第三十話 外来モフモフ来日?
慌ただしい記念祭から数日後。
私とレイは、チャコラの自室に集められていた。
チャコラの自室も内装は特に変わらないけれど、家族写真や、関連する物が棚に並べて飾られている。
それだけで、チャコラが暖かい家庭で育ち、離れている家族を愛していることが伝わって来た。
「二人を呼んだのは他でもないわ! 最近、ギルドに行く機会があったんだけど……。何やら、外来のモフモフが船で紛れ込んだとかで。その討伐依頼が出てたの!」
「えっ……? ”外来のモフモフ”……。海を渡った先から来た子は、外来種なのですか!?」
「ハァ……。お嬢は、相変わらず勉強不足ですねー」
あの日から数日経ったことで、レイは言葉通り元に戻って、変わらず接してくれる。
ただ、自分の気持ちに蓋をしてしまった気がして、原因は私にあることに心が晴れない。
私も、お父様に婚約者を募ると聞かされて、なぜか一番に顔が浮かんだのはレイだったから……。
多分、婚約者が出来たらレイは実家に戻ると最初に言われたからだと思っているけれど、この気持ちが良く分からない。
「生まれた場所が違うだけで、その土地から別の土地に移動してしまうことは悪いことなのですか?」
「俺たちのように人間なら言葉もありますし、生態系を崩さずに和解出来ます。ですが、モフモフたちは弱肉強食です。まぁ、弱者ではありますが……その中でも縄張りや、食事をする必要もあります」
「つまり! モスフルに住んでるモフモフが縄張りを犯されて、ご飯が食べられず、数を減らすことで外来モフモフが増えて生態系を脅かすということです!」
二人の話を聞いてすぐに理解した私は口を押える。
モスフルにいるモフモフが数を減らしていなくなるのは由々しき事態だから。
備え付けのソファーに座って飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置くと、おもむろに立ち上がる。
「これは、私にとってまたとないチャンスかもしれません!」
「えっと……どういうことですか?」
「以前、お二人にお話しがありますとお伝えいたしましたが……。普通なら止められることを、外来モフモフの登場によって、理由付けが出来るのです!」
二人に相談しようとして出来ていなかったことを私が話すと、驚いた様子で立ち上がった。
当然、レイは険しい表情で否定する。
「海を渡って、外を旅したいなど言語道断です! そんなこと、許されるはずがない……」
「ルキディア様って、思ってた以上に大胆よねぇ……」
「ですから! モスフル王国代表として、外来モフモフを元の場所に帰すという立派な名目が出来るのです」
とても真面目な顔を作って見せると、二人は呆れながらも提案に乗ってくれた。
外来種はモフモフでなくても、国家の問題だとレイは指摘する。
だから、殺さずに元の場所に帰せるのなら、他国との交流も生まれるかもしれない。つまり、これは外交だ。
その外来モフモフがいる相手国が、モフモフについてどこまで好意的であるかも重要になる。
「それでは、調査を開始したいと思います! レイは、外来モフモフについて調べて他国がどのような扱いをしているかを探ってください。チャコラは、外来モフモフを見つけて、可能でしたら無傷で保護をしてください」
「了解しましたー! ほら、レイ行くわよ」
「……承知しました。ですが、俺は海を越えた先の旅は認めてませんからねー」
ひとまず、外来モフモフについて行動することにした私たちは、数日を費やした。
「ルキディア様の左腕、チャコラ。報告します! 外来モフモフは全部で三匹であり、うち二匹は協力者と共に保護しました! ですが、見た目が小さくすばしっこいので、残り一匹が港町で逃亡中です」
「……チャコラ、おとぎ話の読みすぎじゃないか? こちらは、チャコラに外来種の情報を与えてから、他国について調べました。結果は、モフモフについて好意的であり、外交可能かと思います」
「二人とも、有難うございます。それでは、あとは残りの一匹を保護して、お父様に認めてもらえたら海外に進出できますね!」
目を輝かせる私に対して、ため息をつくレイに眉を寄せる。
レイはお父様と同じく頭が固いのが残念な部分だった。
もちろん、メイドは連れて行けないから、またチャコラに頑張ってもらうことになる。
そこはチャコラも了承してくれて私を応援してくれた。レイとは大違い。
心配してくれているのは分かっているけれど、私には、時間が限られているから……。
「それでは、お父様に進言して参ります。何か進展がありましたら報告してください」
「ルキディア様、ファイトーですよ!」
両手を握りしめて下に落とす仕草をするチャコラに私は笑顔で頷いて部屋を出る。
◇ ◆ ◇
それから数日後。私たちは、モスフル王国から少し離れた港町に来ている。
私は落ち着いた紫色のドレスを纏い、前方をレイが歩き、後方をメイドの衣装をしたチャコラが歩いていた。
当然、外来モフモフは私から半径5メートルの距離が必要なため、ギルド職員に頼んで先に船へ運んでもらっている。
遠目から見たモフモフは、愛らしいつぶらな瞳に、お腹はモチモチしているのに、表面に沢山の針を持ち、普段は毛として撫でられるのに、怒ったり危険を感じると逆立って凶器になるという恐ろしさ。
ただ、レイはモフモフなのか疑問を抱いている。私も最初、見たときは疑問を覚えたけれど、その裏側にあるモチモチ部分の短毛を触った人間が全員顔が緩むほどモフモフだったと話してくれた。
とても羨ましい……!
「だけど、ルキディア様の説得による賜物ね! 若干、呆れていた気もするけど……」
「ハァ……お嬢には、みんな呆れますよ。執着心の塊です」
「不敬ですよレイ。私には時間が限られているのですから、やれることはなんでもやります!」
レイとは対照的に拍手をする好意的なチャコラに笑顔になる。
私たちは、外交という目的もあるため王国が所有する小さめの船に乗った。
私の頼みで、木箱ではなくガラスで出来た箱に入っている外来モフモフたちが目に入ると顔が緩む。
「本当に可愛らしいです……いまは、針の部分も寝ているみたいですし。見てください! こちらを見ていますよ」
「本当ねぇ。あの針を魔法で飛ばして攻撃してくるなんて思わないわよ」
「本当に弱いモフモフじゃないですよねー。あと、外来の方が気性の荒い個体が多いようですよー」
興味無さそうに辺りを警戒するレイが説明してくれた。嫌々ながらも、きっちり仕事をこなすレイのそういうところを尊敬している。
「あっ……。もう出航するようですよ!? 初めての海を渡った私たちの旅が始まるのですね」
「アタシも、海の外は出たことなかったから少しドキドキしてるわね……」
「俺は、後学のために何度か渡ったことがあるので……。興味津々で眩しい目を向けないでください」
私は、レイから外交に向かう国から、他の国までチャコラと質問しながら話を聞いて過ごした。
だけど、このときはまったく考えもしなかった……波乱万丈すぎる海外進出が私たちを待ち構えていることを――。




