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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
4. 青年は迷いと憂いを捨て■■■へと至る
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『救世主』としてでなくラインバレル・ルテーシアが手を差し伸ばした存在とは誰か



俺が『原初の災厄』(ファースト・スカージ)に勝てないと言う予測は、リアムが見せた過去の記憶を見た瞬間に既に立っていた。


正直、奴が弱った原因になったのはマナと言う少女が産んだ『ゴースト』が『原初の災厄』(やつ)を召喚する触媒となったからだ。


だからこそ、『ゴースト』に対して破格の干渉能力を持ち合わせるリアムは奴にとって天敵だった。それだけなのだ。


ゆえに、あのときリアム以外の誰かが『原初の災厄』(ファースト・スカージ)と戦っていたのなら、旧暦と言う時代は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の手で幕を引かれていたことだろう。


そうすれば、この世界の歴史ごと変わっていたはずだ。だが今世界はこうなってしまった。

邪神が荒れ狂い、無惨に新暦と言う時代は神に踏み潰され、挙句は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の手によって倫理が歪められた。


その過ちをヘレ・ソフィアは贖いたいのだと一瞬思ったが、そんなのは俺の勘違いに過ぎなかった。

この人から救世主と呼ばれた瞬間、俺はこの人にとって『原初の災厄』(ファースト・スカージ)もリアムもどうでもいい存在であったことを理解する。


彼は非人道的な手段で人間を産んだものの、心の底から人間を愛している。

そしてそれを自身の手で管理することこそが人生の喜びであるために、人間に様々なものを施してきた。


だが、それも所詮は上辺でしかない。

結局この人が人類に求めていたのは自身と同じく“法”を持つ異端者の誕生であり、たまたま俺がその素質を秘めていただけのこと。


結果、この人は邪魔であった『原初の災厄』(ファースト・スカージ)を殺し、まだリアムから俺を遠ざけている。正直、こんな茶番はもう――



「ええ。だからこそ、私はあなたを私の眷属として出迎え、今度こそリアムを討つ。無論、力添えはしますよ。ならあなたのすべきことはなにか……お分かりですね?」


「いや、知りませんよ。俺はただの一般人なので」


「は?」



ヘレ・ソフィアは俺に期待を抱いていたが、予想外の返答に唖然とする。

なにを馬鹿なとその柘榴色の瞳が訴えているが、本当に俺として全てを救うことなどどうでもいいのだ。だから俺は投げやり気味にこう返す。



「そもそも、俺の戦う理由はある種の責任転嫁だったんですよ。ヨセフを殴れなかった、だから姉さんは絶望して死んだ……その後悔に色々肉付けしてね。だからそもそも戦う理由も資格もどこにもないんですよ」


「そんな……」



ヘレ・ソフィアは今の俺の言葉を嘘だと疑っているが、そもそもヘレ・ソフィアが見ているのは昔の俺であって今の俺ではない。


勝手な後悔だけ引き摺って、色んな人を悲しませた挙句に、仲間や友人さえ殺してしまったあの俺だけをまだ柘榴色の瞳に映している。



「そもそも、さっきまでの俺だったら『原初の災厄』(ファースト・スカージ)を斃せる方法はなかったですし、現に奴はあなたが仕留めたようなもの……。そして俺は過去を全て精算させた。だから――」


