第十話 密談と行動力
チャコラという素敵な友人兼、世話係ができたことで私は、第三の実験を行うことを二人に宣言する。
「チャコラが加わってくださったことで、第三の計画を実行に移したい思います」
私たちは、城の一角にある花の庭で話をしていた。
城の周りにはいくつもの庭があって、ここは私の部屋が見える北側にある白い籠のようなガゼボ。
細かい装飾がされていて、モチーフは薔薇。所々にピンクの色がついていて可愛らしくなっている。
中に置かれたテーブルと椅子も、同じ装飾で統一されていて、以前から好んでティータイムをするほどお気に入りの場所。
そこで朝食を終えてから、ティータイムと称して計画を立てていた。これは秘密裏に行われているため、近くにメイドはいない。
そのため、ぎこちない動きでチャコラがメイドの代わりをしてくれている。
「チャコラ、ごめんなさい。これは、お仕事に入っていないのに……」
「いえ! 全然大丈夫ですよ。お茶汲みだけですし……ちょーっと、慣れなくて溢しそうですけど」
「それで、どうするんですー? あと三か月したら、建国祭ですし……そろそろ一旦モフモフ活動は休止になりますよ?」
実は、我が国モスフルは今年で50年目を迎えようとしていた。私も今年18になって成人を迎えたので、特別な年。
だから、ひと月前から準備で大変になる。
レイは去年から、この城にきて私の護衛をしているはずなのに、この国のことを良く知っていた。
なんだか悔しい……。
つまり、計画については今回で一旦終了になってしまう。
とはいえ、もうほとんどの計画は失敗に終わっているけれど……。
「寧ろ、今回で最後と言える計画……題して――モフモフに懐かれる魔導具を装備しよう、です!」
「おおー! って、そんな魔導具があるの!?」
「実は、お得意先の魔導商から聞いたんですよー。なので、お嬢に嘘はつかないでしょ」
そう。普段から城に訪れる専属の魔導商がこっそり教えてくれた話。私がモフモフを愛でていることは、一部では有名だ。そんなモフモフを触れることすらできない事実は知らない……王立学園に通う前までは、絵になるといわれたほど、専属の画家に描いてもらった絵画が、数十点と倉庫に眠っている。
昔は、城内の壁に飾られていたけれど、恥ずかしくて外してもらった。
現国王と王妃であるお父様とお母様は、中々子供に恵まれなくて、ようやく産まれたのが私……。
私で三代目となるモスフル王国、延いては国民のために大事な祭典。
「それで、その魔導具がある場所が……遺跡なのです」
「遺跡かー……当然、魔物はいるんでしょ? まぁ、レイがいれば大丈夫かぁ」
「まぁ、そうですねぇ。勿論、チャコラにも、お嬢を守るため働いてもらいますけど?」
それは、仕方がない……。
レイが前衛で、私が中心、そしてチャコラが後ろを守る陣形だ。そうでなくても、お父様が遺跡探索の許可をくれるかは賭けだけれど……。
もしかしたら、防御強化魔法が得意な魔法使いも連れていくことになるかもしれない。
「先ずは、お父様に確認をとります。二人は、先に遺跡探索の準備をしておいてください」
「了解ですっ! 一日だけなら、アタシのテイマースキルも役に立つはずだから!」
「それじゃあ、無事にお嬢が許可をもらえる前提で、遺跡探索に使えそうな魔物のテイムしてきてください」
最後にクッキーを口に含んで、うっとりしたあと二人と別れて、お父様がいる玉座の間に向かう。
朝早いこともあって、この時間に謁見する人間もいないため、お父様とお母様、衛兵たちだけしかいない。
衛兵に扉を開いてもらうと意を決して中に入る。
「――お父様、お母様、お話がございます。私……欲しい魔導具がありまして、遺跡探索の許可をいただきたいのです」
その後、私は遺跡探索をするための着替えを済ませると、二人が待つ城門に向かった。
すでに支度を済ませたレイは、普段愛用している剣とは別の小回りが利きそうな細い剣を腰に携えている。
いつもはレイの髪と同じプラチナの装飾が施され、柄の中心にもアメジストのような魔宝石が嵌っている美しい剣を愛用していた。
それだけで、レイが貴族であることは分かる。
その魔宝石は、言葉の通り魔法の石だから。それがついている剣は魔宝剣と呼ばれる。
魔宝剣の能力はさまざまで、持ち手によって変わるらしい。
私には縁がないから分からないけれど、レイが使っていたのは……身体強化だったかしら?
魔宝剣というと、通常は攻撃魔法を放つことができるのが主体で、珍しいといわれていて良く覚えている。
チャコラは、モフモフとも可愛いとも言い難いコウモリと、モフモフではないけれど、可愛らしい光ネズミを連れていた。
モフモフがいたら、半径5メートルもの距離を置かないといけなくて、大変なことになるから良いのだけれど……。
「二人共お待たせいたしました」
「無事に許可をもらえたってことでいいのかな?」
「お嬢、いつでも行けますよー」
視察の一環として許可を得ることに成功した私は、普段のボリュームあるドレスではなく、ラベンダー色を基調とした膝上ほどのワンピースに、頭を護る先が尖った帽子を被った魔法使いの装いで、二人と共に街外れにある遺跡を目指して歩きだした。