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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
4. 青年は迷いと憂いを捨て■■■へと至る
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継承と覚醒



「はぁ……はぁ……っ」



今の一撃で大分寿命が削られた気がするが、なんとか反撃の目途は立てた。

反撃が可能だったのも、カゲフミが呪力を用いての技法の他、精神統一の方法や呪力の維持の仕方を俺に教授してくれたからだ。


さらにこう言った超常の異能を用いて戦う上での術の基礎はもちろん、戦闘中に如何な思考であればいいのかさえ、きちんとこの身に叩き込んである。



「恐れるな」



カゲフミはいつも俺に言い聞かせていた。

恐れを抱いた瞬間、人は死と言う奈落へと真っ逆さまに墜ちていくぞと。


それは心の持ちようだけでなく、異能を用いる上でも同じこと。まずは恐れずに自身の意志で能力を飼い慣らして、技を放つことこそ戦いにおける前提条件。

これが出来なければ戦うことなど難しいと、カゲフミは嫌と言うほど口にしていた。そして。



「迷うなッ!」



とも、カゲフミは俺に言い聞かせていた。

戦闘中は呼吸を乱すだけで、すぐに優位は相手へ傾いてしまう。だから常に五感を研ぎ澄ませて、危険を察知する。これらを行うために迷いなど不要であると友は言った。


なにより、今俺が反撃出来たのはカゲフミの教えだけではない。

先程、少し離れた場所で見たヘレ・ソフィアが使っている“法”を見様見真似ではあるが一時的に奮えたのも大きな要因だ。


そして俺は記憶を頼りに、ヘレ・ソフィアの模倣を繰り返していく。

自身の命を対価に、ただの攻撃を神の“法”を完成へと近づけていくのだ。


この2ヶ月近くで詰んできた訓練や戦闘経験は、少なからず今こうして俺の力になっている。だが、そんなことで断罪者に勝てるほど現実は甘くない。


なにせ断罪者(やつ)は神と邪神両者の首を落とせる断罪刃を備えた破滅の使徒。

呪力における汚染能力はリアムはもちろん、神であるヘレ・ソフィアさえ“法”で対処しなければただでは済まされない程の必殺性がある。



「“塵となれ”!」



奴が詠唱と同時に呪力を一気に放出してしまえば、俺はそのまま抵抗も虚しく、呆気なく呪力に呑まれるだけ。


その度に暗くなっていく視界や、全身を襲う虚脱感に俺は思わず足を折りそうになる。

俺自身ある程度呪力に抵抗があるとは言え、神さえ壊す汚染能力を生身の人間が浴びてしまえば肉体は融解していく。

だが、それが起きていないのも、不完全ながら模倣した神の“法”で相殺しているからだ。


いくら生気で疑似的な神の“法”を鎧にしたところで、身体強化による防御はまだ難しい。


ゆえに、俺にとっての命綱は手に握ったナイフのみ。

ナイフの刃に生気を纏わすことで、一時的だが奴の呪力を浄化する。

もしくは呪力の波を回避するしかなく、攻撃手段も防御も隙だらけで甘い。



「なら――」



刹那、俺は断罪者(やつ)の放った呪力の渦に呑まれる。

あまりにも呆気ない俺の最期に、断罪者は愉快だと喉を鳴らして哄笑する。



「ははははッ! そうだよなぁ、粋がってもどうせ(おまえ)にはそんなことしか出来ないんだ。無駄なことしたな、本当に」


「——って言うのは自分に言ってやれ。俺もだけれど、断罪者(おまえ)こそ他人の力を借りてばかりで情けないよ、本当」


「え?」



ただ天を見上げては嗤い、正面など見ていなかった断罪者へ、俺は奴の顎を砕かんとばかりに拳を叩き込む。

すると、断罪者はよろめくが、蒼瞳が何故と困惑に染まる。


何故、呪力に汚染されて自壊したはずのお前が生きていると。

ゆえに俺は、そんな単純な言葉に俺は今至った“法”を目の前にいる無知な断罪者(こいつ)へ説いてやる。



「所詮、お前は虎の威を借りる狐だろ? (おまえ)『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の力を借りなければ、戦えもしなかった。確かに奴の呪力に蝕まれるのは痛手だったけれど、それがなんだ?」


