表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
5. 救世主ではなく只人として
70/81

再戦



それからは呪力による戦いではなく、もはや意地のぶつかり合いだった。


狂乱したリアムは相変わらず呪力で戦うも、明らかに先程の戦闘スタイルとはうって変わっている。

相変わらず複数体での顎を用いているものの、それは自身の隙が出来たときの保険へとなっていた。


俺がリアムの一刀を捌ききれずに体勢を崩せば、足元から顎が食い掛るが、俺はそれを“法”を纏った足で踏み潰す。


そして顎が機能停止に陥った瞬間、リアムは顎を自身の体から切り離そうとするが、俺はそうさせまいと“法”の出力を強化。

そうして食らいつくことで、機能停止に陥った箇所を徐々に広げていくのだ。


よって、リアムの機能停止と俺の寿命のタイムリミットは時間の問題と言えた。


戦闘スタイルは変わったものの、未だ状況は先程劣勢だった頃とそう大差ない。

だが、リアムが自身の技巧で戦うと決めたのなら話はもっと単純だ。


圧倒的出力さに押し潰される可能性が大分減ったのだから、後は俺も今まで研鑽してきた技巧1つで奴を斃せばいい。


言葉にすれば単純だが、だからと言って太刀の使い方に慣れたリアムを制すには1度のミスも許されないのだ。

本来なら向こうの方が不利とは言え、ナイフの軌道1つにせよ、呼吸やタイミングなど、どれか1つでも判断を間違えれば、即座に俺は黒い顎に喰い千切られるか、体のどこかしらが飛ぶ。


直後、黒い顎は俺を挟み込み上下から俺を喰おうとするが、俺は横へ飛ぶことでなんとか回避。

一瞬、臓器の1つさえ残さず喰われた自身を想像して背筋に冷や汗が伝うが、すぐさま呼吸を整えて再度リアムの懐へと切り込む。

そうして、刃を合わせて数十合。今度は間合いを崩されたリアムが飛びのいて後退する。



「くそ……ッ、この気狂いが……!」


「ああ、こちとら狂ってないとお前の相手なんて出来ないんだよ」



未だ戦闘を再開して20分も経っていないが、リアムが疲弊していることは苦渋を漏らす声音から容易に感じ取れる。

無論、肉体的意味ではなく精神的な意味で。


そもそも、戦闘経験がほぼない俺が何故リアムにここまで食いつけるのかと言うと、それは単純にリアムが俺へ抱いた恐怖が要因だろう。


俺はリアムと戦い始めてから身を削っていたものの、戦闘を再開してから俺はさらに命を捨てた特攻を続けている。

ただでさえリアムからすれば、自ら命を捨てる行為など恐ろしいのに、それを喜んでやっている(やつ)など見れば当然恐怖は増す。


だが、奴は逃げられない。

マナの亡骸を壊した怒りと、彼女と自分の楽園をこれ以上荒らさないためにも。

かつて自身の全てを無くす元凶となったときと同じように、自分のちっぽけな意地を守るためだけに。


これでは、先程断罪者(じぶんじしん)と戦っていたときとそう大差ないと言える。

それもまぁ、俺らのようなどうしようもない馬鹿相手なら仕方ないと、何十も駆け巡る思考を踏み込みへと変えてリアムの隙を突く。


しかし、あいつは懲りもなく呪力で編んだ顎で俺を呑み込むと言った保険頼りの攻撃へと転じる。

同時に、俺は喉が裂けんばかりの勢いでリアムへ向けてこう叫んだ。



「そうやって後天的に得た力に溺れるな! 俺を殺すと決めたのなら喰うんじゃなくて、その手で殺せ! それが()()()()だっただろうが!」



そう、お前は元々その太刀ありきで戦っていただろうと糾弾すれば、リアムの悲痛な叫びがそれを一刀両断する。



「たかが記憶の一部を見ただけで俺を語るな! お前が俺を真に理解することはない! 俺を理解しているのは、この世で彼女1人だけだッ!」


「いいや! その彼女とやらもお前を理解していなかったからこそ、あの悲劇は起きたんだ! いい加減、その妄念から離れろ!」



俺達は、平行して言葉をぶつけ合いながら刃を交える。

姑息な手段だが、リアムが精神的疲弊でここまで弱るのであれば力押しで破るより断然効率が良いだろう。


ただ、俺は自身が助かりたいからだとか、楽をしたいからと言う理由でこうもリアムに言葉を投げかけている訳ではない。


リアムは俺が暴走していたときから俺になにかを伝えようとしていた。

今ではなんとなく検討がつくが、悲しいことに奴自身、何故あんなことを口にしたのか自分自身が理解出来ていないのだ。


それどころか自身の人生に答えはなく、ただ延々と死への憧憬と不死の身体を引き摺って生きて絶望を抱えるその姿を俺は見ていられなかった。

だからこそ、ここで俺が奴の辿り着きたい答えへ導いてやると決めたのだ。


1度判断を間違えたら即死と言う過酷な状況で、頭も回すなど堪ったものじゃないが、それでも俺は奴を救うと誓った。

なら、と俺はさらに喉奥から言葉を絞り込もうとするが、リアムもまた泣き叫ぶように俺へと怒声を浴びせる。



「妄念じゃない、これが事実だ! 俺は彼女を愛していたし、あの墓での一件で俺は彼女の想いを知り、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)から彼女の本音を明かされた! 結局、惨たらしい俺を理解しているのはお前でも『原初の災厄』(ファースト・スカージ)でもなく、俺を憎んでいたマナだった! それに違いなどどこにある!?」


