断罪者の生誕と同時に訪れる終焉
今回から13話になります、よろしくお願いします。
邪神と断罪者が互いを滅殺すると誓い、禍々しい呪力がぶつかり合う中、地上でもある2人による殲滅戦が繰り広げられていた。
本来なら天に座すべき存在は現在地上に降り、来る救世主を天に召し上げんとしていたはずだった。
しかし今彼が追うのは、目的の救世主ではなく、救世主を奈落の底に鎮めんとする害悪。
自身がまだ神としての権能しかなく肉体が無き頃、この害悪はある少女の体を依り代にしていた。
その少女は現在害悪が依り代にしている少年より頑丈だったが、身軽さが圧倒的に違う。
小さい体は基本まだ軽いゆえ、呪力で脚を強化すれば小回りが十分に利く。だが、それだけならばここまで神が手こずることなどない。
それよりも問題なのは依り代の違いではなく、彼が呪力を駆使して神へ対抗していること。
さらに腹立たしさを増させるのは、悔しくもまだ自身らが別々であった頃に片割れが犯した失態だ。
しかし、それを咎める気は半身にはない。それどころか半身である彼女の言い分はこうだ。
「よくも、私の与えた智慧で余計な足掻きを……! 1度限りと言いながらその制約を潜り抜けられるものですね!」
むしろ、都合よく半身の与えたものに未だ縋りつくとはなんたる不敬か。
そう怒りに震えるも、害悪たる『原初の災厄』は呵々と上機嫌そうに嗤う。
「知らぬわ、戯け! いい加減、ソフィアを甘やかすのは止めてやれ」
「この……ッ!」
リアムが『ラジアータ』の中心地を浸した呪力を、魚が泳ぐように荒野を駆けるその姿を見るのは癪に障る。
ヘレ・ソフィアも対抗して、神力——もとい神の“法”で呪力の海を焼いて灰と化しながら、自身の『罰』である『血』で精製した鎖を全方位へ走らせる。
もう10分程に渡る交戦だが、これは明らかにヘレ・ソフィアにとっては不利な状況である。
ただでさえ、呪力とは神の“法”とは真逆の存在であるゆえに相性が悪い。さらに彼の権能は“繁栄”。
今や自身が下せる『罰』は『連鎖』と『光輪』のみ。
『血』の発動も可能だが、このように限定されてしまう。なんにせよ彼の神の“法”どちらも人を罰し、復興させるものゆえに戦闘など端から論外なのだ。
おかげで人間とそう変わらない体で『原初の災厄』を追い、さらにはリアムの呪力を浄化しながら攻撃を通している。
『原初の災厄』からすれば、その姿が愉快で堪らず、先程から笑いが止まらない。
だが、こんな追いかけっこももういいだろう。
そう決断して足を止めた瞬間に、自身の首に目掛けて光刃と『血』の鎖が迫って来る。
「そのまま蒸発なさい!」
およそ10000度にも及ぶ熱の塊を向けられ、さらに刃が迫る速さは目では追えない。
ゆえに『原初の災厄』の首は呆気なく断たれるだけだったのだが、事態はとんでもない方向へと傾く。
なんと回避不能だったはずの、光の刃が砕かれてしまったのだ。それも彼が首に下げた鍵が放つ漆黒き瘴気によって。
「まさか、それは……」
思わず、ヘレ・ソフィアは瞠目する。
なにせ、あの鍵からは断罪者になりつつあるラインバレルの気配がしたからだ。
元々ラインバレルに呪力はないし、それゆえに『原初の災厄』の呪力を受け入れるための器とされた。
ラインバレルが器となれば必然、呪力の持ち主である『原初の災厄』との同化が可能なのは容易に予測出来る。
実際、呪力の行使により同化を深めた結果、『原初の災厄』はラインバレルを神の使徒の器から断罪者への器へと創り変えた。
そうした結果、今やラインバレルはリアムに対して断罪者として彼の首を断つと果敢に挑んでいる。
「……成程、確かにカナタの指摘はごもっとも。あの鍵こそ完成した断罪者を解放するためのもの。まだ完成していない器が下手に触れれば逆に汚染されて死に至る」
と言うのも、『業火の仮面』を介したラインバレルの呪力の特性を考えれば当然の話。
なにせ、あの鍵に宿っているのはリアム以上の呪力を込めた邪神どころか神さえも殺す必殺の刃。『ゴースト』どころか呪力のないただの人間が触れてしまえば、発狂しどころか肉体さえ自壊作用によって融解する。
ヘレ・ソフィアが真相を理解した瞬間、『原初の災厄』は愉快そうに笑みを深める。そして指揮者のように両手を広げ喝采した。