「なんだ、って……それこそ、俺が力を得るための対価だろ?」



ああ、そうだろうな。と俺は断罪者(やつ)の言葉に静かに首肯する。

奴の根本が俺と同じである以上、奴が答えるであろう言葉を予測していたし、かつての俺もそう思っていた。


自身の精神と体を対価にして戦っているのだから、俺は自分の力で戦えているなんて間違いだらけの前提。

それを今から証明(ひてい)してやると、俺は今命がけで得た真理を腹奥から吐き出した。



「違うんだよ! (おまえ)は諦めただけだ! 闘う力がないからって諦めて、結局あの災厄に縋った! 本当なら、こうして命を削ってでもどうにかすべきことをさ」



相対する断罪者は一瞬だけ、戸惑いをその蒼瞳へと映す。

事実を突きつけられ、逃げ場がない中でも奴はそれでもと声を張り上げる。



「——ッ、だがそんなのは絵空事だ! なにせ俺にはそんな戦う術さえ知らなかった……だけれども、リアムを殺すには! 姉さん達の無念を晴らすには――これが最適解なんだよ!」



そんな泣き言に、俺は心底自分自身に呆れる。

全くこんなのじゃリアムの方が幾分かマシだろうと侮蔑してしまう程に。


理由はなんであれ、リアムは現実から逃げず戦いきった。

間違いは犯したし、与えられた力に溺れたりもした。さらに自身の罪を贖うべき局面でも、言い訳を繰り返した。


だが、最後は現実から目を逸らしても戦うことを選び、足掻いた結果、勝てるはずもない『原初の災厄』(ファースト・スカージ)に勝ってみせたのだ。

俺は今そんな不器用ながら偉大な先達者に倣うと決意した以上、過去の自分へこう返す。



「それが最適解だというのなら、俺が答えを見せてやる」



俺が見つけた答えとは、神の“法”を模倣しただけのものではない。

友に教わりながらも積んできた技巧と、カゲフミが気づかせてくれた俺の罪過と後悔。それと向き合って精算すると決めた覚悟も全部ひっくるめての“法”(もの)



「“俺の目指した光は遠く、ゆえに俺は過去に手を伸ばす愚者”」



俺は今まで幾度となく戦ってきたが、そもそも戦う理由すら自分で理解していなかった。

それゆえに未熟であったし、仲間の手を散々借りただけでは飽き足らず、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の呪力に頼り切ったことで暴走を招いた。


