彼は友を救うべく復讐者としての全てを捨てる
幼い頃の自分には不可能だったが、戦闘経験だけでなくあらゆる知識を頭に詰め込んだ今ならばそれを成せると、『ラジアータ』へと向かう道中で彼はラインバレルと出会う。
「なにこれ?」
カゲフミは件の平地前にある森林の中を進んでいる途中、遠くから『ゴースト』の群れを感知する。
『ゴースト』の群れはおよそ100体。普通であれば狂界の外でなければこんな『ゴースト』の群れに遭うことなど早々ない。
ゆえにカゲフミはこのとき、この先にある不審な存在まで探ってしまう。
その不審な存在こそ『原初の災厄』。
あのときは面倒事を恐れて無視を決め込んだが、『原初の災厄』の横を通り過ぎた際、彼が浮かべた笑みが気味悪くて仕方がなかった。それに気になったのは地を這いつくばるラインバレルもだった。
カゲフミはラインバレルを一目見た瞬間、彼も自分と同じ人種なのだと確信した。
このとき、視力強化用の眼鏡をかけていなかったから顔こそ見えていなかったが、呪力の流れで彼の歪さを理解していたのである。
過去の彼も同じく、呪力が自身の体に馴染むまでかなりの時間を要した。
その間まるで蛹にでもなったかのようで、現にあのとき視認したラインバレルもまた過去の自身と同じだった。
そして、もう2度と会うはずなどないと思っていたところで、今度は狂界の巨門にてラインバレルと再会する。
今度は仲間も引き連れていたようだが、カゲフミには一切関係ない。そのままラインバレル達を置いてこの場を去ろうとしたそのとき。
「待って、お兄さん」
そう『原初の災厄』に呼び止められ、カゲフミの背に汗が伝う。
一体何を言うつもりだと身構えていれば、『原初の災厄』は背伸びをして自身の耳元で囁くようにこう言った。
「キクキョウ家は1年前に手を引いたぞ、『原初の災厄』の手によってな」
「——ッ!」
驚愕でカゲフミが『原初の災厄』に再度目を遣れば、『原初の災厄』はその姿らしい純真無垢な笑みを浮かべていた。だが、カゲフミはこの情報が事実であることを知っている。
なにせキクキョウ家の人間が『ラジアータ』へと向かえば、『血濡れの剣』が圧をかけてくるのは毎度のこと。
ゆえにカゲフミもここまで来る道中に彼らを脅して、キクキョウ家の動向を『血濡れの剣』の兵士に吐かせたりなどもした。そこで得たのが今『原初の災厄』が口にした情報だ。
一見年端もいかない少年が一体どこでそんな極秘の情報を手に入れたかは知らないが、カゲフミも今や歴戦の猛者である以上、『原初の災厄』がそこらにいるただの少年でないことは一目で理解出来る。
そしてわざわざ誰がキクキョウ家に手を引かせたかのかを笑みを浮かべて告げる以上、こいつは黒だとカゲフミは判断した。
結果、彼は成り行きではあるものの『原初の災厄』に礼を返すのを建前にラインバレル達に助力した。
この頃、カゲフミは『原初の災厄』の正体を暴くのと万が一の事態に備えて、ああしてラインバレル達と行動を共にすることを選んだ
ただ、自身にやたら構ってくるラインバレルに対しての印象は悪い。
それも当然だ、折角助けたというのにわざわざ死にに向かうなど気狂いかつ恩知らずでしかない。
トキツカと似ていたところを感じたからと言う安易な気持ちで救ったことを後悔したが、悲しくもカゲフミはそのままラインバレルに絆されてしまう
ラインバレルが察しがいいのもそうだが、やはり彼がトキツカに似ているがゆえにまた余計な言動をしてしまった。だが、何故か彼の中でラインバレルに絆されたことに抵抗はなかった。
そして不幸なことに『ゴースト』の群れと遭遇し、なんとかカナタとの連携で生き残った後、また彼は他者を遠ざけることが出来なかった。
一体何故? その理由など数ヶ月気づくことなく、答えを知ったのはつい3日前。
あのときカゲフミがラインバレルに泣きついたその後、彼らは馬鹿みたいなことばかりを口にしていた。
「カゲフミって素直じゃないよな、本当は甘えん坊なくせに」
そう指摘された瞬間、一瞬カゲフミはそれを否定したが、そうなのかもしれないと苦笑してしまう。
確かに俺は、他人が嫌いだ。
冷酷で、軽薄で、残酷で。自身の利益の為ならば誰であろうと切り捨てる人間と言う生き物が。
肉親すらあのザマで、なにより肉親こそ自身の復讐相手。
今まで、トキツカ以外から善意や優しさを与えられなかった……いや、トキツカとの世界が全てだった彼には外の世界が羨ましかったのだ。
同年代の友達がいて、学校にも通える。
無条件に愛してくれる親がいてくれて、愛され守られる。
綺麗な洋服を着て、温かい食事を食べて、温かい寝床で寝る。そんな“当たり前”すら享受されなかった自分には、もはや外の世界は夢の世界でしかない。
だからこそ、惨めな現実を知りたくなくて、カゲフミは他人を遠ざけた。
