邪神ではなくリアムという男の胸の内
俺は誰よりも、なによりも、自分自身が憎かった。
訳の分からない妄執に憑りつかれ、自身達を英雄の末裔だと騙った祖父達も。
母や兄、姉を平然と見捨てて、勝手に死んでいった親父も。
そして命からがらに辿り着いたあの村で、俺を散々虐げてきた村の人間も。
なにより、俺の温かい日常を壊す原因となった『原初の災厄』や、奴の立てた計画に手を貸したソフィアも含めて。
だけれども、あの悲劇さえ俺があんな愚かな選択をしなければ起こることはなかった。
俺はただ村人達に馬鹿にされたから、彼らを見返して、今度こそは自分の価値を立証したくて兵役に従った。
結果、マナを悲しませて彼女を殺し、世界の終焉を招いた。
もはやこれは、自業自得と言えるものだろう。
俺があのとき、英雄なんて妄執に縋らなければ、俺が自身の価値に満足していればそれで良かっただけの話。
俺の価値は隣にいるマナだけが知っていれば良かった。けれども現実はそうじゃなかった。
悲しいことに、人間とは承認欲求を備えている生き物だ。
例えどれだけ満たされていようが、誰かが俺の価値を分かっていたとして、それで満足出来るほど欲は浅くない。
ましてや俺のような、劣等感の塊であるならばなおさらのこと。ああ、いやそうじゃない。
劣等感の塊がどうこうの前に、俺が欲をかかなければよかっただけの話。
そしてそれを死の間際で後悔したところで、全てが遅すぎた。
あれだけ辛い思いをして戦い抜いて――でも、結果はあのザマ。
なにより俺が死に首を刈り取られる刹那に祈ったのは、現実では叶わなかったマナとの幸せな日々。
もう俺は2度と欲はかきませんと、いもしない神に俺は慈悲を乞う。
2度と欲をかかない代わりに、マナを返してください。
マナと過ごせなかった平穏な日々を下さい。
例え彼女が俺を愛していなくともいい、必死に闘い抜いた対価を下さい。
そう、ただそれだけのこと。
死ぬ間際に欲をかいて、無様に祈った結果こそ新暦以降の悲劇となった。
俺はいつだって自分のことしか考えておらず、そのせいで何億もの人間を苦しめてきた。
いや、何億なんてものじゃない。
新暦や改暦の件も含めれば、何十億、何百億人もの命を俺は奪っている。
俺は見るに堪えない鬼畜外道。
血の海を渡り歩き、悪意と絶望を食っては肥え太る獣そのもの。
だからか、俺は自身とよく似た存在については酷く嫌悪する。
と言うことを自覚したのは、1300年ぶりに目覚めたその瞬間。あのとき断罪者と成る器が形成され始めたときのこと。
この世界で唯一の“罪業”と言う“法”の仕手——ラインバレル・ルテーシアを認識した瞬間、俺は全身に怖気が走った。
おかげでその不快さで目が覚めたものの、本当にこいつはどうしようもない人間だと思ったのだ。
俺がずっと夢見ていた追想。
たった1人の現実世界で泣き喚くだけの俺に、あいつはこう怒声を飛ばしてきた。
「後悔するぐらいなら、最初から選ぶなッ! 一生そこで蹲ってろ!」
あの一言で、俺はようやく悪夢から目を覚ます。
あいつが口にしたのは、恐らく自分自身への嚇怒。だが、それは俺も俺自身に向けたい言葉だった。
1300年も災禍を振り撒いて、現実から目を逸らして温かい夢を見ようとした俺に対しての半端に芽生えた罪の意識。
俺と言う外道が何億人の呪力を全身に浴びて昏睡状態に陥った際、希ったもう1つの願い。
何億人からの罵声と怨嗟の声を浴びて、思い返した原点——それこそ、俺は死すべき存在であることへの自覚。
それを知った瞬間、俺は思わず泣いてしまった。
だがラインバレルはそんなこともお構いなしに、俺に後悔をするならそこで腐っていろと言った。
別に同情や勇気づけて欲しかった訳ではないが、これがある種の契機だ。
こいつは恐らく、俺と同じ人間だ。
自分をこれでもかと憎み、死して当然だと思ってやまない。
そしてなにより、自身が死に値すべきだと言っておきながら、生きる自由を下さいと縋る厚顔無恥な男なのだ。
だから俺はラインバレルが嫌いであったし、なんなら殺してやろうと思った。
だがどうしてか俺の中でなにかが働いて、それらはラインバレルが次々新しい一面を見せるにつれて落ち着けと俺を諭してくる。
ただ、それでも俺のラインバレルに対しての憎悪は消えない。
どうしてお前は笑っていられる? 誰かを守ると胸を張っていられる?
お前はどうせ俺と同じで力に溺れただけの、なにも出来ない人間のくせに。
希望に縋らないと、立ち上がる気力さえ湧いてこない弱虫のくせに。
そんな腐った存在が、邪神を殺すだと? 冗談も休み休みに言えと何度思ったことか。
「ならば、俺もお前を殺してやる」
そう噛みつくのも当然のことだろう。だって、俺は俺が許せないのだから。
無論、俺に似ている人間に対しても同じだ。お前のような害悪がいるからこそこの世に不幸と災禍は蔓延る。
なのに、俺はこうも願ってもいた。
俺は俺で勝手に1人で蹲っているから、ラインバレルだけはこちらに来るなと。
なにより、かつての俺と同じく窮地に立たされるこいつを見て、胸を痛める自分もいる。
だが、これはきっと傷付いた過去の自分への自慰行為に過ぎない。
だって、あのときの俺を止めてくれる人間なんて誰1人としていなかったから。
むしろ俺の憎悪を燃やすべく、油を注いだ害悪ばかりだった。
俺は早々に断罪者と言う存在の本質を見抜いていたからこそ、完成したのならばこの手で終わらせてやりたかった。
それは今や、不死身と化した俺を慰める善意の押し付け。
お前は周囲の人間に恵まれていると言う羨望もまた、ラインバレルを遠ざけて憐憫を抱く要因となったのだ。
だから悔しいことこの上ない。
俺と同種の人間のはずなのに、どうしてこれだけ俺の欲しかったものを次々とこいつは手に入れるのか。
許せない、許せない許せない許せない。いいや、もう分からない。
同種の人間だと勝手に決めつけて、勝手に殺すと喚いて、勝手に同情して勝手に羨んで……結果、今こうして俺はラインバレルと相対している。
一体俺はなにがしたかったのか、もはやその答えは俺自身が出すことなど不可能だろう。
ゆえに、俺はラインバレルから答えを聞かなければならない。そうでなければ、全て納得がいかないまま俺はまた何千年と生きるのだ。
マナが手を貸した屈辱も、内側から肉を裂かれて、脊髄どころか脳にまで損傷を負った痛みなど今はどうでもいい。
ただただ、どうか真実を聞かせてくれと俺は自分へよく似た存在へ――いや、救世主を騙るラインバレルへと吼う。
泣き声交じりの情けない救済の声は、今やこの赤い荒野に虚しく反響するだけだった。
はい。ここでリアム君の今まであった矛盾を解決すべくのアンサー回です。
リアム君は色々矛盾した行為を取っていましたが、その一部はマナの意志によるものです。
しかし、マナが促したものの他にも、リアム君自身こう思ってたんだよ~と言うのを一応追加しておきました。
ただ、リアム君自身まだ分からない部分も多いので、それについてはこの後のラインバレル君との戦いで明かされます。
⚔69話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)
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