今思い返せば、あれはとても楽な逃避(ほうほう)で、ある種無敵な力だった。だからこそ俺が目指していた願い(ひかり)は遠い。



「“罪過と傷はもう俺を逃がさない、俺へ告げる真実はいつだって冷酷無情なものなり”」



俺にとっての一縷の光であった『正しき人間』の定義。

今までなにをするにせよ指標となったそれは、今や俺にとっては破れた紙幣と同じだ。

価値は確かにあった、助けられたときもあった。しかしだからと言って、それに固執し続けるのは違うだろう。


ただ人間は酷く脆いから、きっとどこかで現実から逃げるのは当然のことだ。

俺は何度も経験してきたが、だからと言って安全圏で見守ることは俺自身が許さない。今度こそ逃げないと俺は誓ったから。


まずは、俺の人生の精算を済ませよう。

そしてこれを越えられれば、次に挑むのは邪神であるリアムという障壁。

人1人の人生とは比べ物にはならないくらいに強大で、それこそ世界全てを敵に回すような無理難題。それに挑むことが俺の運命(さだめ)ならば。



「“だから曇りなき無謬の蒼穹(そら)だけは俺を照らしてくれ、もう逃避()げる道は閉ざされている”」



怖いけれども、必ずそこへと辿り着こう。

そう、今はどこにいるか分からない仇敵へと俺は宣戦布告する。



「“継承は今ここに成された”——“刮目せよ(Carpe diem)”」



俺は赤黒い(そら)へと手を伸ばし、神の奇跡を己が力へと変えて蒼穹(あお)く儚い光を顕現させる。



「“我は血を継ぎ、罪過の先を往(Renatus)く者 渇すれども盗泉の水は飲(sacrifice)まず”!」



かつて漆黒に彩られた断罪という憎悪の集合体は、ここに今蒼穹に変化を遂げて神の“法”として生誕する。


まるでミシャの瞳の色が如く、蒼く透き通った色。蒼穹から伝わるのは熱くも穏やかな加護の念。

そして力の根源となるのは、カナタが抱き続けた深い愛情のように、温かく強い嘘偽りなき純粋無垢な想い。


俺は“法”の生誕と同時に感じたそれらの感覚を、彼女らの置き土産かと錯覚する。


だが、妄執はすぐ様頭から振り払う。なにせ俺は全てを清算するとカゲフミ(とも)に誓ったのだ。


今まで積み上げてきた経験や思い出は、決して無駄なものではない。

だけれども、様々な思い出は現に俺にとって重い枷となってしまった。


ゆえに綺麗だからと固執してしまえば、いずれはまた大事ななにか失うことになるのを俺は十分理解しているし、してきた。だから、一緒に往こうなど綺麗事は言わない。


俺は仲間がくれた言葉と彼らが気づかせてくれた俺の罪過を胸に、この先の人生を往く。その意志がもたらすは断罪者とは逆の能力。


それは相手の憎悪や呪力を呑み込むことで、自身がそれを請け負う異能。しかし、これだけでは俺にとってデメリットしかない。だが、この“法”の極意はそこではない。

請け負った呪力は俺と言うフィルターを通すことで、完全に機能を失ってしまうのだ。


一見類似しているが、根本としている意思は全くの逆だ。()()()憎いから殺すなんて自分勝手な想いではない。


相手を殺さず、生かす。全ての苦しみは俺が背負うから、代わりに救われてくれ――なんて出鱈目な“法”こそ俺の答えだった。


(そら)へ掲げた手を断罪者へ翳した瞬間、蒼穹(あお)く眩い光は断罪者を包んで、そのまま機能停止まで追い込んでいく。



「こ、の……ッ! 偽善者がァアアア……!」



瞬間、断罪者との接続が断たれた『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の怨嗟の声が耳に響くも、俺は命を削って“法”を維持する。だが、それだけでは意味がない。


俺が今放った出力では、精々断罪者(やつ)の1000分の1の呪力を封じられればまだ良い方だからだ。


かつてリアムが『原初の災厄』(ファースト・スカージ)にした干渉能力など俺にはない。ゆえにこのままだと呪力を封じても再度こちらが圧し潰される。

そう悟ってもなお、俺は立ち止まることだけはしなかった。



「烏滸がましいんだよ! 誰かを裁けるほど偉くも強くもないくせに、傲慢すぎるんだよッ! お前達は――ッ!」



そう怒号を放って、猛り天を轟かせたその瞬間——



「よくぞこんな短時間で神の“法”へ至りましたね、ラインバレル・ルテーシア。ならば(わたし)から僅かなる祝福を」



天から凛と響く声に、俺は嫌な予感がして断罪者と距離を開ける。そして断罪者が何事かと天を仰いだその刹那、光の大波が災厄を浄化せしめんと断罪者へ迫ってきた。



「“神が下す罰は今ここ”——“刮目せよ(Carpe diem)”、“連鎖と血が繋ぐ(Akrivís)人々を救世(exousiai)する(Helle:)光の道なり(Sophia)”」



ヘレ・ソフィアが(うた)を紡いだ瞬間、膨大な光源は断罪者を包み、そのまま石化させていく。


先程、カゲフミに放った“法”など指先1つで編んだものだと思わせる程の荘厳さと強大さに俺は目を見開いて天を仰ぐことしか出来ない。


そしてヘレ・ソフィアの詠唱と同時に放った光は、その運命と存在ごと浄滅(ていし)すると言わんばかりに断罪者を焼き尽くす。



「な……」



神からの罰が下った瞬間、断罪者と言う器は崩壊し、断罪者に依存していた『原初の災厄』(ファースト・スカージ)は剥き出しとなって悲痛な叫びを荒野一帯へと響かせる。



「ふざけるなッ! この雑魚共がぁアアア――—ッ!」




はい、マナレク名物・覚醒は大体2回あるのお時間でした。

ただまぁ本文にもある通り、例え覚醒したとてラインバレル君1人で断罪者に勝つことなど不可能です。まだ覚醒したてだしね。


けど、ここで乱入してきたヘレ・ソフィア! ……あれ? お前、断罪者とは相性悪いとかいわれてなかった?

兎にも角にも、次回はもう1つだけ世界の裏側に隠された真実が明かされます。


にしても、『原初の災厄』さんざまぁというかお疲れ様でした!!



⚔64話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3180233/




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