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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
5. 救世主ではなく只人として
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青年達は神を討ち、神は自身の呪縛から解かれる



ああして繰り返し人間を創り変えたりしたのは、あくまで自身の特性に引っ張られたがゆえの話。つまり、そこに悪意や害意はなかったのだ。


裏を返せば、何故俺らが憤るのかをよく理解出来ないということである。確かにこれじゃ話が成立しない。



「成程。なら、余計に俺達が祈らずとも少なからず恩恵はくれると?」


「そうとは言いません。我々に敬意を持って祈って初めて人はその施しを受けるのです。祈らぬ者や神を貶す者に慈悲は不要ですからね」


「……確かに。だから俺も祈らずにいられなかったのかな」



カゲフミに過去を清算すると約束したその後——俺はヘレ・ソフィアの“法”を模倣したが、当然あれは奇跡に等しい出来事だ。

むしろそう思い込ませるように、ヘレ・ソフィア自身が手引きをしていてもおかしくはないと思えるぐらいの奇跡だ。



「俺だけじゃない。リアムも、ソフィアも……救って欲しいから、ああやって呪力なんてものに縋った。でなくば奇跡や自分にとって都合のいい展開なんて起きないから」


「……何が言いたいのです?」



ヘレ・ソフィアは柘榴石のような瞳を細め、声を低める。

同時に、俺もいよいよ腹を決めた。


ここで1度でも言葉を間違えれば、俺は今度こそ焼き殺される。だが、最適解を出せたのなら、この自壊の術式を奴に打ち込む隙が出来る。

この意図さえ読ませないよう、俺は淡々と言葉を紡いでいく。



「先程も言いましたが、俺は未だあなたとソフィアが完全に違う存在に見えません。だから問いたい……いや、思い出してください。あなた達はなんのために戦いましたか? なんの大義があって神と邪神は、悪食の狩人と忠臣は戦い抜いたんですか? 結局、お前達の言う愛や大義ってなんなんだよ!」


「黙りなさい」



当然、俺の言葉にヘレ・ソフィアは怒りを募らせる。だが、これは想定内。

そして、彼の本音が出るまで後少しだと俺は確信したために一気に畳みかける。



「答えてくれよ、神様! 俺は散々あなたに祈りを捧げて、敬意を抱いてきた過去がある! 今もなんだかんだで俺はリアムと言う邪神を斃したじゃないか! 例え俺があなたにとって害悪でしかなくとも、分かり合えないことなんて――……」


「黙れ、不敬者ッ! たかが人の分際で(われわれ)を計ろうとするな! さっきから言っているでしょう!? あなた達はただ施しを受け取ればいい、それだけで幸福は約束される! それこそ私の務めであり、存在意義だ! ゆえにこの(ごう)に貴賤などどこにも存在しない! どこにも! ……そもそも、相互理解出来るなど悍ましい」



神は拒絶する。お前はそこから動くなと。

分かり合うなど、互いを思いやり大事にする。そんな愛しあって尊重し合う。

そんな関係を創るのが気持ち悪いとヘレ・ソフィアは言う。



「そのような愛情などいりません! ……ああ、そうとも悍ましく気持ちが悪い。何故? 何故そうも他者の心に触れたがる? 頼んでもいないのに寄り添いたがる? 結局は自身の欲を満たすためだろう?」



そう自問自答し始めるヘレ・ソフィア。

そして彼は一瞬、憤怒と恐怖を混ぜて僅かに身を震わせる。

一体なにがと考えていれば、彼の怒りが怒号となって白い荒野に轟く。



「本当に気持ち悪くて仕方ない! 我が半身(かみ)とて自身の都合で他者を陵辱する……。それを愛と謳うのも、辱めを受けたこちらの身にもなれッ! 尊厳と自我を砕かれ、身を穢されても、寄り添い触れ合うことが大事だと言うのか!? お前達は―――ッ!」



