呪術の系譜とキクキョウ家の闇
今回から12話になります、よろしくお願いします。
元来呪力を用いた異能の存在は、人々を憎悪から守るための防護策であった。
改暦102年。1年前にリアムが邪神として覚醒したことで、この世界は再び災禍に見舞われてしまう。
災禍の名は『ゴースト』と『マタ』。
両者ともリアムが手にしてしまった何億の人もの憎悪の具現化によって、今を生きる人々は苦しめられていく。
『ゴースト』であれば、まだ戦うことで抵抗できる可能性はある。なにせ『ゴースト』の弱点である黄金色の目玉は障子1枚と耐久力が同じだ。
ゆえに槍なり剣なりを目玉へと突き刺せば、まだ足掻くと言う選択肢はあった。
また彼らの夜闇と同化する特性も、陽の光を当ててしまえば左程問題ない。
だが、『マタ』は違う。
『マタ』はリアムの呪力こそ根源ではあるが、ある種の連鎖反応によって引き起こす自然現象だ。
呪力への耐性がない者程発症しやすいのは、今や説明する必要などない。
だが、誰かが――自身の身内が『マタ』を発症したら、傍にいる者も呪力に蝕まれる。
自身の大切な人間を失ったことへの絶望でも病巣は生まれ、『マタ』を発症した者は絶望しながらもこの世を恨んで死して逝く。
どんな経緯で『マタ』を発症したにせよ、絶望と恨み、憎悪がある限りは『マタ』への対抗策などない。
ただそんな中、止まらない負の連鎖を断ち切る者が生まれる。それが呪術師と言う存在だった。
彼らはこの世の呪いというものにあらゆる予測を立てては議論を重ね、呪力を解析した結果、憎悪を元に呪力を生み出す“法”へと辿り着く。
そしてそれらを正しく使うことで、『マタ』や『ゴースト』へ対抗する唯一の存在と化したのだ。
改暦200年。この区切りのついた年に3つの呪術師の家系が誕生した。
呪術を解析し、その“法”を編み出したのは、タチバナ家とツチミカド家、クチナシ家の3つの呪術師。
だが、僅か数年でツチミカド家は意見の対立で派閥が分かれ、対立した上に生まれたキクキョウ家も呪術師の家系に加わることになる。
ここから、この4つの家系は協力して呪力から人々を守る盾として奮起することとなる。
だが、改暦260年。この世に第三の災厄がこの世に顕現する。
その災厄がこの世に顕現したその瞬間、人々を守る為の唯一の盾である3つの家系は諸共根絶やしにされたのだ。
3つの呪術師の家系が災厄によって滅んだことは、はたして偶然だったのか。
その真実は、災厄によって3つの呪術師の家系が滅んだ827年後——改暦1087年に明るみとなる。
あの災厄で唯一生き残ったキクキョウ家の系譜を継ぐ男は、ある真実を知ることになってしまった。
真実を知ったのは、現キクキョウ家の当主であったトウヤ・キクキョウ。
彼はこの真実を聞いたとき、あの災厄が3つの家を壊滅にせしめたのは偶然ではないことを知る。
あれは、人の悪意によって顕現した災厄。
そしてあの災厄は生贄がなければ、この世界に顕現するはずがないとキクキョウ家に残された古い手記に記されていたのだ。
実は改暦260年前後、キクキョウ家を含めた4つの家は呪術師の頂点として天下を握る覇権争いを12年にも及んで繰り広げていた。
そんな中、4つの家系がいがみ合うことで生まれた負の感情が、災厄を喚ぶ生贄となって災厄は彼らを小馬鹿にするように彼らを蹂躙する。
タチバナ家とツチミカド家、クチナシ家——この3家の人間は誰1人残すことなく災厄に呑まれて、系譜を絶たれた。
唯一生き残ったキクキョウ家は、なんとか顕現した災厄を鎮めたと手記にあったが、それはあくまで表向きの話。
以降、キクキョウ家は唯一人類を『マタ』や『ゴースト』から守る盾となる訳だが、そんな純粋な正義を掲げていられたのも精々100年にも満たなかった。
いつか、キクキョウ家では血で血を染める争いを一族内で繰り返していく。
中でも彼らが咎められるべき罪過は、キクキョウ家から逃げ出した呪術師が、市井に下って一般市民に呪術を広めたことだ。
結果、『聖火隊』を始めとしたいくつかの対『マタ』及び『ゴースト』の組織が生まれるが、彼らも一枚岩とはいかなかった。
『血濡れの剣』はリアムを討つという大義を掲げ、勇士を集うも改暦1000年を越えても未だ彼を討てていない。
と言うのもリアムがヘレ・ソフィアによって弱体化され、眠らされていたと言う過去も深く関係していた。
ヘレ・ソフィアはリアムを弱体化させたとき、万が一に備えてリアムに手出しが出せない様に結界を張ったのだ。
その結界は内側にいるリアムへも作用するため、リアムは今の今まで動けなかった。
『血濡れの剣』の兵士からすれば、最大の手柄となり得そうな存在を討てないとなると都合が悪い。
本当は最恐最悪の邪神を弱体化したとは言え、倒せないのは百も承知である。
けれども名誉と神の尖兵という肩書きが欲しいと言う強欲さが、今まで何千人の骸を積み上げたことか。
