エピローグというか、そんなもの
秀美が転校してきてから約一年が経った。今、これを書いている僕は高校三年生だ。
バンド活動を始めて僕にも女の子ファンがついた。念願のモテ男になれたと言えないこともない。でも、僕はそれで調子に乗る気にすらならなかった。告白も何度かされたが、誰とも付き合わない。
秀美の黒いレスポールギターはもう僕の部屋にはない。彼女はギターアンプを買った。
あれからも朝の合気道は続けている。もう特訓というよりはジョギングみたいに体を動かすだけのものだけど、朝から気合いが入るのはとてもいい。
そしてやはり、彼女と会うのが楽しみだった。
「おはよー、ヒデキ!」
朝日を背負って、坂を登って来る秀美が手を振る。彼女はまだどんどん綺麗になっている。
秀美は校内一の人気女子の座に君臨した。しかし本人は何も変わらず、相変わらず『来るものは拒まず』の姿勢で、基本的には僕とばっかり遊んでくれている。男子から告白された回数は数知れないようだが、彼女はことごとく笑顔で断っているらしい。
坂の頂上で二人足を止めると、いつものように秀美が僕の胸に拳を当ててくる。最近、秀美はやたらと僕の体に触れてくるようになった。
肩を寄せ合い、一緒に坂を降りていく。傍から見れば恋人同士みたいに見えるだろうか。
未だに秀美に告白はしていない。
一緒にいるのが自然すぎて、そんなことは口にする必要もないように思える。
お絵描きを除いてなんでもデキる彼女といても、僕は劣等感なんて微塵も感じない。ただひたすらに彼女を尊敬している。ただひたすらに、彼女のことが好きだ。
いつか彼女に似合う男になりたいと思っている。
でもそんなことを言ったら、秀美はきっとこう言うんだろう。
「何言っちょるがじゃ。うち、そのまんまのヒデキが好きやき」
もうすぐまた夏がやってくる。
秀美と過ごす二回目の夏休みが始まる。
思えば秀美と会って、仲良くなった時から、僕は今までの自分に『ざまぁ』していたんだろう。
でも、まだだ。まだ、僕の為すべき『ざまぁ』は残っている。
この夏こそ、告白したい。
僕がもう、この気持ちを恋としか呼べなくなっていることを、彼女に教えたい。
彼女は笑ってくれるだろうか。
それともやっぱり、まだ『恋愛の好きと友達の好き』の違いがわからず、僕が告白なんかしたために、距離を取るようになってしまうのだろうか。
怖い。
でも、挑戦するんだ。
自分に『ざまぁ』したい。
今まで何度も告白しようと思いながら出来ずにいる、情けない自分に『ざまぁ』したいのだ。
もし振られたって、きっと告白したことに意味はあるのだ。
お読みいただき、ありがとうございました
↓柴野いずみ様の『ざまぁ企画』、文字制限3万字を超えてしまったので、一番最後の部分をごっそり削りました。
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「アマバンの夏フェス、楽しみやね。優勝したらプロデビューじゃ」
秀美が言う。
「絶対優勝しような!」
僕と秀美のバンド『スパハニ!』は多くのファンをもつ人気バンドになっていた。
「島田のドラムが不安要素だよな」
僕は答えた。
「アイツ、もっとしごいてうまくなって貰わないと……」
「よしっ! バンドメンバー四人で夏合宿するぜよ!」
「え〜? 四人で?」
二人だけのほうがよかったけど、僕はその時決めた。
そこで秀美に告白する!