖……。
気が付いたときには、チャコラの手を振り切って走り出していた。
ただ、少女を腕に抱きしめた瞬間。
知らない男性の手に腕を掴まれた直後、爆発音と共に視界が白くなって意識が途切れてしまった。