次瞬、ヘレ・ソフィアの纏う光源と断罪刃がさらに発光しては出力を強化される。と、同時に紅い鎖は自らの意思を以て俺を殺すとうねり始めた。


つまりは新暦を潰えたときのような話ではなく、例え禁忌とされていようが俺を殺すと宣告した訳だ。そして俺は、ここしかないとヘレ・ソフィアへと特攻する。

特攻と同時に、リアムが内側から声を上げた。



「来るぞ! 断罪刃数百枚と例の鎖だ。方向は全方位だが……どうする?」


「決まってるだろ、真っ向から突破だ」



およそ101年の間1秒も休まずヘレ・ソフィアと戦い続けたリアムからすれば、ヘレ・ソフィアの行動パターンは読めている。


しかし奴も今の俺の容貌を見て、俺とリアムの意識が同伴していることに気付いた可能性が高い。

だからこれだけでも生温い。むしろ本命は後にあるぞと見せつけるその戦い方(さま)に俺は真っ向から打ち破るとリアムへ提案した。



「なにせ本命とやらを防ぐ手段もなにもないんだ。だったら裏をかいても仕方ない」



むしろ裏などかけるか馬鹿と悪態を吐けば、リアムは「悪い」と苦笑する。



「まぁ、ヘレ・ソフィア(あいつ)の見えっ張りもソフィアと同じだ。観客がいなくともエンターテイメントは欠かさない。なにより奴の本命は先程展開した“法”の方だ」


俺は先程生身で食らったため、リアムの身体に転移しようが意識がその“法”の恐怖が埋め込まれている。


奴の“法”は至って単純。異様なまでの光源(エネルギー)で対象を焼き殺すものだ。

単純と言葉だけなら状況打破は簡単に見えるが、実はそうではない。


ヘレ・ソフィアの場合で言えば、あの光源は防ぎようもないし出力によっては逃げ場もない。

ゆえに火力はもちろん、威力も効果範囲も保証付きだ。ただあの光源は『連鎖(チェイン)』と『(ブラッド)』の両方の併せ技なため、断罪刃と鎖の錬成は出来ない。


しかし、それも裏を返せば細々と攻撃する必要もないと言うこと。

避ける必要もないが、避けることも不可能。ならば一点を狙って打ち破るしか方法はないのだ。



「範囲はどのくらいか読めるか?」


「どうだろうな、分からん。ただ、『ラジアータ』全体を呑み込みはするだろう。さすがに遠慮なく大陸1つを呑み込むことはしないと信じたい」


「……が、それも油断になる」


「当然だろ、こんな不確実な予測なんかで乗り越えられる程戦場は甘くない。だが狙うとするなら、俺のときと同じように心臓を狙え。頭を治すのは大分楽だぞ」


「どんな神様あるあるだよ、それ」



俺らは短い作戦会議を終えると、そのままヘレ・ソフィアが放った断罪刃の群れに飛び込む。



「——ッ、やはりか」



ヘレ・ソフィアは俺らが飛び込んだ瞬間に、予測通りだと“法”を展開すべく白い唇が微かに動く。



「よし。なら、ここからは常套手段で行こう」



リアムが上機嫌に口角を吊り上げると、俺は脚を縛ろうとした鎖を足場にして、さらに前進。そしてそのままヘレ・ソフィアの首に目掛けて手を伸ばす。


俺ならこうして次の行動に移すのにまた考えを挟むが、その余計な手間をリアムが省く。

ヘレ・ソフィアと戦った経験だけでなく、こいつはカゲフミやソフィア、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)と多くの手練れと交戦済みだ。


