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第十二話 階層主は可愛くない

 ――気がつくと、目の前にはキレイな石像の姿がある。


 ぽつりと一体だけ……。


 けれど、見上げてしまう、その大きさは(わたくし)の四倍はあるかもしれない。



 大きなくちばし、コウモリのような羽根に、大きな耳と獅子(しし)の姿をした魔物にみえた。


「この姿は、もしかして……。それよりも、レイとチャコラは無事でしょうか……」


 目の前の危険よりも、二人のことが心配で後ろを振り返ると、大きな赤い扉が目に入る。


「先程の赤い光は、魔法を使ったことによる罠だったのでしょうか……」


 モフモフという平和に浸かっている(わたくし)でも、石像に近づくことは自殺行為だと分かっていた。



 天井から地面まで半分ほどあるかもしれない扉の前まで来ると、大体予想はついている行為を()えてしてみる。


「ぐぬぬ……やはり、両手で力いっぱい押しても、駄目ですか――掴めるところがないので、引くことは出来ませんね」


 これでも魔法の才能がある(わたくし)は、この扉に魔法攻撃が効かないことも把握していた。


 顎に手を当てて唸っていると、あることを思い出してパンと音を立てないように両手を合わせる。


「そうでした! これは、遺跡攻略の本に載っていましたよ。確か――一度、遺跡の階層主の拠点に入ったら、倒さない限り出られない……どういうことでしょう?」


 (わたくし)は、生まれてから一度も魔物と戦ったことがなかった。


 普通なら扉を開いたときに階層主が目を覚まして熱き戦いが始まるはず……。

 けれど、わたくしは魔法の罠によって此処にきてしまった。つまり、イレギュラーな存在!


 きっと石像に近づいて認識されるか、触れるかしたら戦いというものが始まるはず……。

 そうならないように、他の道はないかしら。



 階層主の部屋だけあって、天井は高く奥行きもある。

 部屋全体は、外と同じで白い壁に囲まれているだけじゃなくて、何かが光ってみえた。


「あれは何かしら? 宝石のような……とてもキレイ。あちらこちらで輝いているわ」


 今になって階層主の部屋が明るいことに気が付くと、その理由が壁に埋まった輝きだと知る。

 良く観察してみると、モスフルの国で採れる資源の白金(プラタ)だった。


 これは、希少金属で光り輝く性質があることで主に明かりの材料として使われている。

 それが壁一面に埋まっているのなら、白い壁に反射して部屋が光ネズミのように明るい理由も納得出来た。


「なるほど……このような形で見つかるのですね? ですが、残念ながら此処から出るための発見ではなさそうです」


 実物を見たのは初めてだったため、軽く触れてみて直ぐに後悔する。

 カチッと(かす)かな音がして、背後に突き刺さるような視線を感じて振り返った。


 ――石像の両眼が赤く光っている……。


 それと同時に扉の向こう側から走ってくる足音が二つ聞こえてきた。


「――クソッ。扉が、開かない!」

「――嘘でしょう!? まさか、階層主って――戦闘中は、入れないとか聞いたことないんだけど!」


 ――今にも動き出しそうな石像から目を離せない。

 今まで感じたことのない畏怖(いふ)と、冷たい空気に身体が小刻みに震える……。


 扉は少し厚めに出来ているのか、ハッキリとは聞こえないけれど、その声は紛れもないレイとチャコラだった。


 ――此処は、音が拾えない密室ではないということ。


 けれど声を発した瞬間、気付かれないかと不安から言葉は出てこない。

 一歩ずつ扉へ後退(あとずさ)ると、急に足をとられて尻もちをついた。


「きゃっ!」


「ルキディア様!?」

「ルキディア王女!!」


 足先にあった物は、赤い宝箱――。


 部屋の奥からガラガラと何かが砕ける音がして前を向く。石像が崩れて階層主が目覚めた音だと分かった。


 その赤い瞳に吸い込まれるように目が合った瞬間、羽ばたき音をさせて一直線に向かってくる。


「――――レイッ!」


 無我夢中で先程と同じ魔法を唱えたあと、(わたくし)は身体を縮こませて目を瞑り、とっさにレイの名前を叫んでいた。


 暗闇の中聞こえてきたのは、キーンという金属音が跳ね返る音。

 恐る恐る目を開けると、赤い宝箱の代わりに見知った背中があった。


「――ルキディア王女、ご無事ですか……!」

「――あっ……レイ……ッ……大丈夫、です! チャコラは!?」

「――アタシなら、大丈夫ー! ――に消えるから、驚いたけど――った」


 背後から聞こえてくる声に胸を撫で下ろす。

 気丈に振る舞おうとするけれど、足が震えて立てなかった……。


 レイの先には、階層主の姿がある。(よど)みのない赤い瞳に、灰色の身体。

 (わたくし)には見向きもせず、一心不乱でレイに鋭い爪で襲い掛かっている。


 ――この国の王女であり、次代の国を背負う立場なのに……恥ずかしい。



 悔しい――。


「――レイ、申し訳ございません……。足が……震えて、動けません――」

「問題ありません。俺が、貴方には指一本触れさせない――」

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