表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
6. 青年は青空を仰いでこの先を生きていく
78/81

聖戦の後

今話から最終章で17話となります。よろしくお願いします。





俺は今蒼い空を仰いでいる。

晴れた日の昼下がり。俺はこの透き通った蒼を瞳に映して、今日も満足感を深く噛みしめていた。


かつて『聖火隊(セイヴャ)』への入隊を断られ、アガーペの塔の門前で寝転んで空を仰いでいたときとは違う。俺は自らの意思で、顔を上げて今日()空を見上げている。


あの激闘からおよそ5年と少しが経った今、俺は1300年も前に潰えてしまった神国の復興作業に取り組む一員として日々を送っていた。


リアムが死した後、狂界(きょうかい)の内側を問わず、この大陸を彷徨っていた『ゴースト』達は1匹残すことなく消失した。

無論、リアムの呪力が大気中から消えたことで『マタ』と言う病さえ、今や発症する者は誰1人もいない。


その影響か人々は安心して日常生活を送ることができ、自然と狂界(きょうかい)の先にも移住する人も増加しつつあった。


結果、増えた人達の居場所を作るためにも早急に彼らが落ち着ける場所が欲しい。そんな願いが大きくなって、村を作った。

そして村は街になって、今や亡き『ファフニル』を復興しようと言う活動が行われているのだ。


人間同士のコミュニティが出来れば争いも起きるが、それは決して殺し合いなんてものじゃない。少なからずこの街にある争いに対する牽制についてはこうだ。



「わぁ、救世主様。こんにちは」


「え? 救世主様?」


「ごきげんよう、救世主様。今日もあなたのおかげでこの街は平和です」



この通り、俺と言う存在が争いの抑止力となっている。

ここ5年間の暮らしに文句はないが、それでも毎日『救世主様』なんて呼ばれることが唯一の不満だった。


いい加減この救世主と言う肩書きをどうにかしたいが、これを払拭するのは難しい。

なんなら、まだ旧暦に生きていたリアムに、この肩書きを英雄と捻じ曲げて押し付けたいと嘆息する中、突如俺の背中がくの字に折れる。



「いよーっす、救世主サマ! ご機嫌麗しゅうこったな、調子はどうよ?」



続いて、俺の肩に腕を回された細い右腕1本が見事に絞め技を決める。

豪快に笑って華麗な絞め技を決めるのは、黒いサングラスをかけ、スリットの入った細身のドレスを着こなす妖艶な女性。


軍で磨き上げた素晴らしい絞め技を食らいつつ、俺は喉を絞めあげられながら挨拶を返す。



「ル、ルシェラさん……。今の俺はちょっと頑丈なぐらいなんですから、呪力で強化した技はちょっと荷が重いと言いますか……」


「ホラ吹くんじゃねぇよ。アタシの絞め技食らって息してられんのは、一握りの(つわもの)だけだわ」



そう返されると、俺は路上に吐き出されたガムのように地面に投げ捨てられる。


彼女はルシェラ・リアテル。

今や解体された『血濡れの剣(ブラッド)』第17部隊隊長で、現在はこの『ファフニル』復興作業地域にての統括者をしている。


かつて『血濡れの剣(ブラッド)』内部で凶暴かつ暴君と畏れられた彼女だが、唯一彼女を屈することが出来た存在——それのせいで、彼女はこうして日々救世主を揶揄う(あがめる)モンスターとなってしまった。