汚い言葉を吐いて、横暴な態度をとって、孤高を気取ってそうして自分は逃げてきた。
そう逃げ続けてきたのに、今隣にいるラインバレルは嫌でも自分から離れなかった。
恩人だとか、旅をしていくにつれ『仲間』なんて口にしたりして。そしてあの夜、ようやくカゲフミは自分の本心を気づくことが出来た。
自分が甘えん坊かはさておき、素直でないなのは否定出来ない。ゆえにラインバレルの頬を抓るも、彼はへらへらと笑うばかり。
だから調子を崩されて、こんなことを口にしてしまった。
「アンタがこうさせたんだけど? 責任取れよ、馬鹿……」
「あっぶな。もしお前が女の子だったら、多分今の一言で俺はお前に惚れてた」
などと、さらに余計な口を利くからさらに鉄拳制裁をするも、自分はこんな日常が欲しかったのだとここでカゲフミはようやく気付く。
しかし、そんな大事なことに何故もっと早く気づけなかったのかと彼は今後悔している。
ヘレ・ソフィアからの罰を受け、血液は固まって心臓さえ動いていない。
だが、呪力さえあれば回復などどうなっても可能——そんな彼の異常を見抜いたヘレ・ソフィアは呪力そのものを固まらせた。
呪力を固まらせて砕いたその結果、自身の肉体までも再起不能な状態にされるが、まだカゲフミは生きている。
それは一体何故か、そんなのは簡単だ。このままじゃ死にきれないからだ。
聡い彼は気づいてしまった。あの『■■』は自身の予測したものではないと。
あれはただの死体であって、呪力など一切ない。つまり、ここにて彼の復讐劇は幕を閉じた。
無論、キクキョウ家に復讐出来ないことは腹立たしいし、自身の存在意義や生きて来た時間や肉体を失ったことを考えれば、絶望しか感じない。しかし、今は違う。
今、宙では邪神と自分の友人が死闘を繰り広げている。
ラインバレルは怒りで我を忘れた挙句、『原初の災厄』の傀儡と化している。
このままでは、自分と同じ道を辿るどころか、最悪リアムと同じになってしまうのは明らかだ。
本当に何故この世界は、善人ほど損をしてしまうのかとカゲフミは泣き出しそうになった。
ラインバレルもトキツカも、本当はいがみ合いも憎しみもない世界で生きるべき存在なのに、そんな平穏な世界なんてどこにもない。
きっとトキツカも、実験中は辛いと涙を流していたことだろう。なにせ今のラインバレルも泣いているのだ。
涙こそ流してなくとも、その心が辛いと助けてと訴えている。ならば、とカゲフミは覚悟を決めて全身に力を込める。
「この……ッ、程度、実験のときに比べれば……まだッ!」
右手を鋼腕と替える際、当然生身の腕は落とされた。
麻酔をされていたとは言え、あのとき感じた痛みをカゲフミは一生忘れられない。
挙句、鉄腕を付けたのはあまりにも雑だった。
縫合するのは不可能だからと、接着剤のようなもので肉体に張り付けただけのお粗末な処置。
おかげで右半身は人には見せられない有様になっているし、この傷のせいで死にかけたこともある。
あらゆる苦痛を味わい、傷を負い、何度も死にかけた経験があるからこそ分かりえること。それはまだ、自分は足掻けると言う事実。
ならば起き上がれと気合1つでカゲフミは立ち上がり、ラインバレルとリアムが戦っている真下まで足を引き摺っては向かう。
最中ヘレ・ソフィアの横を通り過ぎるも、ヘレ・ソフィアは視線すらカゲフミに寄越さず見送る。
そしてカゲフミがヘレ・ソフィアの横を通り過ぎた刹那、ヘレ・ソフィアは小さくカゲフミへこう問いかけた。
「……まだ足掻くのですね、彼の為に」
「ああ」
固まった血の破片を咳と共に吐き出して、カゲフミそう告げる。するとヘレ・ソフィアはなにもすることなく、ただ立ち尽くしている。
ああ、そうだとカゲフミは胸中で猛る。
最期だけは弟のように生きてやると、カゲフミは動かない体をなんとか動かす。
なんとしても足掻け、残された友のために。
人が生きる術は、憎悪に縋ることや復讐だけでは決してないことを知らせるためだけに。
人との穏やかな時間があることこそ、幸せなのだと知らせてくれたたった1人の親友を救うために。
これで12話は終了になります、今回は結構短かったですね。
まぁ回想入ったから生きているんだろうなぁ~と思う方も多かった思います。ただ、あんな状態になってまだ生きてるのが本当に怖い。
さて、カゲフミは復讐を全て捨ててラインバレル君を救うべく動くのですが、はたして彼は断罪者として成るラインバレル君を救えるのでしょうか!?
⚔58話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧することを推奨します※)
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