おかげで唯一リアムを討てそうな希望は、結局原点回帰し呪術師——もといキクキョウ家の人間だけとなる。
だが、彼らもリアムを討つことが今後もキクキョウ家を支えていく上で負担しかないことを重々承知していた。
どうにか、小精鋭かつ最低限の負担でリアムを討つことは出来ないか。
そうやって議論を重ねた結果、キクキョウ家の現当主であるトウヤ・キクキョウはある計画を発案する。
その計画こそ、リアム並みの呪力を留めた人造人間を単騎で造り上げること。
一騎当千の勇士とは、自軍によっては諸刃の剣である。
だが、理想通りにそんな存在を造れたのならば、こちらが失うものは極限まで減らすことが出来る。
そんな空論をトウヤは立てるも、ある問題点に頭を悩ませた。
この人造人間を造るには、リアムを上回る程の呪力が必要だと。
では、その呪力の確保はどうするべきか。そしてなにより、それだけの呪力をどうやって一定に保ち続ければいいのかと。
無論、こんなものは机上の空論だ。
そもそも、呪力と言うものは感情の乱れによって、呆気なく仕手を呑みこみ正気を失わせてしまう。
しかも最悪、仕手を廃人化させる可能性も高いのだ。
ゆえに、何億人が絶望の淵で抱いた憎悪を1人の体に埋め込めば器が持たない。
ならばその欠点を克服すればどうすればいいかと、さらにトウヤは案を練って邪道へと足を踏み外し、出した答えがこうだ。
身体の一部を無機物とし、生身でない箇所に呪力を埋め込み、肉体とは切り離す。
その上で、仕手は場合によって改造された箇所から呪力を汲み取って呪術を行使すればいい。
これは呪具を元に構想した計画だが、確かに構想だけならば練ることは可能だ。
だが実際、この計画を実行することなど改暦を生きる人間からすれば神業にも等しかった。
そもそも、体に結合する呪力の受け皿はなにで作ればいい?
そんな問いに、鎧や鉄がいいだろうとキクキョウ家の人間の中で方針が決まる。
しかしどうやって、無機物と身体を結合させるかと言う難題が彼らの前に立ち塞がった。
さらに、問題点は議題が進めば進むほどより増えていく。
とは言え、賭けてみる価値はあるだろうとキクキョウ家のほとんどの人間がこの計画に賛成した。
ただ、だからと言って自ら実験体になる覚悟を持つ者はいない。
結局この計画も潰えるかと皆が諦めた刹那、ある少年が自身が実験体になると立候補した。
実験体に立候補した少年の名はトキツカ・キクキョウ。
キクキョウ家本家の血筋を受け継いだ、トウヤの実弟である。
彼は何故か生まれつき憎悪がなく、呪力さえ扱えないことから同類であった双子の兄と共に劣等生と一族から煙たがられていた。
こうしてトキツカは、この悪夢のような実験を開始するきっかけとなってしまう。
だがこれは決して偶然ではなく、トウヤ自身、トキツカが自ら実験体に立候補するタイミングを裏で見計らっていたのだ。
こいつならその正義感と純朴さゆえ、この計画にその身を捧げることを厭わないと。
結果、トキツカは呆気なく実験の過程で全身を鉄の塊にされて息絶えた。
同時に、彼を愛していた双子の兄は絶望の淵に堕とされる。
その後、双子の兄であるカゲフミ・キクキョウと言う少年は、弟を死に至らしめた実兄だけでなく、キクキョウ家そのものを潰すと復讐を誓う。碌に呪力も扱えないその身でだ。
だが、復讐を誓った彼は止まらない。
復讐に心を侵された彼は、不可能であった悪夢の計画をいとも容易く完成へと導いた。
しかし、だからと言ってカゲフミはキクキョウ家に従う気などなかった。
彼の悲願はただ1つ。
リアムが持つ『■■』と言うリアムの呪力の塊を奪取し、それを解析する。
もし、『■■』と言う存在がキクキョウ家の求めていたものそのものなら、それを奪取。
そしてもし出来るのであれば『■■』を利用して、自身とトキツカが失った体を取り戻すためのヒントとすると、彼もまた兄と同じく狂気に駆られたのだった。
はい、今回から12話になりましたがここでキクキョウ家と呪術師の裏側が明かされました。
「なんでなん!?」と思うかもしれませんが、どうかお許しを。まだカゲフミの過去と目的については語られていません。つまりここで伏線回収か……!?
にしても闇が深い。そろそろ作者自身も癒しが欲しくなって参りました(by修正作業をしている最中の織坂)
いい加減、次回あたりにはラインバレル君も絶望の淵に立たされる……はず。
余談ですが、pixivにてキャラクターデザインの公開を始めました。
もし気になる方はpixivの方を見ていただけると嬉しいです。
⚔55話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後の閲覧を推奨します※)
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3171685/




