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第十七話 モフモフの赤ちゃん

来週から7時台に戻します。宜しくお願いします。

 黒貂(コクテン)の赤ちゃんは、滅多に人里で姿を見ることがないと言われている。


 丸くなっていた形状から、身体が伸びたことで長めの胴体に短い尻尾と手足。

 目は丸くて毛色より青みがかった黒色をしていて宝玉のように輝いてみえた。

 温かい風に吹かれていたのか、毛はフワフワして触ったら確実に柔らかいはず!


 しかも、こんなにも愛らしいモフモフだなんて……!


「か、可愛らしいです……。レイ。黒貂(コクテン)の赤ちゃんは、爪も牙もありません。毒などもありませんし、触っても……」

「駄目です」

「もう! レイは、意地が悪いです」


 頬を膨らませて抗議する(わたくし)に呆れ顔のレイは横を向いて視線をそらす。

 そのやり取りを見ていた子供たちが、(わたくし)たちを愛らしい瞳でジッと見つめてきた。


「お姉ちゃんたち、パパとママみたぁい」

「えっ……? それは、どういう意味でしょうか……」

「――子供が言っていることです。深い意味はないでしょう」


 喧嘩している(わたくし)たちを見て、お父様とお母様のように見えたとは一体……。

 子供は可愛くて素直だけれど、(わたくし)には理解出来ない難解を示すことがある。


 レイもこう言っているのだから、気にするような内容ではないのかもしれない。


「ちょっ……アンタたち、ルキディア様に向かって変なこと言ってるんじゃないわよー!」

「あの……。チャコラは、子供たちが言っている意味を理解しているのですか?」

「えっ……と。レイも言ってるとおり、大したことじゃないんじゃないかしら」


 目をそらす仕草は完全に何かを誤魔化しているときのチャコラだ。


 子供たちは、チャコラが追い立てたことで、楽しそうに逃げて行く。

 黒貂(コクテン)の赤ちゃんには、そこまで興味がないらしい。


 取り残された黒貂(コクテン)の赤ちゃんは、母親を探しているようにキューキュー可愛らしい鳴き声をあげ始める。

 近くに親が居たら良いのだけれど……。人が居たら近づけないかもしれないと、触りたい衝動を抑えて(わたくし)たちは離れた建物の物陰から眺めることにした。


「はっ! とても今更なのですが、あの黒貂(コクテン)の赤ちゃんは、半径5メートル以内でしたのに、怖がる様子も見せませんでしたよ!」

「そう言われると……。幼体だったので、すっかり忘れてましたねぇ?」

「赤ちゃんだったからとか……? 何か、半径5メートルにも法則があるのかしら」


 (わたくし)とモフモフは半径5メートル以内接近禁止で、モフモフに好かれる魔道具ヘレイリオでは何故か、二倍の半径10メートルに伸びるという(はかな)さに……。

 それが、モフモフの赤ちゃんは無効かもしれないという朗報!


 黒貂(コクテン)は、雑食だけれど主食はお肉だった。つまり、弱肉強食でいうと弱者ではない。

 でも、赤ちゃんは弱いと思う。


「ぐぬぬ。(わたくし)の知識が根底から覆されそうな予感がします」

「まぁ、良いんじゃないですかぁ? モフモフに変わりはないですし」

「あっ! 見て、アレ! お母さんじゃない?」


 チャコラの呼びかけで黒貂(コクテン)の赤ちゃんがいる草むらに視線を移した。

 そこには黒い艶のあるモフモフの毛に、長い胴体をした紛れもない黒貂(コクテン)の成体がいる。


 本当に親なのかは判断がつかない。

 さすがに別の成体が、赤ちゃんを見つけたからと美味しく食べたりはしないはず……。


 胸の高鳴りに両手を握りしめる中、その成体は赤ちゃんの匂いを嗅いだあと、毛繕いをするようにペロペロと赤ちゃんを舐め始めた。

 思わず(わたくし)に注目する二人を見て、安心感から口元を押さえて笑ってしまう。


「ふふっ。問題ありません。あの行為は、黒貂(コクテン)が子供にする毛繕いです」

「つまり……親子ってことで良いのね。良かったぁ。これで一安心ね」

「あっ。母親が子供を咥えて走っていきましたよぉ」


 器用に首根っこの柔らかい部分を口に咥えた黒貂(コクテン)の母親は、こちらに気がつくことなく走り去って行く。

 暫く物陰に隠れたまま、触りたかった気持ちが溜息として漏れた。


「うぅ……。残念ですが、これで良かったのです。魔物は、人間の匂いがついたら子供でも殺すと言う話を思い出しました……」

「あー……。良くある話ですねぇ。相手は、可愛くても魔物ですし」

「残念だけど、良かったのかもね。あっ、そろそろ時間じゃない? 日が沈む前に帰ってくる約束だし」


 約二ヶ月後に控えている建国祭のため、遠出は夕刻前といわれている。

 チャコラの双子さんにもモフモフさせて頂いて、黒貂(コクテン)の赤ちゃんも拝めて、今日はとても幸せな一日になった。



 (わたくし)たちは、村の人たちに見送られて馬車が待つ、開けた場所に向かっている。


「とても楽しかったです! チャコラ、今日は有り難うございました。シャカさん、マカさんも、とても可愛かったです!」

「こちらこそ! でしょー! アタシの自慢で可愛い弟妹(ていまい)たち」

「本当に、お嬢に食べられなくて良かったですよぉ」


 ――また、不敬なことを口にするレイに目を(するど)くして睨みつけた。


 それでも、(わたくし)の睨みは全く効果がないようで、飄々(ひょうひょう)とした態度で深い笑みを浮かべている。



 馬車が見えてきたところで、(わたくし)は立ち止まった。

 それによって足を止める前方のレイと、後方のチョコラは首を傾げている。


「レイ。(わたくし)への不敬の数々は見て余りあります。よって一週間、減給します!」

「えっ……? ちょっ! お嬢ー!? それは、酷いですってぇ」

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