「戦う理由はもうないと? その力を他者のために使うつもりはないと?」


「そういうことです。もう俺に戦う理由はありませんが、それでもこの力を使うならある奴だけに限定させて下さい」


「奴?」



ヘレ・ソフィアは声を震わせ、俺をただただ見つめている。恐らく今の言葉で俺の真意が見えただろう。

だが、それがどうか嘘であって欲しいと願っているのがよく分かる。

あんな者を救うなんて言わないでくれ――そんな神の期待を俺は踏みにじる。



「無論、リアムですよ。あれはもう誰にも救えない、救う価値がない。だから俺が救う……と言うより終わりにしてやりたいんです」



正直こんなことをリアムの前で口にしたら、奴は余計な世話だと俺を容赦なく殺しにかかるのは大体予想がつく。

俺からしても、奴の人生に幕を引いてやるなんてただのお人好し(バカ)の世迷言にしか聞こえない。


だが、この世にいる“誰か”とか“みんな”ではなくて、奴を救いたいと思う理由は1つだと俺は神を目の前にして胸中を晒す。



「そもそも、俺が断罪者としてのきっかけを得たのはあいつです。あいつが接触しなかったら、俺は憎悪さえ抱けなかった……。つまり、あいつが俺を生かしたんです」



それだけでなく、時々奴と潜在意識を通して会話したこともあった。そんな中で、なんだかんだ世話になったことも多い。

なにより奴を救うと思う決め手となったのが、奴の過去だ。


奴が今こうなっているのは、自業自得。しかし、リアムだって好き好んで英雄なんか目指したいと思った訳じゃない。

あんな風になったのは他者が原因で、主に自身が生まれた環境こそ狂っていたからなのだ。


何度も死にたいと、けれども死にたくないと毎日死と言う不可視の恐怖に怯える日々はさぞ怖かっただろう。そんな中、マナがリアムに手を差し伸べた。


奴にとっての運命とは人生の始まりは常に彼女と共にあって、当たり前だからこそ失うことにも気づけなかった。俺はそれを姉さんと今は亡き仲間達で学んだ。


でも、奴は未だ過去に囚われたままであの場から動けない。

その姿は酷く憐れだけれど、人間としてはある種当然の行動なのだ。


誰しも恐怖を拭うことは容易くなどないし、自分や自分にとって大事な当たり前を守るために変化を受け入れない。だが、もうそんな呑気なことは言っていられない。



「後、俺の寿命はもって20年ぐらいでしょうね。そしてあなたの眷属として力を奮えば、さらに寿命は削れる。だからまだ猶予がある内にあの馬鹿を救いたいんですよ。ソフィアもマナも結局はリアムを救えなかったから」


「……あなたって人は、本当にお人好しが過ぎますね」



俺の勝手な言い分に対し、ヘレ・ソフィアは溜息交じりにそう呟く。

だが、これは(かれ)に対しての叛意だ。だからここで彼の手を振り払えば、俺はこの世の害として容赦なく排除される運命が待っている。


聞こえこそいいが、俺自身が相手の呪力を取り込んで相手を封殺すると言うのは、相手の意思や戦う力を奪うのと同義だ。


この世界は、もはや呪力を呪力で制することでしか人々を守れない。つまり、俺が呪力のある人間を救えば救うほど、彼らは戦う術を失くしていく。

同時に呪力を悪用する奴も減るには減るが、またリアムのような存在が生まれてしまったらどうなるか。


そんなとき縋れるのは、この“繁栄”を司る戦闘には不向きな男と軟弱な俺しかいない。そして最悪、また改暦を壊したときの二の舞を踏む可能性もなくはないのだ。


その保険として俺を眷属に据えるべきなのだが、同時に人類を守るための牙を捨てるのであれば、それこそ存在自体不要だとヘレ・ソフィアは柘榴色の瞳で語る。


そしてその端正な顔からは慈悲が消えた。

もう、彼には俺を守ると言う選択は不要。だからこそ、ここで『原初の災厄』(ファースト・スカージ)と同じく自身の“法”で俺を仕留めるのが当然の帰結なのだが。



「……そもそも、あなた達は私の警告を無視して『ラジアータ』まで来た。なら、その愚行が過ちだったとあの邪神に嬲られて知りなさい。そしてもしそれでもなお斃れないと言うのなら、そのときは私自らが罰を下します」



これが最後の慈悲である。そう告げて、ヘレ・ソフィアは俺の前から姿を消した。

瞬間、俺の右の肺が痛んで思わず咳き込めば、俺は地面に鮮血を吐き出す。

吐血した量は微量だが、それでも自身の命を削るという行為はこういうことである。現に肺が痛むのも、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の呪力の影響を受けたからだ。



