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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
4. 青年は迷いと憂いを捨て■■■へと至る
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過去の清算と新たなる一歩



「……思い出した」



体感にしておよそ2分にすら満たない追想を終え、俺は去来する痛みに気づけば涙を流していた。

零れる涙は乾いたカゲフミの頬を濡らし、カゲフミは呆れたと言わんばかりに顔を顰めている。



「分かったか? それがお前の後悔で、乗り越えなきゃいけない壁なんだよ」



カゲフミはそう口にするが、俺にはどうすればいいのかが分からない。



「だから、なんだよ……」



そう口にするのは当然のことで、カゲフミもそれを理解しているだろう。だから彼は浅い呼吸を繰り返しながら俺の泣き言にただただ耳を傾けている。



「壁って? そもそもそれを乗り越えてなにがあるんだ? もう俺は全部を失った……。仲間も、家族も、戦う方法も……なら、なんのために壁を乗り越えなきゃいけないんだ?」



ましてや、あんな化け物3人を呪力など一切使えない身で相手にするなど無謀極まりない。

そんなのはただの自殺行為だと自覚した瞬間、俺の中で恐怖が煮え立つ。

だが、カゲフミはそんなことは知らんと言葉を継ぐ。



「さぁ……? そもそも、あの中でお前だけが借り物の闘志を燃やしてたのは知ってたし。なんなら神様にでも縋って逃げてみたら? ……無駄だろうけど」



それもそうだ。先程リアムが言っていた通り、ここにもう逃げ場などない。

リアムは俺を殺す気でいるし、ヘレ・ソフィアも碌なことなど考えていないだろう。


そして『原初の災厄』(ファースト・スカージ)はリアムとヘレ・ソフィアを殺すべく、断罪者へ成って断罪劇の幕を開けた。

そして、唯一この地獄を生き残ったカゲフミにも残された時間は後僅かしかない。


では、俺はどうすべきかと最後の選択肢が俺に突き付けられた瞬間。

断罪者——もとい『原初の災厄』(ファースト・スカージ)がまき散らした瘴気が俺達の元にも迫ってくる。


俺はふと戦火の渦へ視線を向ければ、そこには断罪者相手に苦戦するリアムとヘレ・ソフィアの姿があった。


リアムは断罪者の呪力に触れた瞬間に自壊衝動が始まったが、なんとか汚染された箇所を切り離したことで、なんとか自我を保っている。


一方でヘレ・ソフィアは自身が今打てる手などほぼなく、精々自身の“法”を用いているなんとか抗うことしか出来ないようだった。


はたして彼らはなんの為に戦うのかなどと逡巡した瞬間、カゲフミはそんな俺を力なく笑い飛ばす。



「自分の命の危機だって言うのに、結局は他人の心配かよ……。お前はどこまでお人好しなんだか」


「別に、心配なんかじゃ――」



ああ、そうだ。これは決して心配なんかじゃない。

奴らがどんな大義があって戦おうが、所詮奴らもヨセフやヴァンタール達とそう大差ない。


もうそんな無愧な人達を怒れないのも、怒れないくせに誰かを憎もうとするのには疲れた。

と、弱音を吐き出しかけた瞬間だった。



「……まぁ、姉への贖罪よかマシな建前か。なぁ、お前は本当にそのままでいいのか?」


「え?」


「家族も救えない、大事だった人は誰1人救えない。けれど後悔や怒りが消えない……なんて、傍から見てると鬱陶しいんだよ。いつまでそうして戦わないつもり? 安全圏でいつまで自分の惨めさに酔い浸る気?」



カゲフミがそう怜悧に本心を吐露した瞬間、俺はリアムの意識に触れた日のことを思い出す。

あのとき、俺は一体奴にどんな感情と印象を抱いただろうかと。


思い返す限り、俺は奴のことを俺自身と似ていて腹が立つと思ったはずだ。

気付けばカゲフミもまた今の俺が腹立たしいと、嚇怒の念を俺へと向けている。



「だったら、最初から後悔なんてするなよ。口も耳も塞いで蹲ってろ、鬱陶しい」


「——ッ」



俺はいつしかリアムへと向けた言葉を突きつけられ、息を呑んだ。

内心泣き喚いて反論したいところだが、それでも事実は変わらない。

なにより、俺はここで言い返すことこそ恥だと理解しているから言葉を呑む。



「それに俺は――いや、俺達はお前のために死んだ訳じゃない」


「それは……」



違うのだと、俺はすぐさまカゲフミの言葉を否定する。

しかし俺の一言でカゲフミは我慢が出来なくなったのか、俺の胸ぐらを掴んで自身の顔のすぐ傍まで俺を引き寄せた。

結果、俺はカゲフミからとてつもない声量で怒号を突き付けられる。



「違うって? 勝手に決めつけるなよ、この馬鹿! 俺達がこんな道を選んだのは全て自分のためだ! 愛だ友情だって綺麗に着飾ったって、突き詰めれば人間の欲求とは自分のため以外に他ならないんだよ!」



だから、今ここで全ての罪過と後悔を清算しろとカゲフミは言う。


カナタが口にした俺は悪くないと言った言葉への抵抗感を。

ミシャが口にした彼女や父さんの願いは自身の都合ではなく、愛する者を想うがゆえの言葉であることを受け入れるために。



「呪いだろうが、愛だろうが左程違いはない! それはカゲフミ・キクキョウと言う存在が証明している!」



そう、自分こそが典型的な例だとカゲフミは語る。

カゲフミは元々、亡き弟への愛1つでキクキョウ家の復讐を決意した。


ゆえに自分に成すべきことはあったし、守りたいものがあった。

だがそれら全てを捨てて最後に選んだのは、間違いなく他人である友人(おれ)なのだ。


それは、ミシャもカナタも同じ――そんな切実な願いが徐々に俺の胸の内に沁みていく。



「なによりそうやって勘違いすることは、俺達(なかま)への侮辱になる! 俺達を救えなかっただって? そんなの1人死の瀬戸際で後悔してろ! そして勝手に俺らを憐れむなッ! そこまで人間は弱くない!」