なら俺が半端に口を挟むよりも勝率は上がるし、俺も余計なことを考えないから丁度いい。

正直、あそこまで忌み嫌って殺し合った間柄でよくもここまで連携出来ると思うが、それはヘレ・ソフィアも全く同意見だろう。


俺の指先が喉に触れた瞬間、僅かだが奴は言葉を詰まらせて後退した。

その隙さえあれば十分と、俺はそのまま地面へと着地してリアムの肉体の欠片に籠った術式を顕現させる。



「“俺達は見るも価値なき只人”」



先程まで俺は神の“法”を扱っていたが、今このときリアムの残した術式を展開すると、リアムの抱いていた本質と混ざり始める。


リアムの呪力の特性はヘレ・ソフィアと性質はほぼ同じく、相手を呪力で塗り潰して心身共に再起不能へと陥らせるものだ。


だが、再起不能とさせられるのはせいぜい一瞬程度。当然、これでは決め手に欠けるだろう。ゆえに後もう一手が必要となる。

その一手は無論俺に委ねられているが、それでもまだ足りない。



「“暗い海を渡り歩き、苦痛を啜り、ただ1つの幸福を求めて歩き続ける”」



左手に握ったままの黒い石ころは、巨大な槍へと姿を変えて呪力を膨張させていく。



「——ッ、それはリアムの干渉による『滅殺(エローシオー)』か!」



どうやらヘレ・ソフィアはこの術式がなんなのかを思い出したらしい。

この黒い槍はリアムの呪力の塊であり、神を討とうとした唯一の武器だ。


リアムは過去、『ゴースト』を取り込んだことで得た干渉能力に制限をなくした。

その制限がなくなった今、リアムの呪力は神の“法”や呪力だろうが、どんなものに対しても反転及び相殺させる効果へと変質している。


先程俺がヘレ・ソフィアを地上へ墜としたのも、そもそも天界など人が入り込めない領域に足を踏み入れられたのはこの反転による属性相殺のおかげだ。

そしてこの属性反転を利用し、一時的にヘレ・ソフィアを人へと墜とす。



「“助かり(すくわれ)たいのは当然の願い、しかしそれらは無慈悲に踏み潰される”」



ただこの『滅殺(エローシオー)』は1度きりしか使えない。


と言うのも、過去にリアムが『原初の災厄』(ファースト・スカージ)を喰ったことで、奴の攻撃に転じるときの呪力解放の方法がその肉体に刻まれたことを植え付けてしまったから。

だが、おかげで威力の保証はあるし、こうして神を封じる鉾となる。



「“それでも俺達が生きるのに理由はない、なくともいい”」



俺は干渉能力を限界まで高め、ヘレ・ソフィアの心臓へと狙いを定める。



「“だから俺達の抗いよ、聖戦の終わ(再誕せよ)りとなれ”——“『愛』(The)ここに(end)あり(of)尽きず、 享受す(the)意味を知れ(tragedy)”ッ!」




詠唱と共に解放した全力の滅殺の力は、今や邪神のものとは少々性質が違うため、神を殺すのではなく、一時的に人の身まで墜とすことしか出来ない。


だが、それこそが目の前にいる神には有効的だと俺達は理解している。

神として偏屈な理由が付きまとうのならば、一旦それを引き剥がしてしまえばいい。


慣れ合いと愛を知らぬ哀れな神へ、一縷の希望を教えるがためだけに。

非情に烏滸がましい行為ではあるが、それでもなお彼に本当の願いを引き出すことが人間にとって一矢報いる方法ならば迷わない。


無論、“法”を展開する暇がないゆえに自動的に断罪刃と鎖が迫って来るがこの展開も既に織り込み済み。


ヘレ・ソフィアの特性を書き換えるのに集中しているリアムに危害を加えさせまいと、今度は俺がリアムへと力を貸す番だ。


放たれた黒い槍の先に蒼穹(あおいろ)が纏い、ヘレ・ソフィアの放った攻撃全てを機能停止へと追い込む。



「魂が焼き切れていなかった……? いや、予め掠め取っておいたものを“法”へと変えたのか!」


「ご名答。本当にこれが最後の俺に出来ることです」



俺が肉体を焼かれ、魂も焼かれて“法”だけが放りだされたあの一瞬、リアムが俺を自身の肉体へと匿って俺の“法”を掠め取った。


だが俺自身に寿命はなく、それは既に亡きリアムも同じこと。だからこそ残った俺の“法”など寿命で言えば数日程度に過ぎない。


その僅か数日の寿命だけでも、一瞬であれば神の“法”を機能停止出来ると俺とリアムは理解していたからこそ、この方法に賭けた。

そして、展開された俺の“法”はヘレ・ソフィアの“法”を機能停止に陥らせる。


ゆえに、もう彼は逃げられない。



「「貫けぇえええ――—ッ!」」



俺とリアムが猛り声を上げたその刹那、ヘレ・ソフィアの心臓が黒い槍に射貫かれる。そして、人間へと成り下がった彼を穿ったのは心臓ではない。


彼を穿ったのは、彼を縛って止まないその特性。“繁栄”と言う呪縛に他ならなかった。



はい。憎き外道ヘレ・ソフィアに一矢報いてやりました。やったね!

にしても、割とこの2人はパワープレイを好むというか、ラインバレル君が脳筋すぎるのでリアム君も大変ですね。君も脳筋なのに。


そして詠唱とタイトルはすごい悩みましたね……。毎度のことです。

タイトルについては「神殺し」とでも付けようかと思ったけど、なんか……ああ、はい。


後、地味にヘレ・ソフィアは自身の半身であるセーナにトラウマ植え付けられてますね。これも彼の愛情を拒む理由の1つでは……?



⚔76話の内容解説(活動報告)はこちらになります↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧するのを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3198207/




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