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第三十五話 人魚族の生き残り

 中は本当に洞窟のようで、光から断絶されたような暗闇に、思わず横にいるレイの腕にしがみついてしまう。

 泡に包まれていても、水中だからか体温は感じられない。


 ただ、そんな(わたくし)に気がついてくれた様子で、腰を支えてくれるレイの腕も強くなる。


 出口なのか、急に光が差し込む場所が見えてくると緊張で力を入れていた肩を落とした。


『ようこそ、私たちの都へ……歓迎します。モスフル王国の王女、ルキディア様』

「んんっ!?」

『頭の中で、強く念じてください。そうしたら、会話が可能になります』


 セレスティア様に言われるまま言葉を強く念じてみる。

 それに、モスフル王国の王女って……(わたくし)のことを知った上で招待してくれたということだと分かって目を見開いた。


 光の先に広がっていた場所は、先ほどよりも華やかで、水の色も薄紅色をして幻想的に映る。

 くわえて、珊瑚や貝殻の形をした大きな住居が見えた。


 手招きをするセレスティア様に連れられて、大きな柱がある神殿のような場所を通り過ぎた際、見慣れた紋章に目を奪われて立ち止まる。


『レイ! 見てください。神殿のような建物の扉中央に、モスフル王国の紋章が刻まれています!』

『えっ……? 本当ですね……これは一体――』

『そちらについても、お話しさせていただきます。どうぞ、私の家へ』


 他と少し作りが違う珊瑚に貝殻が重なるような形をした家が見えてきた。

 すると、どこからともなく現れた人魚たちに囲まれる。

 思わず腰の鞘に手をつくレイに、(わたくし)は人魚の数を数えた。


 取り囲む人魚は槍のような武器を手にしていて、男女合わせて五人。


『皆の者、こちらの二人は私が招いた客人です。そして、私たちを救ってくれたモスフル王国の王女でもあるのです』

『なっ!? それは、本当ですか、セレスティア様……』

『あわわ……。(わたくし)は何もした覚えはございませんが』


 あの紋章がある神殿に何かあるのだということは分かった。

 けれど、海を渡った先の大陸で、フェリス国と外交する話をしたときも、お父様からは何も聞いていない……。


 一人を残して散り散りに去っていく男女の人魚を目で追う(わたくし)に、男性の人魚さんが話しかけてくる。

 セレスティア様よりも青みが強い長髪と、少し(いびつ)な尾びれをしていた。


『大変申し訳ございませんでした。セレスティア様が招かれたお客人であり、まさか私達を救ってくださったモスフル王国の王女様とはつゆ知らず……』

『そちらに関しては、まったく気にしていませんのでお構いなく! それよりも、救ってくれたとは? 貴方方は、歴史上のおとぎ話で滅んだと……』


 誤魔化すのが苦手な(わたくし)は正直に聞いてみる。


 セレスティア様は、無言のまま扉のない家に案内してくれて、貝殻で出来た椅子に座った。

 (わたくし)たちも、男性人魚さんによって近くにある小さめの椅子に促されるように座る。


『歴史上のおとぎ話は、岬を訪れる観光客の話で知っています。ただ、友好国であったフェリス国にも伝えることなく、私を含め、ここで"亡くなりかけた"人魚たちは、モスフルに住む精霊様に助けられたのです』

『えっ……? モスフルに住む、精霊……!? あわわ……聞きましたか、レイ。まさかの、モスフルに精霊様がいるようです!』

『……聞いたことがありませんでした。精霊は、普通の人間には見えないものですし……』

『すべてをお話すると長くなってしまうので割愛します。ただ、自死を選んだ私達の前に、虹色の瞳をした水中には存在しない見た目をした精霊様に助けられたのです』


 セレスティア様の話によると、その精霊様が現れた瞬間傷が癒え、道を指し示してくれたらしい。

 その場所には、あの洞窟があり海面に出ても人間の姿はおろか、街もなく船すらも通ることのない海域が広がっていると話してくれた。


 精霊様はそれ以降姿を見せることはなく、ただ、そのときに置いていった紋章の入った首飾りがモスフルと同じだったようで、神殿を作って(あが)めていたらしい。


『実は、海を越えた先にあるモスフルのことは存じていなかったのですが、ある旅の方が訪れて同じ紋章を見せてくれたのです』

『それは、つまり……お父様よりも前の、お祖父様……いえ、初代国王陛下が訪れたのでしょうか!? 確か、お祖父様が世界を旅して回っているのは……初代国王陛下と同じく冒険家だからと言っていたような』

『俺も知っています。話を聞いたときは、正直驚きましたけど……護衛もつけずに、いまはどこを回っていらっしゃるのか』


 まさかの話にレイと顔を見合わせる(わたくし)は、詳しく話を聞かせてもらった。

 それで分かったことは、初代国王陛下がモスフルにいるという精霊に認められたことで、繁栄してモスフル王国が出来たということだった。


『それからつい最近も、同じく男性で良く似た人物を招きまして、神殿に保管された首飾りを見ていきました』

『それは、絶対にお祖父様ですよ! このことは、お父様はお祖父様から聞かされているのでしょうか……。きっと、モスフルにいる精霊様なのですから、モフモフに違いありません! 精霊様にお願い出来たのなら、(わたくし)の呪いのような現状も変わるのではないでしょうか!』

『まぁ……現状で、それ以外はほとんど実行しましたからねー。ただ、精霊は認めた相手か、精霊使いでないと見えませんので……探すのは難しいかと』


 喜んだのも束の間、レイから現実を叩きつけられて目を潤ませる(わたくし)にセレスティア様が、ある提案をしてくる。

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