無論、彼女が屈した存在とは俺に他ならない。

では、まずこの5年間になにがあったか順を追って説明しよう。







ヘレ・ソフィアとの激戦の後、俺は気力1つで1人狂獄(ハーデス)を越えようとしていた。

ただでさえリアムの身体は重く、肝心の肉体の持ち主は永遠の眠りについた。


さらに火傷を負ったこの身体に『(ブラッド)』の具現化たる鎖に触れた代償で足裏は抉れてしまったのだ。


今の身体は神の御業の代償を払っていないため、まだ体力などに余力はある。だが、もはや気力の方が持たなかった。


ようやく全てが終わり、俺はこの先も生きていく。そんな現実は実際訪れれば虚しいものだった。


大事な仲間達はもういないし、先程まで肩を並べて戦った友さえもいない。

そんな空虚さだけでなく、この先も俺は歩き続けなければならないと言う神への誓いが俺の心を蝕んでいったのだ。


気力が尽き欠けて重い体を引き摺って歩いたはいいが、もう神の御業を使えない俺に狂獄(ハーデス)を越える術などない。


だが、それでも前に進むこと以外許されない身である以上、ここで足踏みなどしていられない。

と言うより、今の俺には死と言う選択肢しか残されていない。


このままここを越えずに餓死するか。

それとも、狂獄(ここ)から滑り落ちて針山に串刺しにされるか。

どちらを選ぶかなど、もはや自明と言えるだろう。


俺は慎重かつ、必死に適合してまもない体を動かして狂獄(ハーデス)を越えるべく足掻く。

ただ、この11つの谷を越えるのに俺は1日と時間を費やして、とうとう夜を迎えてしまう。


急げ、なんとしてもここを越えて見せろと足掻いた結果、俺は奇跡的に狂獄(ハーデス)を越えることが出来た。

しかし、それがどれだけ心身ともに負担をかけるものなのか語るまでもない。


結局俺は、狂獄(ハーデス)を越えてすぐに力尽きて意識を失った。

俺が再び瞼を開いた瞬間、俺の視界に映ったのは1人の少女だった。


少女は俺と目が合うと否や、すぐ様「先生!」と誰かへと声を掛ける。そして少女が誰かを呼んで1分も経たないうちに初老の男性が俺の顔を覗き込む。



「どうです、体調は?」


「えっと……ここは……」



俺は寝たきりで応対するのも悪いだろうと思い、重い体を起こす。

すると男性は、ゆっくりとここはどこなのかを俺へと語った。



「『アミシャ』……他所の人にも分かりやすく言うのであれば、狂獄(ハーデス)のすぐそばにある集落ですね。そこにある診療所です」



『アミシャ』と言う集落名を聞き、俺はつい数日前の記憶を思い返すも脳裏からこの場所がどこか思い返せなかった。


それもそうだろう。あの激戦を生き抜いたどころか、俺の意識は大体『業火の仮面』(アケーディア)によって奪われていたせいか記憶も多々抜けているところがある。


それだけでなく、今俺が生きているのはリアムの肉体を譲ってもらったからこそのこと。だから記憶の欠如が多いのはそれも影響している。


ここで初めて俺は、セイビアを離れてから今に至るまでの記憶がこのまま消失しないかと言う不安に襲われる。


確かに俺があの戦いで失ったものは少ないと言えど、それは色眼鏡を通して見た結果だ。

今までの人生を考えれば、俺は失ったものが多すぎる。


肉親全員に、今まで稼いだ大金に、仲間に友達に、そして自分の体と魂。なにより、今奇跡的にセイビアに帰れたとしても、俺に親しくしてくれた孤児や神父様達ももういない。

友人は何人かいるとは言え、彼らが今も無事か確かめようがないのだ。


ここであの苦しくも優しかった記憶を失うとなったら、俺は一体なにを支えに生きていけばいいのかと思わず発狂しそうになりかけるが、そこは気合いで抑え込む。



「見たところあなたの火傷は多少時間が経っている、なによりかなり衰弱していました。まさか狂獄(ハーデス)の先にいたのですか?」


「……はい」



俺は静かにそう答えると、医師は参ったと首を捻る。

医師曰く、火傷は大したものではないし衰弱した体も2週間も休めば元に戻るそうだ。


だが、ここには旅人1人に分け与える装備を用意するどころか、俺と言う余所者を受け入れたことでさらに物資は困窮しているとのことだ。


酷なことを聞かされはしたが、それも致し方ない。なにせここにいる人達はリアムが死んだことを知らないのだ。


ゆえに『ゴースト』を見かけなくなっても運がいいとしか思わないし、本当にリアムの呪力が大気から消え失せたことで『マタ』に罹らなくなるのか判断も出来ない。


それが奇跡ではなくリアムが死した事実を知るには、少なからず『血濡れの剣(ブラッド)』が動かなければならない。


はたしてそれは後何か月……いや、何年先かと余計なことが逡巡しかけたときだった。



この17話でいよいよ『マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~』も最後となります。

なんとか生き残ったラインバレル君ですが、よくよく考えたら生身であの狂獄を越えるのって無理ゲーなんですよね……。けど彼は頑張りました。


しかもまだこの集落に辿り着いたときは不安要素ばかりですが、それがどう青い空を仰ぐ平和な日常に繋がるのかどうかお楽しみに。



⚔78話の内容解説(活動報告)はこちらになります↓(※多々ネタバレを含んでいますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3203369/



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