「ああ、ようやくこのときが来たんだよ。今や断罪者は我が手中にあり! もはや邪神も神も関係ないとも。悪鬼すら断つ断罪者はようやくここまで育ったからなァッ!」
『原初の災厄』がこの世界の命運を決めんと、断罪者の生誕を祝福した瞬間、首に下げられた鍵はある男の輪郭を模って変形していく。
瞬間、宙から地へと羽の折れた雛が墜ちてきた。
雛の名はラインバレル・ルテーシア。彼こそが神が救世主と見定め、そして『原初の災厄』によって断罪者とされた存在だったのは先程まで。
今、ここに落ちてきたのはただの雛鳥だ。
断罪者の資格はなく、地に墜ちた彼は討つべき敵であるリアムはどこにいるのかと辺りを見回す。
「——ッ、リアムは!?」
ラインバレルはあの一瞬、『原初の災厄』が餞別として残した呪力で自身の体を強化し、その上で受け身をとったがゆえに無傷であった。だが、天を見上げればそこにあったのは赤と黒の螺旋。
宙から地へ墜ちたラインバレルを睥睨していたリアムもまた、眼前に広がる赤と黒の螺旋階段に思わず瞠目する。
リアムとラインバレルが階段の下を見れば、そこには誰かとよく似た青年が立っている。瞬間、『原初の災厄』は運命のときは来たと宣告するように唱を紡ぐ。
「“この世界は今や我が手中にあり”ッ! “ならば嘆け 声を涸らして絶望を奏でよ”!——“愛しいお前は儂のものだ”! “顕現せよ――我が愛しき断罪者”!」
彼が紡ぐのは、邪神と神の半身がかつて使っていた“再誕”の“法”。だが、これは少しばかり毛色が違う。
ラインバレルの姿を模した断罪者は『原初の災厄』の肉体を漆黒き怨念で浸した後、そのまま『原初の災厄』を吸収した。
この光景を見ていたヘレ・ソフィア、ラインバレル、リアムは瞠目し言葉を失う。
徐々に同化していく断罪者と『原初の災厄』だが、過去『原初の災厄』と苛烈な戦いを繰り広げたリアムからすれば、こんな事態はありえなかった。
本来であれば『原初の災厄』の“再誕”の“法”——もとい攻撃はたった1度しか使えない。
無論自己の強化などしても意味がないし、そもそも他者への攻撃目的にしか発動出来ないはずなのだ。
しかし、今『原初の災厄』が行ったのは断罪者と自身の融合。
予め『業火の仮面』でラインバレルの器をコピーし、そのまま自身の呪力を器へと流し込む。
そして器が呪力に馴染んできたら、後は器の原型となったラインバレルと切り離して、自分が断罪者へとすり替わればいい。
これこそ『原初の災厄』が長年にかけて企てた計画だった。
つまりここに顕現した断罪者とは、ラインバレル・ルテーシアと言う青年が『原初の災厄』の呪力に犯されて順当に育った末路なのだ。
ラインバレルの悪を憎み、場合によっては邪も正も等しく切り捨てる性質が呪力を得た結果こそ、この世で最凶と言える断罪者。
「なんだよ、これ……」
ラインバレルは、自身と瓜二つな別の存在を見て、その悍ましさに寒気が止まらない。
邪神も神も、世界も須らく断罪する災厄に自分がなるなどあの頃どころか、今も考えられるはずもなかった。
背を刺すような寒気と、離れていてもなお肌を焼くような怨嗟の熱はあまりにも異常だ。
そしてそんな最恐な存在をわざわざ手塩に掛けた以上、『原初の災厄』が望むのは普段と趣向の異なる虐殺に他ならない。
「さぁて、そこのお三方。この男……ラインバレル・ルテーシアと言う断罪者は、如何なる存在でも自身の“罪業”に染めるぞ? 善も悪も等しく。それに――」
「! しまった!」
『原初の災厄』が演目の開幕を宣した刹那、ヘレ・ソフィアが声を上げ異変を察知する。
ぎょろ、と瘴気を纏った断罪者が元の自分へ視線を向けた瞬間、断罪者の放つ必殺の呪力はラインバレルに向かって黒風のように放たれる。そして断罪者は冷酷にラインバレルへこう告げた。
「今までご苦労だったな、小僧。お前は舞台から降りろ」
「しま――ッ!」
「「させるか!」」
断罪者がラインバレルを殺そうとした刹那、リアムとヘレ・ソフィアは同時にラインバレルを守ろうと動く。
目的が相違しながらも類似した2人の反撃もまた容赦などないが、結果はあまりにも無情なものだった。
「ちぃッ!」
邪神の呪力は、そのままそっくり返された挙句に浸食されて自壊衝動が始まり。
「彼の精神に、神の“法”が馴染まない……!?」
神の“法”は断罪者を元に戻すべく行使されるも、神の“法”は一瞬にして淡雪のように溶けた。
