第三十六話 モスフルのモフモフ精霊?
『神殿に祀っている、精霊様が残された首飾りを見ていきませんか?』
『いいのですか!? それは、大変有り難いことですが……』
『私も良いのでしょうか……。ルキディア様の護衛とはいえ、モスフル王族ではありません』
最もなことを口にするレイに対し、セレスティア様は笑顔で頷いた。
ただ、私ですら分かった疑問はある。
レイが言ったこと……。
精霊は認めた相手か、精霊使いでないと見えない。
人魚族が精霊使いではないのは分かっている。
なぜなら、精霊使いは人族だけだから。人族は大抵のことは出来るけれど、特質した個性がないからといわれている。
精霊は土地を守護する存在といわれ、認められるのも一握りらしい。
だから、セレスティア様を認めたわけじゃない。
『レイ……。精霊様は、御力を行使するときも、一部の者には視えるのでしょうか?』
『セレスティア様のお話からしたら、可能性は大きいですね……。それから、精霊様が残された首飾りも気になります』
二人で考えていると、セレスティア様が手招きするように再び外へ連れ出される。
町からでも見える巨大な柱。
意外と人魚族は怪力なのかもしれない……。
それに、虹色の瞳は覚えがある。
あのとき、助けた白いモフモフの子も虹色の瞳をしていた……。
『貴方方が口にしている魔導具も万能ではありません。六時間という限定付きですので、早速参りましょう』
『レイ、まだ時間はそれほど経っていませんよね……?』
『はい。体感で、一時間も経っていないと思います。ですが、セレスティア様のいうように俺たちは人間ですから、急ぎましょう』
セレスティア様と護衛で男性の人魚さんと四人で神殿内へと踏み入れる。
中は海底よりも暗く、セレスティア様の魔法によって仄かな明かりに照らされていた。
本当に何もなく、壁も岩のようにゴツゴツしていて、此処が元は巨大な岩山のようなものだと分かる。
少し泳いでいくと、すぐにセレスティア様たちが立ち止まった。
そして、目の前を照らされて祭壇のような場所に置かれた首飾りがある。
後ろから覗き込むと、しっかりモスフルの紋章が分かった。
装飾などもなく、中心に虹色をした宝玉があるだけ。
その上に紋章がある。
『どうぞ、御手に取ってみてください』
『は、はい! それでは、失礼いたします』
レイから手を離して祭壇の前に立って、首飾りに触れた直後――。
『あわわ……!?』
『ルキディア様……!!』
虹色の宝玉が白く光り輝いて視界を奪う。
瞬間的に閉じたはずの目に、白くてふわふわでモフモフして……少し灰色がかった長い耳に尻尾をした生き物が映った。
この姿は、あのとき助けた子にしか見えない。
私を見つめる瞳が、虹色をしているから……。
『――ルキディアよ……。あのときは、助けられた。感謝する。ただ、現在は、まだ……その時ではない。時が来たら……また会おう』
『えっ……? あわわ!? ど、どういうことでしょうか!? 理解が追いつかな――』
『ルキディア様!! 大丈夫ですか……!』
肩を思い切り揺らされて私は現実に引き戻されたようで、レイの顔が視界に映る。
ホッとする様子に目を細めた。
その場で一部始終を話すと、セレスティア様に首飾りを手渡される。
ただ、もう光り輝くことはない。
『こちらは、貴重な宝物ではないのですか?』
『はい。ですが……先ほどの光に加えて精霊様の御言葉。こちらは、ルキディア様の手元にあるべきと判断致しました』
『有難うございます……大切にいたします!』
『それでは、フェリス王族の皆様にも宜しくお伝えください……また、お会い出来ることを楽しみにしていると』
先ほどの洞窟まで見送りをしてもらった私たちは地上に戻る。
海から浮かび上がって魔導具を外してすぐに大きく息を吸い込んだ。
レイに抱えられる状態で岸にあがると笑われる。
「海から出てすぐに空気を吸い込む姿は、人間らしいですねー」
「私たちは、人間ですから! レイが冷静なだけです……空気が美味しいです」
「まぁ、そうですね。それにしても、急に色々なことがありすぎて……。フェリス王国には、チャコラが話をしているでしょうけど。それにしては、人魚岬に誰もいませんね?」
レイの言うとおり、あちらで過ごした時間を短く見積もっても、確実に一時間は経過していた。
それに、あの海賊もいないところをみると一度は此処にフェリス国の騎士が来たはず。
首飾りは鞄を持っていなかったことで、一番安全な首に着けてもらっていた。
手にした魔導具は役割を失ったように崩れて消えてしまう。
「レイ……夢では、ありませんよね?」
「はい。それが何よりの証拠ですから。魔法の世界に入り込んだとしても、さすがに持ち出したりは出来ないかと……」
陸に上がったことで濡れた髪やドレスによって私は身動きが取れなかった。
私は残念ながら、攻撃魔法が得意なため服を乾かす魔法は使えない。
攻撃魔法である炎魔法の調整は危険すぎて止められた。
これでは風邪を引いてしまう。
「あの泡で濡れないようにしてくれたら良かったのですが……」
「魔導具もそこまで万能ではないですから……。あっ、馬車がこちらに向かってきてます」
「あっ……本当ですね! あの紋章は、フェリス王国です。今日は、頭を整理するためにも早く眠りたいですが……」
肩を落とす私に窓を開けて手を振ってくるチャコラの姿に目を見開いて振り返すと、反対側に真剣な表情をするパリス王子の姿があった。
その後、フェリス城に戻った私たちの話を聞いたフェリス王によって、人魚族に関することはすべて秘匿とされ、箝口令が敷かれる。