「確かにそれは事実だ。だが、お前の抱く妄念はそれじゃないんだ! 誰がお前を許さないといつ言った!?」




そうだ。例え『原初の災厄』(ファースト・スカージ)がマナとリアムを嘲笑って2人の仲を引き裂き、事実マナの死を通して、彼女がリアムを恨んでいたことを知ってもだ。


本当に彼女がリアムを憎んでいただけなら、あの霊碑街での戦いで彼女はリアムを救うことなどしなかった。


それに例えマナの残滓がリアムを救ったとは言え、マナであることに変わりはないのだ。

なにしろ、彼女がリアムの中で訴え続けている悲痛な願いを俺は知っているがゆえに、諦めきれない。



「もう彼女はお前に安らかに眠って欲しいと願っているし、だからこそお前の中でずっとお前の帰りを待ってるんだよ! だからとっととこんな地獄なんて手放せ! お前は元々は人間だろう!?」



ナイフと太刀の()を合わせるたびに響く剣戟音が耳を劈く中、徐々に間合いは崩れて、俺を優勢に立たせていく。

だが、そこは腐っても経験値の差と言うべきか、リアムは自身が不利なのを察すれば間合いを計るも、徐々に逃げ腰になり始めた。



「ああ、俺は人間だったさ! だが、もう帰れないし戻れない! ヘレ・ソフィアと俺自身の後悔のせいで、もう俺と言う存在自体が邪神として縛っているだけだ! なぁ、どうしたら俺は死ねる!? どうしたら終われるかなんて1300年もの間答えは出なかったんだよ!」



自身を殺す唯一の方法を求めるが、それについては既に答えは出ている。

ただ、この悲痛な叫びは逆にリアムの抵抗と闘争心に火を点けたのか、再び俺を殺すと的確に急所を狙い始めた。


挙句には力押しでどうにかするつもりなのか、手首から相当な衝撃を感じる。

このままでは拙いと思うが、不利な状況に立たされても本音を訴えることだけは止めやしなかった。



「だから、その邪神としての力を捨てろって言ってんだよ! いつまでも不必要な力に縋りやがって、その化け物染みた不純物を取り除くこっちの身にもなれ!」


「つまりお前が俺を人間に戻すとでも? 馬鹿抜かせ! そんなこと、仮初の救世主(はんぱもの)などに出来る訳がないだろうが!」



この間に合わせた攻撃は12合。

13度刃を打ち合わせると、リアムの力押しで俺は後方へ飛ばされる。しかし、それでも何度も奴へと特攻すれば黒い顎が前方から迫ってきた。


未だ奴は逃げ続ける気かと俺は確信し、ならばと奴の望み通りに、俺が奴を人間へ戻してやると俺は“法”を矢に変えて放つ。



「な……ッ!」



瞬間、リアムは矢を視認すると同時に身を捩る。

そのため第1度は交わされたが、矢はそのままリアムの心臓部を追尾する。



「これは、さっきの黒髪の男の――」


「ああ! 俺の親友のとっておきだよ、使い方はしっかり学んでおいたからな!」



と、最期の最期でカゲフミは俺の悔恨を引き出したと同時に、俺の中にこんな置き土産さえもしていた。


相変わらず心配性……と言うよりも、戦闘面においてはどこまでも彼に信用されていないのが悔しい他ないが、今は恥を忍んでそれさえ武器に変えてみせる。


高速で追尾する矢は黒い顎に喰われてもなお、その形を保っている。

根絶という性質こそないが、俺の“法”が生きている以上、機能停止は避けられない。だからこそこの矢が奴の心臓を穿つのは時間の問題だ。



「そうやって1つのことだけ考えられないから、こうやって接近を許す……なんて元軍人にあるまじき行為だな」



俺はリアムが矢を剣で矢を叩き切ると同時に放った一刃を、ナイフの柄を利用して防ぐ。そしてリアムを追尾していた矢はリアムの心臓へと刺さる。


その刹那、俺は矢に込めた“法”の出力を上昇させて奴の心臓を機能停止へと陥らせる。

心臓が止まれば呪力のみならず、やがて脳や神経の信号さえ止まるだろう。


そこらの調整は済んでいるため、“法”が展開されて3秒にも満たないうちに心臓だけでなく五臓六腑や神経全て機能停止へと至る。


こうなってしまえば、先程リアムの内側から脊髄と脳を壊したのを修復すると言った器用さに呪力は振れない。

だが、リアムもリアムで最悪の事態は想定済みなのか、呪力で“法”を相殺して心臓の機能停止のみに止めた。


挙句、動かない心臓をさらに修復すべく俺の“法”を呪力量だけで押し切る。

とは言え、奴はその代償に自身の不死性を捨てなければならない。


リアムの心臓からナイフを抜いた瞬間に纏っていた黒衣は心臓へと吸い込まれて、再度心臓が元通りに修復される。



今回はリアム君とラインバレル君の本心を掘り下げつつ、リアム君の葛藤がメインの回でした。

ラインバレル君は宣告通り、リアム君を救うことに全てを懸けていますが、一方リアム君は中々それが受け入れられないご様子……。


ただいくらリアム君に干渉能力があろうが、ここまで狂乱してしまえば後はなんとか押し込めます。多分。

次回で15話は終了となりますが、はたしてこの2人の戦いの結末は如何に―――!



⚔70話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3185880/




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