「だから言ったろう? 断罪者は如何なる存在でも自身の“罪業”に染めると。ゆえに諦めろ」
そう口角を上げて愉快そうに嗤う断罪者。
断罪者はまずはラインバレルを処分すると手を伸ばし、彼をこの世から抹消しようとする。
そして今や雛鳥以下となり下がったラインバレルが、このまま断罪者によって踏み潰されると誰もが悟ったその刹那。
「“再誕せよ”――“生命は根源の樹たりて、我は樹の根に陰を翳す”」
掠れた声が唱を紡いだ刹那、漆黒き念は何十発の弾道によって一瞬だけ射貫かれては消失する。
「え?」
そしてラインバレルがその光景を目にして目を丸くした刹那、彼の体は急に浮遊しては地を駆ける。
掴まれた首根っこから伝わるのは、無機質な感触。そして頭上にぼろぼろと頭上に落ちてくるのは、凍った血の霜。
「カゲフミ……?」
そう、自身を救った青年の名を口にすると、彼——カゲフミはそのままこの場を離脱せんと疾駆する。だが、ラインバレルはそれを大声で制止した。
「やめろ、カゲフミッ! 俺のことは置いていけ! お前はもう――……」
動いているのさえおかしいんだと、いつか彼に抱いた恐怖が浮上するも、その刹那カゲフミは足がほつれ、そのままラインバレルを巻き込んで転倒してしまう。
「——ッ、カゲフミ!」
ラインバレルは地面を転がされるが、すぐに起き上がっては地を蹴る。
そして倒れたカゲフミの傍まで駆け寄り、そのまま彼の身を抱き上げた。
カゲフミは呼吸が絶え絶えであり、浅いどころか目さえ虚ろで一体なにを瞳に映しているのかも分からない。ただ分かるのは、彼自身はもう限界を何度も超えてきたことだけ。
今ここに至るまで彼は何度も限界を超えて、どうにか気合いで色々誤魔化してきた。
しかしさすがにそんな無茶はもう無理だと、虚脱した体とラインバレルの腕に圧し掛かるカゲフミの重さが物語っている。
そしてカゲフミもまた自身に残された時間が後僅かと分かっているからこそ、目の焦点を必死にラインバレルに合わす。
「……いいか? よく聞け。もうここに逃げ場はない。『原初の災厄』が断罪者になった以上、奴はあの外道2人を殺すだろう。それこそ奴の目的だ」
「そんなのは……」
分かっているとラインバレルが頷けば、カゲフミは言葉を継ぐ。
「だが、無敵の汚染能力が付与されている断罪者は、もはや神や邪神には殺せない……だから、根本であるお前がどうにかするんだ」
「俺が? そんなの、出来るわけ——」
師匠であるお前にも出来ないことを俺が出来る訳がないと、そうラインバレルは声を震わせる。だが、瞬間カゲフミの右目に残された赤い瘴気が炎のように燃え盛る。
それはまるで消える前に再燃焼する蝋燭にも見えるが、なによりもラインバレルを鼓舞し、現実から逃げるなと訴えていた。
「出来るとか、どうかじゃない。もうお前は答えを出さなきゃいけないんだ……。自分が戦う意味と、後悔と向き合うことで得たいものを」
そう、ここでラインバレルが答えを出さなければ誰もが死に絶える。
神も、邪神も、そしてラインバレル本人さえも。
「……例え今まで、建前でも他人を死なせたくないと1度でも思ったのなら――」
カゲフミの右目の瞳孔を縁取る赤い瘴気は、ラインバレルの中にあったある衝動を引き出すべく、陽炎のように揺れ、この先の彼が至るべき道を示す。
これが、カゲフミに発動可能な最後の術式。
彼が自身の為に取って置いた切り札——『最終術式・精神強化』
かつて、未だ未熟だった自分自身のための切り札とした術式をカゲフミは容赦なくラインバレルへと叩き込んだ。
すみません、今回かなり長くなってしまいました。
いやー、『原初の災厄』さんってば世界を終わりにするのに結構手を込んだことをしましたね。今回は。まぁ、こうでもしないとヘレ・ソフィアは仕留められないのでね。
そう、カゲフミがここまで生き抜いてきたのはこのときのためです。さすが師匠!
次からはラインバレル君がずっと明かさなかった罪過についてになります。
⚔59話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧するのを推奨します)
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