第十八話 謎の赤い宝箱
少しずつ建国祭に向けて慌ただしくなる城内で、私はチャコラと共にレイの自室にお邪魔していた。
レイが初めて城に来た最初のみで、二度目の訪問になる。
以前は関係性も何もなかったから普通だったけれど、今は少しだけ緊張していた。
城内は個室であってもある程度は似た造りとなっている。
当然、私たち王族の部屋は別物だけれど。
青いカーペットに、白い壁。これは外壁と屋根に合わせたもの。家具は薄茶色をしていて、統一されている。
勉強家であるレイの部屋には本棚が複数あって、難しい本が並んでいた。
私たちが室内に入って扉を閉めてから、その中の一つを手にしたレイは小さめのテーブルにあるページを開いて置く。
「今日部屋に来てもらったのは他でもありません。遺跡の謎でーす」
「まさか、解明出来たの!? でも、どうしてルキディア様の部屋じゃなく……」
「それは、メイドさん方に聞かれる恐れがあるからだ。これは、お嬢のお願いで秘匿扱いですからねぇ?」
調子の良いレイは片目を瞑って口元に人差し指を立て笑った。
少し前までは、何も感じなかった仕草にも顔が熱くなって私は思わず下を向く。
不自然な様子の私に首を傾げるレイを恨めしそうに見つめていたら、横で笑いを堪える姿を視界に捉えた。
「ふふふっ……。あっ、ごめんなさい! ルキディア様が、可愛いなって」
「むう。不敬ですよ、チャコラ。それでは、本題に入ってください」
「はいはーい。それじゃあ、先ずはお嬢の使った魔法と例の宝箱ですけどー」
レイが指さすページに書いてある文字をチャコラと二人で見つめる。
遺跡の罠――。
特定の魔法に反応して、作動する。
発動の鍵は、謎が多いとされる擬態の魔物を調べること。一層で擬態の魔物と遭遇すること自体稀であり、遺跡が現れてから一度しかない。
その魔物を調べることによって、知ってはいけない何かがあるようだ。
だが、魔力超越を持つ者にしか謎を解くことは出来ず、通常なら宝箱か、魔物かを見極める魔法でしかない。
多くは謎を知る前に強制的に深層へ転移される。
「――私は不運を重ねてしまったということでしょうか……」
「これって、例の魔物よね? ルキディア様が読んでたモフモフ図鑑にも出て来た……」
「ああ。まさか、ミミックにそんな能力があるなんて、誰も思わない」
ミミックは中身が謎だと言われている擬態の魔物であって、私が愛読しているモフモフ図鑑では、中身がモフモフ説を唱えていた。
でも、それが事実として……。それなら、なぜ階層主のところに現れた赤い宝箱で、レイが此方に来られたのかが分からない。
そもそも、何故急に赤い宝箱があの場に現れたのか――。
「どうしてあの場に赤い宝箱は現れ、レイは私の下に転移出来たのでしょうか?」
「うーん……それが一番の謎ですねぇ。でも、一つだけ分かることは……魔法を使ったお嬢が、俺の名前を呼んだから」
「あー。アタシも一緒にいたわけだものねぇ。そもそも魔物だって普通は階層主の部屋になんて転移出来ないわよ」
この本に書かれていることが本当だとして。チャコラが言うように、階層主の部屋は特別で、未だに謎も多いことで知られている。
けれど、階層主が自らの意思で不利になる状況を作るはずはない。
「そういえば、あらゆる生命が先天的に持っているといわれる隠れた能力があったな……」
「あっ! もしかして、幸運値? 別名、運命力とも言われてるけど」
「幸運値に、運命力ですか? 生命エネルギーのようなものでしょうか」
二人の話を聞いて、それらが素晴らしい能力であることを知った私は軽く両手を合わせる。
寿命にも関わっているのではないかと、秘密裏に研究もされているとか。
この世界には、まだまだ秘密が多そうです。
「つまり、結論は分からないと……?」
「残念ですが、分かったのはミミックくらいですかねぇ」
「謎は解き明かされないってことね。じゃあ、階層主から得た赤い宝箱と、ミミックの因果性は?」
階層主が倒されたことでミミックが宝箱になるなんて聞いたことがありません。
話をする中で、もう一つの謎を思い出した私は、思わず手を挙げる。
「お嬢、なんでしょうかぁ?」
「もう一つの謎がありました。魔道具ヘレイリオ。なぜ、私には半径5メートルの呪いが、倍の10メートルになったのか」
「あー! そういわれるとそうよね。あのあと、アタシたちが試したら普通にモフモフに群がられたし」
あれは悲しい出来事でした……。
モフモフに囲まれて苦しそうな二人を目の当たりにして、失神しなかった私を褒めてほしいくらいに。
これが呪いでないことは証明されているけれど、他に言葉が見つからなくてそう呼んでいる。
「商人のいうことは間違いなく本当でしたからねぇ?」
「魔道具ヘレイリオを嵌めたとき、なぜか暖かい気持ちになったのですが……」
「そうなの? アタシは普通だったなー。まぁ、効果が凄すぎて暫くはいいかな……」
私たち三人は、うーんと唸って考えることを辞めた。
いつの間にか用意された紅茶とお菓子によって、お茶会に変わる。
「何も解明出来なかったけど頭を使ってお菓子が美味しいわね」
「面目ないです。謎が上書きされただけになっちゃいましたねぇ」
「きっと解明してはいけない謎もあるはずです。おとぎ話では、七不思議なるものもあるそうですよ?」
私は、ひっそりと自分の中で世界の七不思議に追加した。