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おキツネ様は人間大好き?

(プロローグ) 


 夜の闇が宿屋の一室に静寂をもたらす。


 古びた部屋に灯りの明かりが微かに揺れ、木の香りが漂っている。


 男は窓辺で腰かけ、暗闇に浮かび上がる木の武器を手に取った。


 指先で触れる度、粗削りな感触が手を伝う。


「まあ、それなりに役立つだろう。」


 扉がゆっくりと2回、ノックされる。


 ゆっくりと扉は開かれ、メイドが部屋に入る。

 その瞳は―――

 引き寄せられていた。



「お客様、お食事は……いかがなさいますか?」


 お客様と呼ばれた男、トライは目線一つ動かさず、手に持っていた剣を上に放り投げた。

 するとメイスに形を変えた。

 それを手に取り、盾に変えたり、手遊びをしていた。


 最後に1cm四方の木のダイスに変え、手の内に納めながらつぶやいた。


「いらないかな。」


 彼の握られた左手のダイスを見つめるメイド。

 その瞳には驚きと好奇心が宿っている。


 数秒が経ち、コンは目のやり場に困りつつも続けた。


「美しい能力ですね。」


 無邪気に笑いながら男は返す。


「褒めてもらうのは悪くないな。」


 コンは微笑みを浮かべ、勇気を振り絞りながら言葉を返す。


「あの―――見せていただけないですか?」


 ---


 トライは思わず眉を寄せ、微笑みながら手の中でダイスを回す。


「例えばね、これを盾にすれば攻撃を防げるし、メイスに変えれば敵に立ち向かえるんだ。」


 コンは目を輝かせながら返す。


「それはすごいわ!もっと見せて!」


 目を輝かせるコンにトライは興味津々の表情を見せた。


 その後、様々な形に変えたダイスを使って小さなパフォーマンスを繰り広げた。

 室内の時間が静かに流れ、トライはダイスを使って立体的な芸術品を創り出すかのようなパフォーマンスを続けた。

 ダイスは細部まで精巧に変化し、トライの手元で様々な色と輝きを放っていた。

 コンはその様子に息を呑み、驚きの表情を浮かべる。


 彼は最後にダイスを再び手に戻し、微笑みながら言った。


「これが俺の力だ。お前も触ってみるか?」


 一通り姿かたちを変えたあと、ダイス状に戻った木を手のひらに乗せて、コンに差し出す。


「やっぱり素敵っ!」


 ダイスを無視して、差し出された手のひらをコンは両手で掴んだ。


「へ?」


 素っ頓狂な顔をするトライだが、コンの瞳は一直線に腕に向かっている。

 柔らかな手が、固苦しい手を掴んで、離さない。


「あの、メイドさん―――」


「手も腕も肩も胸も腹も好き!」


 まるでその体躯のどこから出てきたか分からないくらい強い力でぐいっと引っ張られるトライ。


「あぁ、もう、何すんだよ。」


 急なことでバランスを崩しそうになりつつも、なんとか立て直し、手を振り払った。


「え、あ、その……」


 コンはまごついていると、僅かな沈黙の後、こう言い放った。


「トライ様の、手も腕も肩も胸も腹も全部に一目惚れしちゃってぇっ!」


「新手の変態か?」


 だいぶ食い気味にトライが制すると、コンは分かりやすくしゅんと落ち込んた。


「大体、惚れるなら自分の元の種族に惚れるもんじゃないのか?」


「なんか、元の種族じゃ物足りないというか……人間くさい人間がいいというか……」


 人間くさい人間、という言葉でトライは何かに感づいた。


「もしやお前、前世が見えるのか?」


 振り払ったことを少し後悔しているかのごとく、少しだけ優しい口調で話しかける。


「見えますよ。前世どころか持ってる力も、その人の状態も。」


「つまり、人間から人間になった俺を最初から狙ってたということか?」


 コンは分かりやすくビクッとした。

 図星だ。


「そして、能力的に弱そうだから獲物になるかなぁとか?」


「あ、いえ決してそういうわけでは……。」


「ふぅん……。」


 興味のなさそうな声で相槌を打つ。


 コンを見ると、先程までなかったはずの耳と尻尾が生えていた。


「前世は狐か?」


「はい……。」


 目の前の()()()に逃げられて落ち込んでいる狐のように耳と尻尾でも哀しみを示している。


「……いて、来るか?」


 あまりの哀しみで声なんて聞こえていなかった。


「今、なんて……?」


「『付いてくるか?』って聞いたんだ。

 どうせ―――」


「行きます!、行かせて!!」


 耳は天井を向き、しっぽを激しく左右に振りながら、宿中にこだまするほどの声で叫んだ。


 耳鳴りがするほどの声を至近距離で聞いたトライは負けじと叫ぶ。


「うっせーわ!勘違いされんだろうが!」


 叫び返されたコンは驚き、耳と尻尾をしまってしまった。

 プロペラのように激しく回転させていた尻尾を。


「あ、はい、ゴメンナサイ。

 でも、付いて行って良いんですよね?

 パーティですよね?」


「はあ……」


 やれやれ、とトライは木片に手を伸ばす―――

 と同時にコンもダイスに手を伸ばして二人の手がコツン、と当たる。


「……狙っただろ」


 好きな人と手が当たり、浮かれているコンはそんな小さな声など聞こえていなかった―――

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