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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
1. 青年は戦う為だけに全てを業火に焼べる
7/81

洗礼前の胸騒ぎ

ここから第2話になります、よろしくお願いします。



呪力を超常の異能へと変換する術は、旧暦の頃から存在したと言う。

元々、呪力を戦う力へと変換()えたのは幾つかの呪術師だとある古書に記録されていた。

彼らは正しく呼称の通り、呪力を利用して戦う術を手にしている。


だが呪術師達も一枚岩とはいかず、彼らは自身の覇権を争った結果、キクキョウ家が呪術師の頂点に立った。

一方で、この呪術師の覇権争いに敗れた者の中には市井へと下った者もいた。

結果、その市井に下った呪術師達が後々市井の人間に、呪力を用いて人間が戦う術を授けることとなる。


一説によれば、『聖火隊(セイヴャ)』の中でも歴戦の猛者達に上げられる家系を辿れば、大体最後は呪術師へと辿り着くとの説もある。


なんにせよ、呪術師間による紆余曲折があったからこそ、この世界に呪いと言う存在と呪いを用いての戦い方は広まったという訳だ。


――と言う裏事情を、俺は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんから聞かされていた。

俺は世界の裏に隠された事実を聞かされて唖然とするばかりだが、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは淡々と世界の真実を語る。

この人を信用していいのか未だに疑わしいと俺の本能が告げるが、俺は心のどこかで彼を信用していた。


なにせ、彼がリアムを憎いと語ったのは本音だ。

一体リアムと『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんの間になにがあったのか詳細は聞けなかった。だがそれでも、彼もまた次代『ゴースト』の祖であるリアムを討つとどこか恨み半ばで俺へと世界の裏事情を話していたのだ。


ならば、ここまで心強い味方などいないだろう――なんて彼の心強さを世界の裏側と共に反芻し、俺は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんと共に自宅で旅支度をしていた。


『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんと再会した後、俺は彼にすぐ旅支度をしろといわれたが、俺は一旦待って欲しいと頼みこんだ。


なにせリアムを討つのであれば、奴がいる『ラジアータ』まで足を運ばなければならない。

『ラジアータ』はこの世の最果てと世間では囁かれているが、実はそうでないと『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは語った。


『ラジアータ』は、ここから数百キロ離れた都市・オリベを超え、『狂界(きょうかい)』という門を潜る。さらにミシッピと呼ばれる都市を超え、ミシッピの鼻先にある狂獄(きょうごく)——通称・ハーデスを超える必要があるとのこと。


つまり1日や1週間そこらまで行ける距離ではないし、どれだけ急いだとしても数ヶ月はかかるのだ。

その間、仕事を休む訳にはいかないし、なにより今から俺がしようとしていることは自身の命を懸けての復讐劇だ。

もはや生き残れる可能性も低い中で、親しい人に別れも告げられぬまま逝くのは悲しい。


だから、丸1日かけて俺は職場や教会へと挨拶を済ませた翌日である今、こうしていそいそと旅支度をしている訳だ。

教会の孤児達には散々泣かれ、職場の同僚も寂しいと眉を下げて苦笑していたが、俺はこれからなにをするかは誰にも告げていない。


もし、真実を話すものならきっと誰もが俺を止めるからだ。

なにせ俺はこの周辺じゃ、呪力のない男として認知されている。当然孤児達も職場の同僚も、この事実を知っている。


唯一司祭様には真実を話したが、司祭様は笑顔で見送ってくれた。

まるで、黄泉を下る者を見送る番人のように。

お前に出来るはずがない、お前ならば出来るといった期待の意を込めて。


結局俺が何故そんな期待をかけられたかも謎だが、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんもまた戦うことにおいては気にしなくていいと励ましてくれた。



「なぁに、戦うとなったら儂がどうにかしてやろう。作戦は既に立ててあるのだからな」


「作戦ですか。一体どんな?」



俺は旅支度を終え、もうこの街を出て行けると『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんに伝えれば彼は俺へとこれから向かう先を告げる。



「まぁ、まずは()()といこう。これがなくば始まらないのでな」







洗礼と言われて最初に向かったのは、なんとアガーペの塔の下に位置する『聖火隊(セイヴャ)』の訓練場であった。


俺は思わず面食らった訳だが、何故か『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはここへわざわざ忍びこんだ。

俺は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんに止めて欲しいと何度も何度も懇願したが、彼はヴァンタールを罰していたときのような愉悦に浸った笑みしか寄越さず。



「構うな、構うな。それともなんだ? 儂はここではなく、お前が足を運んでいた教会で洗礼をしてやってもいいのだぞ? ん?」



そう言って俺へと顔を近づける『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんだが、俺はここでいよいよあることを確信する。


この人は、人間としてヤバい部類の人間だと。

風貌が幼い少年ゆえに純朴さを感じられるが、翡翠色の大きな瞳にはいつも残虐さが混じっている。


こいつはどうしてやれば、痛い目に遭うだろう?

