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第三十九話 初めての謁見

 嬉しいことがあった数日後。宝箱に似せた専用の宝石箱に入った星の石を眺める(わたくし)に、眉を寄せるレイがやってくる。


 明らかに普段と違うレイの様子に、横にいたチャコラが話を聞いて戻ってきた。


「――ルキディア様。その……他国の王子様たちが、謁見(えっけん)にいらしたようです……」

「あわわ……そうでした! お父様に言われていたのに、すっかり忘れていました……すぐに支度を!」


 (わたくし)は、今日の予定を忘れていたことに慌ててしまい、レイのことを気に掛ける暇もなくなってしまった。



 準備を済ませて深呼吸した(わたくし)たちは、玉座へ足を踏み入れる。


 すでに国王陛下であるお父様と、お母様から離れた場所で頭を垂れる王子の姿があった。


 祝いの席で見た、第二王子だ。


 モスフル王国は(わたくし)が、次期国王になるため基本的に第二王子以下しか来ない。

 権力を振るえないこともあるけれど、一番はモスフル王国に配慮しているから。


 国王陛下であるお父様は、女王となる(わたくし)を引き立て、支えてくれる相手を探している。


「遅れてしまい、大変申し訳ございません。改めまして、モスフル王国第一王女であるルキディア・モスフル・トワニです。お顔を上げてください」


 (わたくし)謁見(えっけん)している間、壁側まで下がった場所で待機しているチャコラとレイの声は聞こえない。



 そのあとも、10人ほどの王子たちが(わたくし)のために足を運び、無事謁見(えっけん)は終わって部屋のベッドに寝転がる。


「ルキディア様、お疲れ様でした! 今日来た王子様たちは、晩餐会で顔を合わせた方たちでしたねー」

「そうですね……。他国は、モスフルとは違い、二人以上子供がいますから……」

「――次は、一週間後とのことです。今日みたいに忘れないでくださいね」


 チャコラとは違って淡々と話すレイに違和感を覚えながらも、ベッドにうつ伏せとなった(わたくし)は考える余裕がなかった。


 そんな(わたくし)の代わりに、チャコラがまたレイを冷やかしている。


「もー! 星の石を渡したくせに、王子様たちの謁見(えっけん)くらいで拗ねないの」

「――誰が、拗ねてるって? 子供扱いするのはやめろ」

「……でもこれは、うかうかしていられないわよ! 王子様じゃなくても、レイがモスフル王国の騎士団長になったら!」


 よく話が見えない会話を繰り広げている二人に顔を横へ向ける。

 他国でも、自国民ではない者が騎士団長に登りつめた話は耳にした。

 ただ、レイは(わたくし)よりは年上だけれど、騎士としてはまだ若い。


 残り二年で騎士団長は難しい気がする。


「モスフル王国は、自国民を大事にしているんだぞ。他国出身の俺が、騎士団長を倒してみろ。評判が悪くなる」

「ふーん……倒せる自信は、あるんだー?」

「……くっ。それは……」


 完全に遊ばれているレイが、年相応に見えて少しだけ可愛いと思ってしまった。

 午後は何もないことを考えていると、二人の言い合いも心地良くてそのまま眠ってしまう。



 体感としては少しの間眠ってしまったことに、思い切り体を起こすと、明かりの消えた部屋には誰もいない。


 夕暮れを知らせるような暖かい光が窓から照らされる中、ぼんやりと室内を眺める。


「……レイが来る前は、確か……寂しげだった気がする」


 チャコラも来たことでさらに明るくなった(わたくし)の世界。

 このまま時が止まってしまえば良いのに……。


 そんなことを考えていると、扉を叩く音がして応える。


「ルキディア様ー! おはようございます。相当疲れたようですね。レイが、無防備すぎる……って、怒ってましたよー」

「あわわ……失態を犯してしまいました。それで、レイは?」

「また鍛練に行くって言ってましたよー」


 鍛練という言葉で、ベッドから降りた(わたくし)は、庭を眺めた。

 自国の騎士に混ざって鍛練をしているレイはすぐに見つかる。


 一人だけ、王子様のように輝いているから……。


 そんなとき、棚に置かれたモフモフ図鑑に視線が向くと、頭の中で忘れていた記憶が呼び起こされる。


「はっ! チャコラ、いまはまだ夜ではないですよね!?」

「えっ……? まぁ、夕刻ですよね……おひさま的に」

「いますぐに、城下街へ向かいます! とても大事なことを忘れていました!!」

「えええ!? いまからですか!? ちょっ……! ルキディア様ー!」


 モフモフ図鑑の最新刊を手にとって、思わず駆け出す(わたくし)のあとを追いかけてくるチャコラと共に庭を走った。


 鍛練をしていたレイもすぐに気がついたようで走ってくる。

 走りながら事情を説明すると、呆れながらも二人はついてきて城下街へ向かった。



「ハァ、ハァ……。やはり、ドレスで走るのは……大変です」

「ハァ、ハァ……ドレス姿で走るのは、ルキディア様くらいかと……」

「本当ですよ……。何かと思ったら、これって――」


 (わたくし)の代わりに持ってくれた最新刊のモフモフ図鑑を手渡してくるレイから受け取ると、本屋へ向かう。

 時間としてもういないかもしれないけれど、微かな期待を胸に横を曲がった先の本屋で机を前に座る老人がいた。


「あの方です! 二人とも見てください! 机の上に、同じ図鑑が乗っています」

「それで……サイン会? でしたっけ。ルキディア様が愛読されてるモフモフ図鑑の」

「そうなのです! 今回、初めてのサイン会だそうで……ずっと、待ち望んでいたのです! 早速、お願いしに参りましょう!」


 ワクワクする気持ちを抑えきれず、モフモフ図鑑を片手に近づいていくとレイが立ち止まる。

 (わたくし)は気にせずチャコラと共に歩み寄った。


「モフモフ図鑑の作者様、(わたくし)貴方の大ファンでして! 是非、こちらの本にサインをお願いいたします!」

「――よく来てくださいました……。おや……。もしかして、ルキディア様……でしょうか?」

「は、はい! まさか、(わたくし)のことをご存知なのですか!? とても光栄です」


 一向に近づいてこないレイを尻目に、モフモフ図鑑へサインをしてもらうと(わたくし)はその場で浮かれて飛び跳ねる。

 ただ、老人は薄茶色の帽子を深く被り、探検家というような容姿と長く伸びた髭を撫でた。


「ええ……とてもよく、存じています。立派になられたようで、何よりでございます。それに、モフモフを愛してくださり作者としても大変嬉しく思います」

「有難うございます! モフモフ研究の第一人者である貴方のお話をお聞かせいただけませんか?」

「そうですね……次に、この地を訪れるのは二年後でしょうから。それから、とても素敵な護衛もいらっしゃるようで……モスフルも安泰ですね」


 モフモフ図鑑の作者がいう言葉は、理解できない部分もあったけれど、モフモフについては有意義な話を聞けて上機嫌で城を目指して歩く(わたくし)にレイが振り返る。


「お嬢……口止めされたので、黙っていましたが。先ほどの方は、先代国王陛下……つまり、お嬢のお祖父様でしたよ」


 レイの言葉が耳を通り抜けていき、理解が追いつかず停止した(わたくし)とチャコラは、同時に叫び声を上げたのだった。

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