「……本当、俺ってしょうもない人間だよ。そう思わないか?」



俺がそう問えば、ゆらりとこの場に再度呪力が満ちていく。

重苦しい瘴気が未だ痛む肺を刺激しながら、俺の背後に現れたのは紛れもなく俺が救う(たおす)べき男1人だけがいた。



「ああ。正直言ってしまえば、お前は気狂いでしかない。……もうお前の潜在意識(なか)にいたときに感じた安堵などどこにもない」



安堵——それもまた、俺らを繋いでいた経路の1つだった。

元々断罪者としての俺の性質は……いや、ラインバレル・ルテーシアと言う男の本質はリアムに良く似ていた。


事の前提を穿き違え、逃避して力に溺れた愚か者。

そして、後悔をするぐらいならば最初からするなと言う嚇怒が俺らに通ずる共通点。


ゆえにリアムは俺に怒っていた。

自分によく似た半端者が許せないから、自分を鏡越しで見ているのが気持ち悪いからと俺を排除しようとしていた。

だが今となっては、こいつは自分と同じ存在を生みたくなかったのではないかとも思う。


先程こいつが切実に告げた「俺以外はこちら側に来るな」と言う悲痛な叫びも奴の本音であることは知っている。だから俺はリアムへと頭を下げた。



「それはよく分かってるよ。俺も同じ思いだったし、俺はお前の厚意を踏みにじった……それについては謝罪させてくれ」



謝罪する俺を前に、リアムは言葉を失う。

それもそうだろう、先程までお互いに恨み合って殺し合っていた人間に急に謝罪されるなど前代未聞である。


だが、こんな愚かさやどうしようもなさが俺なんだ。だからこそ、同類であるこいつには分かって欲しい。そうリアムへ勝手を押し付けて俺は頭を上げて、リアムを見据えては構えた。



「今までの礼としてお前を必ず救ってやる。そして、お前に勝った後はお前の憎いヘレ・ソフィア(あいつ)も斃すから」



そう宣戦布告した俺を、驚愕と共に灰色の瞳は受け止める。

瞬間、奴の唇が声にすることなく言葉を紡ぐ。

ああ、ならば遠慮は不要かと。


リアムは再び自身の中にある呪力を一気に解放し、ここ一帯を自身の庭へと創造させる。そして邪神は未熟な救世主(おれ)の救済を嘲笑う。



「なら歓迎しよう。俺と同種の断罪者ではなく、真の敵である救世主としてのお前を喰らってやる」



言っておくが、これは決して救世主が邪神を救うと言った美談ではない。

ただ自分とよく似た馬鹿が放置出来ないから、お前を殴ってでも止めると俺は言い。

奴は俺の制止など知らないと、俺の手を振り払って死という永遠に焦がれているだけの話だ。


だから、俺はこいつにこう言いたかった。

もう、逃げて1人で泣くのは止めようと。

自身の罪を受け入れて、死で贖い、そしていつしか許されたなら今度こそ愛しい彼女と生きてくれと。


漆黒の瘴気は赤い大地を黒く染め上げ、蒼穹は憎悪を晴らさんと黒い大地を蒼で照らすのみ。

こうして、ようやく俺は因縁の相手と向き合うことになる。



いや、まさか話割れるの早すぎでしょヘレ・ソフィアさん。

ついさっきまでリアム君を滅殺すると誓っていたラインバレル君でしたが、とうとう救世主としてのルートに入ります。


ここからはラインバレル君は断罪者ではなく、救世主という存在として戦いに身を投じます。

次回から15話に入りますが、とうとうリアム君との戦いが始まります!


【追記】

今回、活動報告で少しお知らせをしていますので、気になる方はぜひ活動報告の方をご覧ください。



⚔66話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレを含みますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3182150/




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