こいつに痛い目を遭わせたら、自分はどう愉しめるだろうか?

そんな不愉快な残酷さしかそこになく、正直さすがの俺も彼の残虐性や趣味趣向については擁護しきれない。


だからこそリアムの話を聞いたとき、俺が『原初の災厄』(この人)に求められたのを承諾した自分が恨めしくて仕方ない。


本来ならこのまま約束を反故にするなり、「あなたには付き合い切れない」とでもいって今すぐこの場を立ち去れるのが賢明だ。


しかしそうさせてくれないのは、やはり彼が言っていたリアムという男の存在とこの世界に隠されているであろう真実を知りたいからだ。


恐らくだが、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはリアムという男の詳細だけでなく、この世界における裏側の事情さえ知っていると俺は予測している。


例えば、呪術師の系譜や踏み込んでしまえば、『聖火隊(セイヴャ)』の内情などこの世の全てが見透けてみえると翡翠色の瞳が俺に強く訴えかけた。

だからこそ、俺の気持ちは逸ってしまう。


家族の無念を晴らせ。

いつか父さんが説いたように、『正しき人間』であれ。

“みんな”に幸せになってもらいたいからこそ、勇気を振り絞ってこの身を粉にしろ。


そんな数多の思考だけが俺の脳内に渦巻くから、俺はときどき自分が嫌になる。

父さんはかつて、幼い俺にこう聞いてきた。



「ライ。『正しき人間』って、どんな人そもそもどんな人だと思う?」



俺は父さんへこう返す。そもそも『正しき人間』とはなにかと。

父さんは言う、『正しき人間』とは人間のあるべき姿なのだと。


世の中はこんなにも醜いから、せめて誰かが他人に優しくしないと、誰もがいがみ合ってしまう。

そんなのは非情だ、残酷だ、可哀そうだ。

だからせめて、ほんの少しでも他人に優しく出来る存在――それこそが『正しき人間』。



「なら、『正しい』とかは別に、ちょっとでも他人に優しくあればいいだけじゃないか」



そう、本来ならそれだけでいい話なのだ。

しかし、父さんはそうではないと首を横に振る。



「……でも、それだけで人は生きてはいけないんだ。だから、きっと誰かがみんなを救ってあげないと」



そういって父さんが悲しげに俯くのは、父さんの癖だった。

だから俺は子供なりに親を気にかけてしまうし、人間だからこそ親しい人間の秘密を暴いてしまいたくなる。そして無知なりにも『正しき人間』の意味を知ってしまう。


多分、ここで父の秘密を――『正しき人間』とは如何なるものかを教えてもらわなければ、俺はまだ人並みに憎しみという感情が持てたかもしれない。


しかし、それで問題ないのだと、俺のある一面が俺の精神を落ち着かせていく。

そう、俺は救わなければならない。仇を討たなければならない。

両親の無念を、姉の尊厳を守り、そしていつかは“みんな”を救えるように。


俺の行動基準などそれで構わないと心を落ち着かせた瞬間、俺は悲鳴を喉に詰まらせる。

なんと、アガーペの塔の麓にある訓練場に忍び込んだ瞬間、ここら周辺を巡回中の兵士と鉢合わせしてしまったからだ。


全くこの可能性を考えなかった訳ではないし、むしろ1番厄介な問題こそこれゆえに、俺は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんを止めていたのだ。

だが、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは爽やかな笑顔を鉢合わせした兵士へと向ける。



「おう、ご苦労。さーて、『聖火隊(セイヴャ)』の一兵卒よ。儂の話を聞いているかな?」



『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんが口元を歪ませた瞬間、巡回中の兵士は脱兎の如く、この場から逃げ去る。

……まぁ、そうだろう。俺でも逃げると思う。すみませんと胸の内で俺はあの兵士へと謝罪を述べた。



皆様こんばんは、織坂一です。

今回から第2話になりますが、しばらくこの『正しき人間』の論争は続きます。


これはあのプロローグの前でして、この2話は『正しき人間』とは如何なる存在なのか、後は世界設定の一部を開示しています。

少々ややこしく長くなるので、活動報告で少し解説はしていますが……まぁラインバレル君はこの固定観念に人生を狂わされたと思っていただければそれで大丈夫かと。



⚔第7話の振り返り(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれるのでご注意下さい※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3116362/



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