瞬間、俺はもう1つ大事なことをカゲフミに気付かされる。

俺は勝手に仲間が死んだのは自分のせいだと嘆いたくせして、同時に彼女らが憐れだとも思っていた。


どうしてそうも、最終的に誰かになにかを託して自ら死んでいくのかと俺は疑問を抱いていた。

愛に殉じ、どうか生きて欲しいという純粋な願いはいずれ他者に踏み潰されると言うのに。


その事実を俺は知っているからこそ、心の奥底ではいつでも彼女らを馬鹿にし(あんじ)ていたのだ。

その事実が、今までラインバレル・ルテーシアを築いていた善人の仮面を砕く。


そうだ、俺は決して善人ではない。

何故憎悪が抱けないのかは今でも謎だけれども、心の内では侮蔑や憐憫の情だって他人に向けてきた。

だが、俺はそれを笑顔や偽りの気遣いの言葉で誤魔化していたに過ぎなかった。


なにより他人に頼っていた俺自身が、彼らを信じていなかった。

そんな事実に今更気づかされるなんて慙愧に堪えないどころではなくて。


情けないがため俺がカゲフミから視線を逸らした瞬間、カゲフミは俺の胸ぐらから手を離す。そして今にも消え入りそうな言葉で唯一の後悔を俺に告げる。



「……けど、弱くないって言えるのなら、お前1人ぐらい救うことも造作もないのかもな。だから、笑えよ。俺なんか弱いって」



と、どこか自嘲交じりに笑うカゲフミに、いつものように冗談を返す気にはなれない。

むしろ申し訳なさと、今まで抱いてきた感謝だけが溢れ出てくる。



「そんな訳ないだろ! お前は俺よりずっと強いんだ! 俺の師匠で俺の自慢の友達なんだ! だから……最期にそんなことを言うなよッ!」



いよいよ自身への情けなさと悔しさで流れていく涙は大雨のように、カゲフミの頬を濡らしていく。

無論、師匠であるカゲフミからすれば、こんな情けない俺を庇いようがない。だから最期に友としてこう言い残す。



「これで2度目だ」


「え……? 2度目……?」


(ほとけ)の顔は2度目まで、次こそ命は有効的に使えよ? もう、お前は1人なんだから、苦痛や全てから……逃げられや、しないんだから……さ」



苦痛や後悔、罪過からは逃げられない。そう言ってカゲフミは俺の道を塞いだ。

カゲフミ自身酷なことを言ったが、それでも無理に戦うことを強制はしなかった。


だが、彼は遠回しに俺にこう言った。全てを清算しろと。

そしてそれを踏まえた上で、俺が目指すべき末路はなにか。


いや、そもそもあのとき『原初の災厄』(ファースト・スカージ)と取引した時点で、俺の末路は決まっていたのだ。

どちらかを選べば俺は野たれ死に、どちらか片方を選べば俺はこの世で最も恐ろしい苦痛を味わうと。


今ここで逃げれば、俺が野垂れ死ぬのは明白。

だが、戦うことを選べばより苦痛が俺を待ち構えている。しかし、俺が選ぶのは後者だった。


カゲフミも口にしていたが、憎悪だろうが、愛だろうが左程違いはない。なら果たすことなんてただ1つ。


憎悪を以て、奴らを殺すのではなく。

まずは救済の意志(あい)を以て、俺が成るべき姿だった断罪者とのケリを着けると。

何故なら、あの断罪者こそ俺が憎悪に(おか)され、勘違いをした末路だからだ。


自身の罪過からも後悔からも目を逸らして、ただお前らが許せないから断罪するなどとどれだけ烏滸がましいことか。



「俺は、そうはなりたくはない」



だから俺はまず、自分自身(だんざいしゃ)を否定する。

その後のことはきっとどうにかなると何故か楽観的でいられる自分に驚くが、それもおかしいことではない。なにせ。



「そこまで人間は弱くない、んだろ?」



そう呟いて、俺はカゲフミの冷たくなった体を横たわらせて手を合わせる。



「……ごめん、カゲフミ。カナタ、ミシャ……父さん、母さん、姉さん」



仏の顔は3度——いや、2度までだそうだが、カゲフミも姉さん達も俺の身を案じているのに違いはない。

だが俺はそれでも自分がそうしたいからと、初めて誰かのためだとか親切も倫理も捨てて、自身の意志で立ち上がる。



「俺は闘うよ。もう後悔なんてしたくないから」



こうして俺は、修羅の道へ足を踏み入れる。

恐らく、ヘレ・ソフィアからすればある種これは予定調和だ。

奴らが口にした聖戦——もとい、改暦における最終戦争はこうして激化の一途を辿って行く。



これで13話は終了になりますが、カゲフミ――——ッ!!

しかし、カゲフミのおかげでようやくラインバレル君は復讐に身を墜とすのではなく地獄から這い上がりました。さすがは今作最強のヒロインパワー……。


はい、次からラインバレル君は路線変更になりますが、聖戦の初戦は一体誰でしょうか?次回へ続くッ!!



⚔62話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧するのを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3177883/



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